葬儀は、あっけなかった。
黒い服。
焼香の匂い。
知らない親戚の声。
「いいおばあちゃんだったね」
「急だったね」
どれも遠い。
キョウは頷くだけだった。
祖母の遺影は、笑っている。
生きているみたいに。
棺に花を入れるとき、
キョウはふと考えた。
ばあちゃんは、何を見た?
あのとき。
「後ろ」
喉がひりつく。
視線を感じる。
反射的に振り返りそうになる。
やめる。
振り返るな。
最後の言葉。
隣に、タツキがいる。
黒いネクタイ。
見慣れないほど静かな顔。
「大丈夫か」
低い声。
「……うん」
嘘だ。
大丈夫じゃない。
でも、そう言うと
タツキが少しだけ安心したように息を吐く。
それが、なぜか嬉しい。
火葬場。
白い煙が上がる。
キョウは目を逸らす。
白いもの。
田んぼ。
揺れ。
一瞬、煙の中に
細く長い影を見た気がした。
目を閉じる。
見ない。
見ない。
肩に手が置かれる。
「俺がいるだろ」
優しい声。
キョウは、その手に触れる。
温かい。
確かめるみたいに、握る。
「……うん」
それだけで、少し落ち着く。
祖母の家は、空っぽになる。
線香の匂いが残る居間。
仏壇の前。
キョウは一人で座る。
遺品整理をしなきゃ、と頭ではわかっている。
でも動けない。
畳に影が落ちている。
二つ。
夕陽が差し込んでいるだけ。
わかっている。
わかっているのに。
「なあ」
声がする。
タツキが、いつの間にか背後に立っている。
音がしなかった。
「今日は、俺んち来いよ」
当然のように言う。
「一人だと、嫌だろ」
断る理由が、思いつかない。
本当は、祖母の家にいたい。
でも。
一人は、嫌だ。
「……行く」
タツキは笑う。
ほっとしたみたいに。
「よかった」
その表情が、少しだけ強張って見える。
安堵というより。
確保、みたいな。
夕方の道を二人で歩く。
田んぼは静かだ。
今日は揺れていない。
でも。
視界の端に、何かがいる気がする。
見ない。
振り返らない。
隣にいる温もりに集中する。
タツキの腕が、軽く触れる。
わざとか、偶然か。
「なあキョウ」
「ん?」
「俺、いなくならないから」
唐突だ。
足が止まりかける。
「……何でそんなこと」
「言っとこうと思って」
笑う。
いつもの顔。
でも、瞳の奥が深い。
底が見えない。
「ずっと一緒だろ」
その言葉は、慰めのはずだ。
なのになぜか、檻の音がした気がした。
キョウは、小さく頷く。
「……うん」
それしか言えない、夕陽が沈む。
二人の影が伸びる。地面に並ぶ。
ぴたりと、重なる。
重なったはずなのに。
一瞬だけ。
影が、三つに見えた。
瞬きをする。
二つだ。
もちろん、二つだ。
風は、吹いていない。
黒い服。
焼香の匂い。
知らない親戚の声。
「いいおばあちゃんだったね」
「急だったね」
どれも遠い。
キョウは頷くだけだった。
祖母の遺影は、笑っている。
生きているみたいに。
棺に花を入れるとき、
キョウはふと考えた。
ばあちゃんは、何を見た?
あのとき。
「後ろ」
喉がひりつく。
視線を感じる。
反射的に振り返りそうになる。
やめる。
振り返るな。
最後の言葉。
隣に、タツキがいる。
黒いネクタイ。
見慣れないほど静かな顔。
「大丈夫か」
低い声。
「……うん」
嘘だ。
大丈夫じゃない。
でも、そう言うと
タツキが少しだけ安心したように息を吐く。
それが、なぜか嬉しい。
火葬場。
白い煙が上がる。
キョウは目を逸らす。
白いもの。
田んぼ。
揺れ。
一瞬、煙の中に
細く長い影を見た気がした。
目を閉じる。
見ない。
見ない。
肩に手が置かれる。
「俺がいるだろ」
優しい声。
キョウは、その手に触れる。
温かい。
確かめるみたいに、握る。
「……うん」
それだけで、少し落ち着く。
祖母の家は、空っぽになる。
線香の匂いが残る居間。
仏壇の前。
キョウは一人で座る。
遺品整理をしなきゃ、と頭ではわかっている。
でも動けない。
畳に影が落ちている。
二つ。
夕陽が差し込んでいるだけ。
わかっている。
わかっているのに。
「なあ」
声がする。
タツキが、いつの間にか背後に立っている。
音がしなかった。
「今日は、俺んち来いよ」
当然のように言う。
「一人だと、嫌だろ」
断る理由が、思いつかない。
本当は、祖母の家にいたい。
でも。
一人は、嫌だ。
「……行く」
タツキは笑う。
ほっとしたみたいに。
「よかった」
その表情が、少しだけ強張って見える。
安堵というより。
確保、みたいな。
夕方の道を二人で歩く。
田んぼは静かだ。
今日は揺れていない。
でも。
視界の端に、何かがいる気がする。
見ない。
振り返らない。
隣にいる温もりに集中する。
タツキの腕が、軽く触れる。
わざとか、偶然か。
「なあキョウ」
「ん?」
「俺、いなくならないから」
唐突だ。
足が止まりかける。
「……何でそんなこと」
「言っとこうと思って」
笑う。
いつもの顔。
でも、瞳の奥が深い。
底が見えない。
「ずっと一緒だろ」
その言葉は、慰めのはずだ。
なのになぜか、檻の音がした気がした。
キョウは、小さく頷く。
「……うん」
それしか言えない、夕陽が沈む。
二人の影が伸びる。地面に並ぶ。
ぴたりと、重なる。
重なったはずなのに。
一瞬だけ。
影が、三つに見えた。
瞬きをする。
二つだ。
もちろん、二つだ。
風は、吹いていない。
