初恋は永遠に

 「そろそろ落ち着いた?」

 「ゔん。おぢづいだ」

 俺は風岡の優しさに包まれながら泣きじゃくっていた。

 「ちょっと鼻かんだら?」

 そう言って涙やら鼻水やらでグチョグチョになっている俺に、部屋にあったティッシュを渡してくれる。

 「急にどうしたの?雪菜のことで何か思い出したとか?」

 「俺さ…昨日さ…いやここでは昨日じゃないんだけど…」

 「えっ…どういうこと?」

 本当にどういうこと何だろうか。

 風岡の言うとおり俺の頭の中も混乱していた。

 「えっと…俺が流星の合格発表の時に話したことって覚えてる?」

 「あっ…確か未来から小学生まで戻ってやり直しているって言うSFのような話よね。あれからあんたも何も言わなくなって忘れかけていたけど…まさかあの雪菜があんなことになるなんて…」

 「風岡!覚えていたのか?覚えていたならなんで止めて――」
 とっさに感情が高まってしまった。

 「止めたわよ!氷堂先輩がああなって彼女に会いに行ったけど…前向きにお腹の子と歩んでいくって言われたら…」

 「ちょっと待って!氷堂先輩ってどういうことだよ?あの先輩が星空さんの事と何か関係があるって…」

 そう問い掛けた時だった。

 「あなた…本当にまたタイムリープして来たの?」

 皮肉にも氷堂先輩の事で俺のタイムリープを信じてもらえるとは。

 「うん。したよ。流星に入学して高1の風岡の誕生日を控えていた頃から」

 「そう。やっぱり。あの時か…。私が怒ってた時でしょ?私がもっとあんたの手助けをしてあげていたらこういうことにはならなかったのかな…」

 「本当に一体どういうこと――」


 「――良い?泣かないで落ち着いて聞いてよね…」

 俺は唾を呑み込んで風岡の話しに耳を傾けた。


 「あんたの居た最初の世界でどうなってたかは知らないけど…ここでは雪菜は氷堂先輩と結ばれていたの」

 「えっ…あの先輩と…」

 「だから雪菜を救うには、先輩じゃなくてあんたと一緒になれたら良かったのかもって…ね」

 俺はその事実に返す言葉も見つからなかった。


 「おいっ!そんな落ち込んでる暇は君にはないんだよ!」

 「って急に。どういうことだよ…?」

 静まり返っていた俺にまたしても活を入れてくれる風岡。

 
 「あんたは恐らくまだタイムリープした目的である雪菜を救えていない。つまり雪菜を助けるべくもう一度タイムリープするはずだよ」

 「な、なんでそんなことわかるんだよ」

 「それは女の勘かな?」

 テヘっと少しベロを出す風岡に不安を感じずにいられなかった。

 「それで私が考えた作戦なんだけど…」

 「何の作戦?」

 「あんたが過去にもう一度戻るための方法だよ。本来なら小学校のお別れ会から小学生に戻るはずだよね?

 でもギリギリで受かった流星の受験戦争をもう一度乗り越えるってのはかなり大変なことだと思うし、リスクもあると思うの。

 だ・か・ら…いきなり高校に戻っちゃおう!作戦を開始したってわけ」

 
 「確かに受験はまた受かるかわからないけど…どうやって流星の時に戻るって言うんだよ」

 「そんなの簡単じゃん!あんたが戻ったというお別れ会!そのお別れ会を高校でやっちゃえば言いってことで、私が開催することにしたってこと」

 「そんな上手くいくものなんかな…」

 「上手くいくの?じゃなくて上手くやるの!
 
 あんたは雪菜を取り戻したくないの?
 
 私は親友の雪菜を守りたい!

 彼女に潜む心の闇を取り除いて一緒に歳を重ねていきたいの!!

 その為にはあの子の初恋相手であるあんたの力が必要なの!!」

 そう言って真剣な眼差しで、俺の両肩を強く握る風岡に俺の心は揺らいだ。

 「初恋相手って…」

 「そのぐらい雪菜から聞いてるよ。だからあんたならやれる」

 「でも俺のことはもう…」

 「柿沢…あんた本気で言ってるの?

 あんたは今でも初恋を引きずってるんでしょ?

 だったらあの頃の雪菜だってまだあんたとの初恋を引きずってるに決まってるでしょ!

 しっかりしなさい!!

 初恋ってそんな軽いものじゃないってちゃんと証明してよ!!

 …私も…そうだったんだから…」

 最後は勢いなく風岡の声のトーンが下がっていく。

 そんな度重なる風岡の気迫に押された俺は遂に強い決心をした。


 「わかった。何としてでももう一度タイムリープして、星空さんの側にずっと居て悲劇を繰り返さないようにしてみせるよ」

 「よっし!やっとその意気になったね。

 あっ…ただしタイムリープしたとしてもあまり過去の私を当てにしない方が良いかも…

 むしろあなたの足かせになりかねないかもだし…」

 この時の俺には風岡の言ってることがサッパリ分からなかった。

 「えっ…どういう…風岡は本当に俺の恩人で――」

 「やっめー!もうそれは聞き飽きたっつーの。
 
 あまりそんなことばっかり言ってたら、過去の私がどういう行動取るか責任とれないから」

 「責任とれない行動って…」

 「とにかく早く着替えて!みんな待ってるから!こんな暗いお別れ会が二度と開催されないようにしっかりと頼むよ!」

 そう言って風岡は慌てて部屋から出ていったので俺は部屋着から喪服姿に着替えて風岡の後を追いかけていった。


 「それじゃあ今から席に着いて彼女の事を想う時間とします」

 主催者の風岡は星空さんの事を想う時間として、俺がタイムリープをしやすいような状況を作ってくれた。

 こうして追悼の花や彼女の華々しいスケートを行っている姿の写真を前にして、彼女を想う静かな時間が開始した。

 俺はあの時と同じように…
 星空さんを助けたいと強く願い机に顔を俯せていた。


 ―――



 「おーい柿沢?」

 「はっ!」俯いていた顔を勢いよく上げると…。

 

 ――周りには流星学園の生徒が何事もないように勉強をしていた。

 「大山…変なこと聞くようだけど今日は何月何日だ?」

 「おいおい。寝ぼけるのもいい加減にしろよ~今日は――」

 大山の教えてくれた日にちは、俺が星空さんと2人で出掛けた日の翌日だった。