祖母が入院してから、タツキは変わった。
……いや。
変わったというより、増えた。連絡が。
《起きてる?》
《朝ごはん食べた?》
《今どこ》
《帰ったら連絡して》
過保護。
そう思う。
でも、嫌じゃない。
むしろ、落ち着く。
自分のことをちゃんと見てくれている感じがする。
学校でも同じだった。
昼休み、必ず顔を出す。
「ちゃんと食ってる?」
「食ってるって」
「少な」
勝手に唐揚げを一つ乗せてくる。
「太る」
「太れ」
笑う。
周りの友達が冷やかす。
「お前ら付き合ってんの?」
「違う」
即答する。
でも、否定の声が少し弱い。
放課後も。
「今日、病院行く?」
「うん」
「一緒に行く」
「いいって」
「いいから」
並んで歩く。
自然に、指が触れる。
離れない。
祖母の病室でも、タツキはよく気がついた。
水を替え、枕を直し、母に頭を下げる。
「いい子ねえ」
母が言う。
祖母は眠っている。
まだ熱が下がりきらない。
その顔を見つめながら、タツキは微笑む。
やわらかく。
静かに。
「大丈夫ですよ」
母に言う声は、本当に優しい。
俺はその横顔を見る。
安心する。
この人がいれば、大丈夫。
そんな気がする。
帰り道。
「なあ」
タツキが言う。
「最近、宮野たちとあんま話してないな」
「そう?」
「俺といるから?」
冗談みたいに言う。
「別に」
「……別に、いいけどさ」
少しだけ、距離が近づく。
「俺は嬉しい」
胸が、じわっと温かくなる。
「キョウが俺といる時間、増えるの」
その言い方が、甘い。
依存。
そんな言葉は浮かばない。
ただ、心地いい。
夜。
ベッドに寝転ぶ。
スマホが震える。
《今何してる》
《寝るとこ》
《電話していい?》
少し迷う。
《うん》
すぐに着信。
耳に当てると、呼吸が近い。
「……何」
『別に』
「切るぞ」
『やだ』
笑う。
その声が、やけに低い。
『キョウの声、落ち着く』
「は?」
『今日さ』
少し間。
『あの病院の廊下、何か見た?』
心臓が跳ねる。
「何も」
『だよな』
すぐに明るくなる。
『気のせいだよな』
「……うん」
『見るなよ』
冗談みたいに言う。
でも。
背筋がひやりとする。
「何を」
『俺以外』
沈黙。
笑い声。
『冗談』
通話が切れる。
部屋は静かだ。
胸が高鳴っている。
怖い、とは思わない。
むしろ。
必要とされている感じが、嬉しい。
依存、という言葉を知らないまま。
俺はスマホを握りしめる。
画面に映る自分の顔のすぐ後ろに。
わずかに白い揺れが走った気がした。
でも。
振り返らない。
振り返る理由が、もうない。
……いや。
変わったというより、増えた。連絡が。
《起きてる?》
《朝ごはん食べた?》
《今どこ》
《帰ったら連絡して》
過保護。
そう思う。
でも、嫌じゃない。
むしろ、落ち着く。
自分のことをちゃんと見てくれている感じがする。
学校でも同じだった。
昼休み、必ず顔を出す。
「ちゃんと食ってる?」
「食ってるって」
「少な」
勝手に唐揚げを一つ乗せてくる。
「太る」
「太れ」
笑う。
周りの友達が冷やかす。
「お前ら付き合ってんの?」
「違う」
即答する。
でも、否定の声が少し弱い。
放課後も。
「今日、病院行く?」
「うん」
「一緒に行く」
「いいって」
「いいから」
並んで歩く。
自然に、指が触れる。
離れない。
祖母の病室でも、タツキはよく気がついた。
水を替え、枕を直し、母に頭を下げる。
「いい子ねえ」
母が言う。
祖母は眠っている。
まだ熱が下がりきらない。
その顔を見つめながら、タツキは微笑む。
やわらかく。
静かに。
「大丈夫ですよ」
母に言う声は、本当に優しい。
俺はその横顔を見る。
安心する。
この人がいれば、大丈夫。
そんな気がする。
帰り道。
「なあ」
タツキが言う。
「最近、宮野たちとあんま話してないな」
「そう?」
「俺といるから?」
冗談みたいに言う。
「別に」
「……別に、いいけどさ」
少しだけ、距離が近づく。
「俺は嬉しい」
胸が、じわっと温かくなる。
「キョウが俺といる時間、増えるの」
その言い方が、甘い。
依存。
そんな言葉は浮かばない。
ただ、心地いい。
夜。
ベッドに寝転ぶ。
スマホが震える。
《今何してる》
《寝るとこ》
《電話していい?》
少し迷う。
《うん》
すぐに着信。
耳に当てると、呼吸が近い。
「……何」
『別に』
「切るぞ」
『やだ』
笑う。
その声が、やけに低い。
『キョウの声、落ち着く』
「は?」
『今日さ』
少し間。
『あの病院の廊下、何か見た?』
心臓が跳ねる。
「何も」
『だよな』
すぐに明るくなる。
『気のせいだよな』
「……うん」
『見るなよ』
冗談みたいに言う。
でも。
背筋がひやりとする。
「何を」
『俺以外』
沈黙。
笑い声。
『冗談』
通話が切れる。
部屋は静かだ。
胸が高鳴っている。
怖い、とは思わない。
むしろ。
必要とされている感じが、嬉しい。
依存、という言葉を知らないまま。
俺はスマホを握りしめる。
画面に映る自分の顔のすぐ後ろに。
わずかに白い揺れが走った気がした。
でも。
振り返らない。
振り返る理由が、もうない。
