ずっと、いっしょ。

昼休みが終わる直前。
廊下は少しざわついている。
キョウは、自分のクラスに戻ろうとして――
階段の踊り場に、タツキの姿を見つけた。
別クラスだから、校舎の配置が少し違う。
珍しい。

「タツキ」

声をかける。
振り向く。

「おう」

いつもの顔。
自然な笑み。

「どこ行くの」
「ちょっと職員室」

軽い口調。
階段を上る。
キョウも、なんとなく後を追う。
理由はない。
ただ、離れたくなかった。
階段の窓から、強い光が差し込む。
昼の光。
白く、はっきりした影を床に落とす。
タツキの背中。
その足元に伸びる影。
一段、また一段。
上っていく。
そのとき。
光が、少し角度を変えた。
影が、はっきりと濃くなる。
――ぶれた。
一瞬だけ。
縦に、細く、伸びた。
人の形を保ったまま。
でも。
肩の位置が、ずれている。
首が、長い。
揺れた。
風はない。
窓は閉まっている。
なのに。
影だけが、波打つ。
キョウの足が止まる。
心臓が、遅れる。
タツキは気づかない。
いや。
気づいていないふりか。
影が、もう一度ぶれる。
今度は、はっきり。
タツキの足より、半歩遅れて動く。
ずれている。
影なのに。
ついてこない


「……タツキ」

声が掠れる。
タツキが振り向く。
光を背に受ける。
逆光。
表情が見えない。
その背後の影が。
一瞬だけ。
二重になる。
細長い白が、黒に混じる。
揺れる。
キョウと、目が合う。
逆光の中で。
瞳が、わずかに細まる。

「どうした?」

声は、普通。
階段に反響する。
影は、戻っている。
普通の形。
さっきのぶれは、ない。

「……いや」

喉が渇く。

「なんでもない」

言ってしまう。
タツキは、じっと見ている。
長い。
一秒。
二秒。
それから、笑う。

「ぼーっとしてんなよ」

軽く言って、また上っていく。
影は、正常だ。
もう、ぶれない。
でも。
キョウの視界には、焼きついている。
“ずれ”。
あれは、光のせいじゃない。
見間違いじゃない。
確かに影が、独立していた。
足音が遠ざかる。
キョウは階段の途中で立ち尽くす。
窓の外
校庭
風はない
なのに、
旗が、かすかに揺れた気がした。
胸の奥が冷える。
ここまで来ている
何かが
自分の隣にいるものが。
でも追いかける。
結局、追いかける。
階段を上る。
選んでいる。
また、気づいていないふりを。
光は強い。
影は、ひとつ。
それでもどこか、少しだけ。
長い気がした。