ずっと、いっしょ。

名前を呼ばれている。
暗い。
水の底みたいな場所。

「……キョウ」

声は、遠いのに近い。
必死だ。
縋るようで、でも怒っていない。
ただ、呼んでいる。

「キョウ」

振り向こうとする。
体が重い
足元で、白い揺れが漂う。
それとは違う。
もっと輪郭のある影が、沈まないように立っている。

「こっち」

手が伸びる。
その瞬間。
背後から、冷たい風。
耳元に、低い声。

「行くな」

世界が歪む。
白い揺れが波立つ。
伸ばしかけた手が、遠のく。

「キョウ」

最後にもう一度。
切れる、目が覚める
自室の天井。
汗ばんだ首。
バクバクと心臓がうるさい。
夢。
なのに。
まだ耳の奥に残っている。

「……誰だよ」

呟く。
カーテンが、わずかに揺れている。
窓は閉まっている。
風はない。
なのに
一瞬、外に影が立っていた気がした。
背の高さ、見慣れた輪郭。
瞬き。
いない
朝の登校。
校門の前で、タツキが手を上げる。

「おはよ」

いつも通り。
穏やか。

「昨日、遅くまで起きてた?」

心臓が止まりかける。

「……なんで」

「電気、ついてた」

さらっと言う。
キョウの家は二階。
通りからは見えない角度。

「たまたま通ったときにね」

笑う。
自然すぎる。
でも
昨日、あの時間。
誰も通らない住宅街の奥だ。

「……何時?」

「一時くらい?」

正確すぎる。
夢から覚めた時間だ。
喉が渇く。

「変な夢でも見た?」

目が合う
優しい
でも、奥が冷たい。
キョウは視線を逸らす。
言えない。
呼ばれたこと
伸ばしかけた手。

「キョウ」

その呼び方が、ほんの一瞬だけ重なる。
夢の声と
ぞくりとする。
授業中。
ノートに名前を書く。

キョウ。

その下に、無意識にもう一つ書いている。

タツ—

手が止まる。
違う
違う
でも、夢の中で聞いた声は、あの響きは

帰り道
タツキが一歩前を歩く
夕陽が差す。
影が長い。
ふと
影が、二重にぶれる。
ほんの一瞬。
もう一つの影が、横に立つ。
振り向く
誰もいない。
でも耳の奥で。

「キョウ」

今度は、はっきり。
助けを求める声。
タツキが振り返る。

「どうした?」

その声が、重なる。
二つ
同じ高さ。
同じ音。
でも、温度が違う。
キョウは理解しきれないまま、確信だけが残る。

夢は、夢じゃない。

呼んでいるのは。
まだ、消えていない。
そして
昨夜、窓の外にいたのは。

――誰だ。