喫茶レーベルという古びた看板を掲げているこの喫茶店へ来たのは、美愛の彼氏である田辺優希が、この喫茶店で働いていると聞いたからだ――田辺優希は三日前から行方が分からなくなっているらしい。
「来週から始まるオリジナルブレンドのコーヒー、飲んでいかれませんか?」
そろそろ帰ろかと思っていたが、不意に先ほどの店員が現れて、小さな紙コップに入ったコーヒーをテーブルの上へ置いていた。
「ありがとうございます」
急いで帰ることもないと思った私は、出されたコーヒーに口をつけた。
「あれ? そんなに苦くない?」
「そちらはスッキリした味わいのコーヒーになるので、コーヒーが苦手な方にもおすすめなんです」
彼女になら、聞けるかもしれない――そう思って、私は思い切って田辺君のことを店員さんに聞いたみた。
「関根君は、小さい頃から知ってるけど、真面目でいい子だから、急に何日も休んで心配してたんです。ねえ、田中さん。何か知ってる?」
奥のカウンターにいた小柄でおっとりとした女性に話しかけると、彼女は首を横に振っていた。
「いえ何も……。三日前の夕方は、私と入れ違いで確か夕方の五時から九時までバイトをしていたのは知っているんですが、その後は来てませんね」
どうやら本当に行方知れずになっているらしい。お店の人によれば、三日前の閉店時は店長と田辺優希の二人だけだったという。店長の所在を訪ねると不明ということだった。
「店長は、もともと隣の家に住んでいたんですけど、個人経営のお店ということもあってか、ほとんどお店にはいないんです」
「では、今どちらに?」
「たぶん、良質のコーヒー豆を求めて南アフリカか何処かに行っていると思います」
その言葉を聞いて、私は唖然としてしまった。そうか、だからお店の中に世界各国のコーヒー豆が――いや、これだけあれば充分ではないか。
「関根君、確かこの近くに住んでるはずです。お友達に住所を聞いてみて、行ってみてはいかがですか?」
門田美愛からのメールに関根祐介の住所が書いてあったのを思い出し、スマホを取り出すとマップでナビを見ながら、彼の自宅へ向かった。
暗くなってきたと思ったら、雨が降りそうな空模様だった。スマホのマップ画面に自宅へは徒歩7分という文字が点滅していた。雨が降る前に到着したいと足を早めたが、ふと脇道に目をやると、住宅街の塀と塀の間に小さな祠があるのを見つけた。街中で見かける小さい祠よりも、更に一回り小さな祠で、気づかずに通り過ぎてしまいそうな大きさであった。身体をそちらへ向け、姿勢を正すと、素早く手を合わせる。塀の奥には公園らしきものが広がっているのが見えたが、雑草が延びて荒れ果てているのが見えた。
「結愛、どうしたの?」
「なんでもない」
田辺優希の自宅はトタン屋根の木造一階建てだった。近くまで行って、玄関先の呼び鈴を鳴らしてみたが誰も出ない。
「玲奈、ちょっと待って。呼び鈴壊れてるかも」
耳を澄ましてみれば、呼び鈴を鳴らしても、中で鳴っている音がしない。私と玲奈は、目を合わせると、そっと玄関の引き戸に手を掛けた。スルスルと簡単に開いた引き戸の中へ入ると声を掛けた。
「田辺さん、いらっしゃいますか?」
しばらくすると、返事をする声が聞こえた。誰かいたことにホッとすると、部屋の中からは白髪のおばあさんが出てきた。
「あら、優希のお友達? ごめんねえ、ブザーが壊れてて。今、お茶を入れますから、上がってちょうだい」
「いえ、すぐに帰りますからお構いなく。少しお聞きしたいことがあるのですが」
「でも、こんなところで立ち話もなんですから、中へどうぞ。私も、少し膝を痛めてますので、そうしていただけると助かります」
「……分かりました。それでは、お邪魔させていただきます」
初対面の私たちを、こころよく迎え入れてくれたおばあさんは、台所へ行くと湯を沸かし始めた。居間のソファーに腰掛けた私達へ、時折話し掛けながらお茶を入れてくれる。
「来週から始まるオリジナルブレンドのコーヒー、飲んでいかれませんか?」
そろそろ帰ろかと思っていたが、不意に先ほどの店員が現れて、小さな紙コップに入ったコーヒーをテーブルの上へ置いていた。
「ありがとうございます」
急いで帰ることもないと思った私は、出されたコーヒーに口をつけた。
「あれ? そんなに苦くない?」
「そちらはスッキリした味わいのコーヒーになるので、コーヒーが苦手な方にもおすすめなんです」
彼女になら、聞けるかもしれない――そう思って、私は思い切って田辺君のことを店員さんに聞いたみた。
「関根君は、小さい頃から知ってるけど、真面目でいい子だから、急に何日も休んで心配してたんです。ねえ、田中さん。何か知ってる?」
奥のカウンターにいた小柄でおっとりとした女性に話しかけると、彼女は首を横に振っていた。
「いえ何も……。三日前の夕方は、私と入れ違いで確か夕方の五時から九時までバイトをしていたのは知っているんですが、その後は来てませんね」
どうやら本当に行方知れずになっているらしい。お店の人によれば、三日前の閉店時は店長と田辺優希の二人だけだったという。店長の所在を訪ねると不明ということだった。
「店長は、もともと隣の家に住んでいたんですけど、個人経営のお店ということもあってか、ほとんどお店にはいないんです」
「では、今どちらに?」
「たぶん、良質のコーヒー豆を求めて南アフリカか何処かに行っていると思います」
その言葉を聞いて、私は唖然としてしまった。そうか、だからお店の中に世界各国のコーヒー豆が――いや、これだけあれば充分ではないか。
「関根君、確かこの近くに住んでるはずです。お友達に住所を聞いてみて、行ってみてはいかがですか?」
門田美愛からのメールに関根祐介の住所が書いてあったのを思い出し、スマホを取り出すとマップでナビを見ながら、彼の自宅へ向かった。
暗くなってきたと思ったら、雨が降りそうな空模様だった。スマホのマップ画面に自宅へは徒歩7分という文字が点滅していた。雨が降る前に到着したいと足を早めたが、ふと脇道に目をやると、住宅街の塀と塀の間に小さな祠があるのを見つけた。街中で見かける小さい祠よりも、更に一回り小さな祠で、気づかずに通り過ぎてしまいそうな大きさであった。身体をそちらへ向け、姿勢を正すと、素早く手を合わせる。塀の奥には公園らしきものが広がっているのが見えたが、雑草が延びて荒れ果てているのが見えた。
「結愛、どうしたの?」
「なんでもない」
田辺優希の自宅はトタン屋根の木造一階建てだった。近くまで行って、玄関先の呼び鈴を鳴らしてみたが誰も出ない。
「玲奈、ちょっと待って。呼び鈴壊れてるかも」
耳を澄ましてみれば、呼び鈴を鳴らしても、中で鳴っている音がしない。私と玲奈は、目を合わせると、そっと玄関の引き戸に手を掛けた。スルスルと簡単に開いた引き戸の中へ入ると声を掛けた。
「田辺さん、いらっしゃいますか?」
しばらくすると、返事をする声が聞こえた。誰かいたことにホッとすると、部屋の中からは白髪のおばあさんが出てきた。
「あら、優希のお友達? ごめんねえ、ブザーが壊れてて。今、お茶を入れますから、上がってちょうだい」
「いえ、すぐに帰りますからお構いなく。少しお聞きしたいことがあるのですが」
「でも、こんなところで立ち話もなんですから、中へどうぞ。私も、少し膝を痛めてますので、そうしていただけると助かります」
「……分かりました。それでは、お邪魔させていただきます」
初対面の私たちを、こころよく迎え入れてくれたおばあさんは、台所へ行くと湯を沸かし始めた。居間のソファーに腰掛けた私達へ、時折話し掛けながらお茶を入れてくれる。

