宮野は、戻らなかった。
三日目。
五日目。
一週間。
教室の空気は、少しずつ落ち着いていく。
人は慣れる。
空席にも。
担任が言う。
「家庭の事情で、しばらく休むことになりました」
曖昧な説明。
それで終わる。
キョウは、違和感を覚える。
“行方不明”じゃなかったか?
昨日まで、ニュースになっていた。
スマホを開く。
検索する。
名前を打つ。
出ない。
候補すら出ない。
履歴を見返す。
確かに検索した。
ニュースも見た。
なのに何もない。喉が乾く。
昼休み。
キョウは隣の席のやつに聞く。
「宮野ってさ」
「えっ宮野って誰?」
笑われる。
「そんなやついた?」
冗談だと思う。
でも、目は本気だ。
キョウは教室を見渡す。
宮野の席だった場所。
そこには、最初から机がひとつ少なかったみたいに自然な空間がある。
違和感がない。
完璧に。
担任に聞く。
「宮野って、いましたよね」
怪訝な顔。
「転校生の話か?」
「違います」
「うーん、このクラスに宮野という生徒はいないぞ」
はっきりと言われる。
頭が白くなる。
廊下に出る。
息が荒い。
おかしい。
おかしい。
昨日までいた。
話した。
触れた。
忠告された。
“離れたほうがいい”
その声が、薄れていく。
録音でも残っていないかとスマホを見る。
通話履歴。
メッセージ。
写真。
何もない。
集合写真を開く。
文化祭。
みんな笑っている。
そこに。
いたはずだ。
でも。
空白。
人一人分、妙に詰まった構図。
最初から、そこに誰もいなかったみたいに。
背中が冷たくなる。
「キョウ」
声がする。
振り向く。
タツキが立っている。
別クラスなのに、なぜここに。
「顔色悪い」
自然な顔。
優しい声。
「宮野が」
言いかける。
喉が止まる。
名前が、遠い。
“みや……?”
思い出せない。
焦る。
何か大事なものが、砂みたいにこぼれていく。
「どうした?」
タツキが近づく。
肩に手が置かれる。
温かい。
安心する。
「誰のこと?」
柔らかい問い。
キョウは、口を開く。
でも。
出てこない。
存在が、薄い。
思い出そうとすると、頭が痛い。
「……なんでもない」
言ってしまう。
その瞬間。
何かが確定する。
タツキは微笑む。
ほんの少しだけ。
安堵の色。
「最近、疲れてるんだよ」
優しく言う。
「俺がいるだろ」
その言葉が、甘い。
甘くて、重い。
キョウは、頷いてしまう。
帰り道。
田んぼの横。
風がない。
なのに。
白いものが揺れている。
ひとつ。
ふたつ。
……みっつ。
キョウは立ち止まる。
胸がざわつく。
“誰か”
何かを忘れている。
大事な。
大事な。
でも。
思い出さなくていい気がする。
隣を見る。
タツキがいる。
ちゃんといる。
それでいい。
白いものが、少し増えた。
風は、吹いていない。
三日目。
五日目。
一週間。
教室の空気は、少しずつ落ち着いていく。
人は慣れる。
空席にも。
担任が言う。
「家庭の事情で、しばらく休むことになりました」
曖昧な説明。
それで終わる。
キョウは、違和感を覚える。
“行方不明”じゃなかったか?
昨日まで、ニュースになっていた。
スマホを開く。
検索する。
名前を打つ。
出ない。
候補すら出ない。
履歴を見返す。
確かに検索した。
ニュースも見た。
なのに何もない。喉が乾く。
昼休み。
キョウは隣の席のやつに聞く。
「宮野ってさ」
「えっ宮野って誰?」
笑われる。
「そんなやついた?」
冗談だと思う。
でも、目は本気だ。
キョウは教室を見渡す。
宮野の席だった場所。
そこには、最初から机がひとつ少なかったみたいに自然な空間がある。
違和感がない。
完璧に。
担任に聞く。
「宮野って、いましたよね」
怪訝な顔。
「転校生の話か?」
「違います」
「うーん、このクラスに宮野という生徒はいないぞ」
はっきりと言われる。
頭が白くなる。
廊下に出る。
息が荒い。
おかしい。
おかしい。
昨日までいた。
話した。
触れた。
忠告された。
“離れたほうがいい”
その声が、薄れていく。
録音でも残っていないかとスマホを見る。
通話履歴。
メッセージ。
写真。
何もない。
集合写真を開く。
文化祭。
みんな笑っている。
そこに。
いたはずだ。
でも。
空白。
人一人分、妙に詰まった構図。
最初から、そこに誰もいなかったみたいに。
背中が冷たくなる。
「キョウ」
声がする。
振り向く。
タツキが立っている。
別クラスなのに、なぜここに。
「顔色悪い」
自然な顔。
優しい声。
「宮野が」
言いかける。
喉が止まる。
名前が、遠い。
“みや……?”
思い出せない。
焦る。
何か大事なものが、砂みたいにこぼれていく。
「どうした?」
タツキが近づく。
肩に手が置かれる。
温かい。
安心する。
「誰のこと?」
柔らかい問い。
キョウは、口を開く。
でも。
出てこない。
存在が、薄い。
思い出そうとすると、頭が痛い。
「……なんでもない」
言ってしまう。
その瞬間。
何かが確定する。
タツキは微笑む。
ほんの少しだけ。
安堵の色。
「最近、疲れてるんだよ」
優しく言う。
「俺がいるだろ」
その言葉が、甘い。
甘くて、重い。
キョウは、頷いてしまう。
帰り道。
田んぼの横。
風がない。
なのに。
白いものが揺れている。
ひとつ。
ふたつ。
……みっつ。
キョウは立ち止まる。
胸がざわつく。
“誰か”
何かを忘れている。
大事な。
大事な。
でも。
思い出さなくていい気がする。
隣を見る。
タツキがいる。
ちゃんといる。
それでいい。
白いものが、少し増えた。
風は、吹いていない。
