家は、静かだった。母は病院に泊まると言っていた。祖母の熱がぶり返したらしい。
リビングの灯りだけをつけて、ソファに座る。テレビは消している。黒い画面に、自分が映るから。
……いや。映っても、別に何もないはずだ。
立ち上がり、窓際へ行く。カーテンを少しだけ開ける。
夜の庭。
揺れていない木。
風はない。
ガラスに、自分の姿が映る。一人。ちゃんと一人。安堵しかけた、そのとき。
背後に、もう一つ影が立った。
細い。
異様に縦に長い。
天井まで届く白。
くねる。
ゆっくりと。
風もないのに。
息が止まる。
振り向けない。
ガラスの中で、それは俺のすぐ後ろにいる。
肩に触れそうな距離。
白い表面が裂ける。
中は、暗い。
暗い穴が、いくつも、縦に並ぶ。
目だと理解するまで、数秒かかった。
視線が合う。
頭の奥が軋む。
その瞬間。
ガラスの中に、もう一人立った。
俺の右側。
見慣れた輪郭。
タツキ。
でも部屋には俺しかいない。
ガラスの中では、
俺。
タツキ。
白いもの。
三人。
「……三人」
声が漏れた瞬間、白いものが大きく揺れた。
音がする。
風の音。
室内で。
電灯が明滅する。
耳の奥で、低い声が響く。
――見るな。
自分の声じゃない。
タツキの声でもない。
それでも、知っている響き。
目を閉じる。
数秒。
ゆっくり開く。
ガラスには、俺一人。
足が震える。
そのとき、スマホが鳴った。
母から。
『キョウ、今すぐ来なさい』
声が切迫している。
『おばあちゃん、目を覚ましたの。あんたを呼んでる』
喉が乾く。
「行く」
上着を掴み、家を飛び出す。
