初恋は永遠に

 ――ザワザワと賑やかなショッピングモールの音を書き消すかのように1人の甘い声が響き渡る。

 「お兄ちゃん~!!」

 と、声が聞こえたかと思えば、勢い良く氷堂瑛太の身体に抱きつくツインテールの美少女。

 「コッコラ!こんな所で抱きつくなよ!」

 「もう!お兄ちゃんがどっか行くから~もう離さないんだからね」

 そうウインクをする美少女を見た俺はピンときてしまった。

 「えっと…もしかして…あの氷堂さん?」

 「うん。そうだよ。私たちと一緒のクラスの氷堂茉白ちゃんだよ」

 そうやって驚いた表情の俺は星空さんから説明を受けた。

 俺がなぜ驚いたかて?
 だって教室の中の氷堂さんとは全く違っているからだ。

 普段の氷堂さんと言えばクラスで目立たず暗い印象が強くこんな人気の多い場所で大声を出すようにはとても思えない。

 そんな彼女が、自分の実の兄に対して頬を赤く染めてうっとりとした表情をしながら、体重をかけて強く抱き付いてる…。

 こんな様子をクラスの誰かに話したとしても、誰も信じてもらえないだろうと思っていた。

 「おい。茉白。こんな所を同級生に見られて良いのか?」

 「えっ…お兄ちゃん…また雪菜と話しを…って誰こいつ?」

 俺の方を見て軽蔑したような眼差しで見てくる茉白。

 「あの…同じクラスの…柿沢って言うんだけど――」

 「あぁ。そんなのも居たかな?てか今の見た?」

 「えっ…今のって…お兄ちゃん~的なやつ?――」

 「見たんだ……」

 「…………」

 賑やかなショッピングモールにしばらく不穏な空気が立ち込めた。


 「あの~」

 俺が小声で言葉を発した瞬間だった。

 「お兄ちゃん~!!」

 そう言って血相を変えて兄である瑛太に抱きつく茉白。

 「お兄ちゃん~私もう学校行けない。明日からお兄ちゃんとずっと一緒に居る!!」

 「おい。離れろって。お兄ちゃんは明日からも学校だ!茉白とずっと一緒になんか居られないって」

 「私と何かって。私がアイツにお兄ちゃんのことバカにされて虐められても良いの~?」

 「茉白ちゃん。柿沢くんはそんな馬鹿になんかしないから大丈夫だから…ね?」

 そうやって星空さんが茉白を慰めに入るも。

 「雪菜は黙ってて!これはお兄ちゃんと私の問題なの!!」

 全く歯が立たない様子だった。


 「あ~もう分かったから。今日のところは帰ろうな。2人ともごめんな。また今度ゆっくりと」

 そう言って氷堂兄妹は俺たちの前から立ち去っていった。


 「氷堂さんってあんな感じだったんだ?それに星空さんは知り合いだったんだね」

 「うん。茉白ちゃんとは小学校の頃から同じリンクで競い合うライバルみたいなもの何だけど…彼女の欠点はあのお兄ちゃん愛なんだよね。
 才能は私よりもあるんだけど兄であるセンパイの後ろばかり追いかけすぎちゃって、自分の個性が出せないって言うのがね…」

 「そうだったんだ…スケートにも影響がね。それにしても学校とは雰囲気が全然違うね」

 「そうだね。もしかしたらセンパイに対しての反応が茉白ちゃんの本当の姿なのかもだけど…普段は人見知りで素の表情が出せてないんだ思う。あっ、ごめんね。ちょっと話しそれちゃってたよね」

 「ううん。選んだプレゼント買ってくるね」

 そう言って俺はレジに行きプレゼントとして選んだエプロンを購入した。

 「次は私が渡すプレゼント一緒に見に行ってもらっても良いかな?」

 「もちろんいいよ」

 ――そう言って星空さんとショッピングモール内を散策した。
 そしてコスメ売場にたどり着いた時だった。
 
 「ねぇ、風岡さんってどういう色のリップが好きだと思うかな?」

 「えっ?リップ」

 「うん、お洒落が好きな風岡さんなら喜んでくれるかなって思って」

 「確かに喜んでくれるかも…でもリップの好みなんてさすがに分からないかな…」

 「それもそうだよね。じゃあ…柿沢くんはどう言うのが好みなの?」

 2本のリップクリームを持った星空さんが急にこっちを向いて、上目遣いをしながら顔を近付けて俺に問いかけてきた。
 
 そんな姿を見た俺は思わず鼓動が鳴り響き始めていた。

 「えっ…俺の好み…?」

 「うん。柿沢くんの好きな色のリップをプレゼントしたら風岡さんが喜ぶかなって思って」

 「あぁ…プレゼント…って何で俺の好きな色をプレゼントして風岡が喜ぶの?」

 驚いて焦ったような口調で俺は話していた。

 「もう…柿沢くんは女心が分かってないぞ。だから風岡さんに避けられるんだから。驚いてないでほら。柿沢くんはどっちが好き?」

 「えっ…こっこっちかな?」

 戸惑っている俺を尻目に選んだ方のリップを購入した星空さん。

 「私の今日の目的は終わったんだけど柿沢くんは何か見たいものとかある?」

 「いや…これと言ってないかな」

 さっきから心臓がドキドキしてそれどころじゃなかった。

 「それじゃあせっかくだしそこのカフェに寄ってもいいかな?春の限定ドリンクがもう少しで終わっちゃうから」

 「うん。もちろん」

 そう頷いた俺は休日でカップルの多い有名コーヒーチェーン店で初恋相手の彼女とお茶をすることになった。

 そして、そのチェーン店でたまたま席が空いており、向かい合わせに座って限定ドリンクを飲み始める俺たち。

 「うん。美味しいね。やっぱりこれを頼んで正解だった~」

 「本当だね。飲みやすいし美味しいよ」

 「そう言ってもらえてよかった~ところでね柿沢くん。私と初めて会った時のことって覚えてる?」

 「えっ…初めて会ったとき…」

 そう。

 彼女が聞いてきたのは、俺が初めて彼女に会って恋をしたあの時だった。