前世あやかし狐だった私は、恋人だった晴明様を思い出せない

「神隠しねぇ」

 そう呟いたのは、同じサークルに所属する友達の田代玲奈だった。

 授業を終えて喫茶レーベルに着いたのは、午後六時を少し過ぎていた。私たちの通う埼玉県春日部市にある玉越大学から、電車で約二時間。そこから歩いて十五分の場所に、その喫茶店はあった。

 閑静な住宅街の中に、ひっそりと佇むレンガ造り。その建物は、西洋の建物を彷彿とさせた。お店を取り囲むようにしてある雑草や(つた)が異様な雰囲気を醸し出している。

 ここで、大学の文化祭で知り合った友達と会う予定だった。私が所属しているサークルはミステリーサークルという、ミステリー小説が好きな人達の集まりだったが、彼女が所属していたのはオカルト研究部だった。私の何が気に入ったのか、彼氏と連絡が取れなくて、一緒に探して欲しいと頼まれたのだ。

「絶対浮気だって。心のどこかでそう思ってるから、私達に頼んできたんでしょ?」

 玲奈がそう言いながら喫茶店のドアを開けると、店の奥から店員と思われる女性がこちらへ歩いて来た。

「いらっしゃいませ。二名様でいらっしゃいますか?」

 メイドの恰好をした店員に席まで案内されると、開いたメニューを手渡された。

「あとから一人来ます」

「かしこまりました。先に注文されますか?」

「はい」

 アイスコーヒーを頼むと、私は店内を見回した。コーヒー専門店らしく、世界各国のコーヒー豆が所狭しと並んでいた。メニュー表には酸味があってコクがあるとか、後味すっきりなどど書かれていたが、ミルクが無いと飲めない私には、あまり参考にならない言葉だった。

 店員の制服は準メイド風、準執事風だったが、それはあまり気にならない。客もコーヒーを求めてやって来ているという感じの客ばかりであった。しばらくしてアイスコーヒーが運ばれてくると、何故か近くの席にいたおじいさんに話しかけられる。

「アイスコーヒーは、まずブラックでストローを使わずに、一口飲んでみなさい。美味しいから」

 言われた通りにしてみれば、何だかいつもと違い、美味しい気がした。ブラックでも飲める苦さだ。玲奈も満足げに目を細めている。

「ありがとう、おじいさん。美味しいです」

 玲奈がそう言うと、おじいさんは満足そうに頷いて席へ戻っていった。おじいさんは、カウンターで新聞を広げて読んでいた。常連客だろうか──そう思っていると、携帯が鳴った。

「玲奈、美愛からメール。講義が長引いて来れなくなったみたい。これ飲んだら出ようか?」

「自分から誘っておいて何なのよ……」

「まあまあ」

 そう言って、ブラックで飲んでいたコーヒーにミルクを入れると一気にストローで飲み干した。私にはミルクコーヒーが、まだまだ似合っている気がする。