その夜
キョウは、すぐに眠りに落ちた。
疲れていたはずなのに、
体は重くない。
夢を見る。
暗い。
水の底みたいな場所。
足元が見えない。
ただ、揺れている。
遠くで、声がする。
「……キョウ」
誰かが呼ぶ。
低くない。
優しい声。
聞いたことがある。
「キョウ」
今度は、少し近い。
振り向きたくなる。
でも。
体が動かない。
「……」
名前が続く。
呼ばれるたびに、胸が締めつけられる。
懐かしい。
泣きそうになる。
「キョウ」
はっきりした。
誰だ。
思い出せない。
でも。
大切な声。
助けを求めているような。
違う。
ただ、呼んでいるだけ。
責めない。
怒らない。
ただ。
「キョウ」
闇の奥に、影が立っている。
形はぼやけている。
白い。
細い。
揺れている。
でも。
怖くない。
不思議と。
安心してしまう。
足が、前に出る。
近づこうとする。
その瞬間。
別の声が重なる。
同じ声帯。
少しだけ低い。
「大丈夫」
背中に、温もり。
抱きしめられる感覚。
「俺がいる」
暗闇が、少し薄くなる。
呼んでいた声が、遠ざかる。
まだ、呼んでいる。
でも、弱い。
水の底に沈んでいくみたいに。
「キョウ」
最後に、一度だけ。
はっきりと。
胸が痛む。
でも。
キョウは振り向かない。
温もりのほうを選ぶ。
目が覚める。
朝。
天井が白い。
隣で、タツキが眠っている。
穏やかな寝顔。
何も変わらない。
胸の奥に、微かな痛みだけが残っている。
誰かに呼ばれていた気がする。
誰だっけ。
思い出せない。
思い出さなくていい。
準備をして外へ出ると、
「……おはよう」
タツキが目を開ける。
柔らかい声。
キョウは、笑う。
「おはよう」
夢は、溶ける。
名前だけが、少しだけ残る。
消えかけの、もうひとつの声。
キョウは、すぐに眠りに落ちた。
疲れていたはずなのに、
体は重くない。
夢を見る。
暗い。
水の底みたいな場所。
足元が見えない。
ただ、揺れている。
遠くで、声がする。
「……キョウ」
誰かが呼ぶ。
低くない。
優しい声。
聞いたことがある。
「キョウ」
今度は、少し近い。
振り向きたくなる。
でも。
体が動かない。
「……」
名前が続く。
呼ばれるたびに、胸が締めつけられる。
懐かしい。
泣きそうになる。
「キョウ」
はっきりした。
誰だ。
思い出せない。
でも。
大切な声。
助けを求めているような。
違う。
ただ、呼んでいるだけ。
責めない。
怒らない。
ただ。
「キョウ」
闇の奥に、影が立っている。
形はぼやけている。
白い。
細い。
揺れている。
でも。
怖くない。
不思議と。
安心してしまう。
足が、前に出る。
近づこうとする。
その瞬間。
別の声が重なる。
同じ声帯。
少しだけ低い。
「大丈夫」
背中に、温もり。
抱きしめられる感覚。
「俺がいる」
暗闇が、少し薄くなる。
呼んでいた声が、遠ざかる。
まだ、呼んでいる。
でも、弱い。
水の底に沈んでいくみたいに。
「キョウ」
最後に、一度だけ。
はっきりと。
胸が痛む。
でも。
キョウは振り向かない。
温もりのほうを選ぶ。
目が覚める。
朝。
天井が白い。
隣で、タツキが眠っている。
穏やかな寝顔。
何も変わらない。
胸の奥に、微かな痛みだけが残っている。
誰かに呼ばれていた気がする。
誰だっけ。
思い出せない。
思い出さなくていい。
準備をして外へ出ると、
「……おはよう」
タツキが目を開ける。
柔らかい声。
キョウは、笑う。
「おはよう」
夢は、溶ける。
名前だけが、少しだけ残る。
消えかけの、もうひとつの声。
