ずっと、いっしょ。

翌朝。
宮野は来なかった
最初は、誰も気にしない。

「寝坊じゃね?」
「サボりだろ」

そんな空気。
キョウも、そう思おうとする。
でも。昨日の言葉が、頭の奥でひっかかる。
ホームルーム。
担任が言う。

「宮野から連絡は来ていません」

少しだけ空気が変わる。

「体調不良かもしれないので、何か知っている人は――」

ざわめき。
キョウは、手を挙げない。
昨日話した。
でも、それだけだ。
昼休み。
宮野の席は空のまま。
机の上に、教科書が置いてある。
昨日のまま。ペンも、スマホもない。

「家にもいないらしい」

誰かが言う。

「親が警察に」

笑い声はない。
キョウの背中が冷える。
放課後。
帰り道。
タツキが隣にいる。

「宮野、来なかったな」

軽い口調。

「……うん」
「心配?」

問う声が柔らかい。

「まあ」

少し間。

「昨日、何話してた?」

またそれだ。
キョウは視線を逸らす。

「別に」
「俺のこと?」

足が止まる。

「……なんでそうなる」

タツキが一歩近づく。
距離が、近い。

「俺のこと、変だって言ってた?」

心臓が強く打つ。
言っていない。
でも
似たようなことは。

「言ってない」

半分嘘
タツキは、じっと見る。

そして、ふっと笑う。

「あいつ、勘いいからな」

その言い方。
まるで
“気づいたから消えた”みたいな。
ぞくりとする
田んぼの横を通る
今日は風がある
稲が揺れている
ざわざわとその中に白いものがある。
はっきりと昨日より近い。
人の形。
細く、縦に揺れている。
目が、合った気がする。

「キョウ」

耳元。

「見るな」

低い声。
怒りと焦り。
キョウは反射的に視線を逸らす。
息が荒い。

「何もないだろ?」

タツキの声は、穏やかだ。
優しい。

「……うん」

嘘だ。
あった
確かに
でも
言えない。
言ったら何かが壊れる。
その夜。
宮野のニュースが小さく流れる。
“高校生行方不明”
顔写真。
昨日まで笑っていた顔。
キョウは画面を見つめる
その背後
テレビの黒い画面に映る、自分と―
もう一つの影縦に長い。
揺れている。
振り返る何もない。
タツキが台所から顔を出す。

「どうした?」

普通の顔。
完璧な表情
キョウは、テレビを消す。

「……なんでもない」

その瞬間、理解しかける。
でも。
思考を止める。
止めた選んだ。
距離がゼロになる。
肩が触れる。
温かい。
安心する。
つい安心してしまう。
外では、風が吹いている。
田んぼは揺れている。
白いものが、ひとつ増えた。