満たされて、ひとりじめ

 新幹線が発車して数分、うつらうつらと舟を漕ぐ。俺抜きにしてもらったトランプで盛り上がる声がぼんやり聞こえる。

 思ったよりも弁当作りのために早起きをした。

 大して下準備も必要ないものを深見くんがリクエストしてくれたのに、俺が張り切って必要以上に早く目を覚ましてしまった。

 ただでさえ寝れなかったのに。頭が動いて、ゴンッと鈍い音がした。

 窓際の出っ張ったスペースに見事に額をぶつけたようだ。そのあたりを擦りながら、あくびを噛み殺す。

「宮下くん、もう諦めて本格的に寝ときなよ。何かあったら起こすから」

 深見くんの呆れた笑みに、力なくうなずいた。起きて楽しみたいけど、これは勝てそうにない。

「オレの肩使っていいよ」
「うん、ありがとう」

 頭を支えてくれる深見くんに身を任せて、そのまま寄りかかる。

 自分でやろうと決めたポテトサラダは粗めのじゃがいもがいいか、よく潰したほうがいいのか悩んだ結果2種類を弁当に入れてしまいスペースに悩む羽目になった。

 3色そぼろ弁当とブロッコリーの胡麻和え、2種のポテトサラダ。深見くんリクエストのだし巻き卵と生姜焼きを入れた。

 姉貴も久々のだし巻き卵に喜ぶだろうと思ったが、朝早すぎて寝ていたので冷蔵庫に入れてある。深見くん、喜んでくれるといいなぁ。

「宮下くん、おはよう」

 優しく揺すられて、ゆっくり目を開く。深見くんだけでなく、いつの間にか前の座席が回転しており中村くんや山田くんもいた。

 ぱちぱちと瞬きをして、一気に現実に引き戻される。車内の明かりがまぶしい。

「え、もう着く?」
「ううん。まだあと1時間くらいあるけど、弁当は食べといたほうが良さそう」

 トランプを1枚片手に持った深見くんが微笑んだ。中村くんがそのトランプを取れば「ちょうど終わったし」と立ち上がる。

 山田くんが唸っているところを見るに、ジョーカーをもっていそうだ。ふっと笑いながら大きく伸びをした。

「あれ、これ深見くんのだよね?」

 かけられていたブランケットを取ってよく見ると、深見くんがしていたマフラーだ。

「うん。寒そうにしてたからかけといた」

 はいこれ、と上からリュックを取って差し出してくれた。やることがいちいちかっこいいな。

 それに比べて俺は、一緒に楽しむどころかぐっすりだった。

 勝手にくらいながら、リュックからランチクロスで包んだ弁当箱を取り出した。弁当なら挽回できる。

「これ2人にね。じいちゃんばあちゃんが友達の写真くれって言ってたわ」

 今回、山田くんと中村くんの分はじいちゃんの店の弁当だ。頼んだら、食べてくれる友達の写真を送ってほしいと言われた。

 3人撮っておけば問題ないだろう。

 深見くんにも弁当を渡してから、俺は「撮るから適当にしてて」とスマホを構える。山田くんが「せっかくだから宮氏も入んなよ」と言ってくれた。

「そうだよー。俺が撮るからみやしーはそこ座ってて。修平は移動して」

 写真に撮られ慣れていないあまり、挙動不審に左右に動いてしまって「この辺だよ」と深見くんに位置を固定された。

 インカメを使うことなんて、人生でほとんどなかった。こういうときに使うのか。

「みやしー、画面じゃなくてカメラ見て」

 はい、チーズ。連写する音がして、俺を含めた3人がどっと笑った。

「旭、俺絶対に目閉じた」
「そのために連写したからだいじょーぶ。ほら、爆笑も撮ったし」

 見せてくれたスマホ画面には連写だと気づいて笑う俺たち3人。中村くんも笑っていた。

 弁当を食べている姿は俺が撮らせてもらって、家族宛に写真を送っておく。すぐにちらほら既読がついて、ばあちゃんから見たことを伝えるためだけのスタンプが返ってきた。

「あ、それ量多くなっちゃったから食べ切れなさそうなら2人にあげてね」

 ポテトサラダを見つめる深見くん。俺の言葉に即答で「絶対あげたくねー」と答えた。

 分けてあげてよ、と思いつつ、口元を押さえる。

「ごろごろの芋のが食感いいけど、滑らかだとマヨネーズ濃く感じるかも。どっちもうまい」

 順番においしさを語ってくれる深見くんに、俺は密かに動画を撮らせてもらった。

「で、だし巻きが最高にうまくて――宮下くん、撮ってるのすげーバレてるから。オレの下手な食レポを映像に残すのやめて」
「最後これだけだから、お願い」

 渋られても、停止ボタンは押さなかった。3色そぼろ弁当を頬張る深見くんまで撮って、録画を終える。永久保存しとこう。

 到着して、1日目はクラスごとの見学がメインだった。参拝をした後はマグカップや皿に絵付け体験をして、ホテルへ向かう。

 夕食のビュッフェでは山田くんが好きなもの2種類だけを延々食べるのを真似して、各自好きな食べ物3種類までをひたすら食べた。

「さすがに食べすぎて風呂行けっかな」
「山田くん、最後何食べてたの?」
「デザートは3種類に含めなくてよかったから、旭と全種制覇してた」

 ホテルの絨毯を踏みしめながら部屋まで歩いていく。部屋割りはじゃんけんで決まったため、山田くんとになった。

 お腹を擦る山田くんはゆったりしたTシャツでもわかるほど胃のあたりがぼっこり出て見える。中村くんも似たようなものだろう。

 風呂はギリギリにしようと話して、深見くんたちの部屋に遊びに行った。

「今言わなかっただろー! はい残念終われませーん」

 待ってましたとばかりに口の端を上げる中村くん。彼が持ってきたカードゲームで、山田くんが最後の1枚で決まった言葉を言わなかった。

 色んなルールを追加して、白熱している。先にあがってしまった深見くんは、俺の手札を見て「これとか良さそうだね」とアドバイスをくれていた。

 ソファーの隣に腰を下ろして、向かいの2人には見せないよう寄り添ってこそこそ話す。距離が近く感じてどきどきするのは、きっと俺だけだ。

 ◇◇◇

 2日目の自由行動では、きっちりルートを決められたおかげで古い街並みをゆっくり歩いたり、石畳の坂を上がってお土産を見たりといいペースだった。

 写真も初めて専用のアルバムを作って、4人で共有する。どれを見ても楽しそうな光景で、その中に自分もいることが夢みたいだった。夢じゃないけど。

「その抹茶ソフトどう?」

 ベンチに腰を下ろして、隣の深見くんに訊ねる。俺は団子を買ってきた。今は甘いものよりしょっぱい気分。

「すげー濃い。一口食べる?」
「ありがとう」

 スプーンで一掬いしたソフトクリームをもらってから、ふとこれって間接キスだと気づいた。意識したと思われたくなくて「こっちもいる?」と、まだ口をつけてない団子を渡す。

 深見くんからすれば何も気にしないことなんだろう。抹茶の苦味が口内を占めていた。

「やったー。ありがとう」

 こっちもうまいね、とご機嫌な深見くんはニコニコだった。人の気も知らないで、と思うのは俺の八つ当たりか。勝手に好きになったんだし。

 きれいな輪郭を目でなぞりながら、団子にかじりつく。香ばしい醤油の匂いがする。もちもちの食感は弾力があって、食べごたえがあった。

「オレさー」

 空を仰ぎながら、深見くんが呟くように言った。色づき始めた葉が鮮やかに覗いている。

「宮下くんのこと好きだな」
「――え?」

 訊ね返したときには、もう深見くんが立ち上がっていて「そろそろ行くよー」と別の言葉を発していた。いや、ちょっと待って。急いで残りの団子を口に入れる。

 聞き間違えたとしか思えないほど、あっさりしていた。ほんとに聞き間違えてる?

「ちょ、深見くん。今何て言った!?」
「わかんねーわ。忘れといて」

 戻ってきた深見くんは俺から団子の串をとって「捨てとくね」と、離れて行ってしまった。

 向こうから中村くんの「そろそろ行くよ」の声がする。

 俺だけが追いつけない。告白されたかもしれないことにも頭がついてこないのに、忘れといてって何なんだ。え、どういうこと?

 誰か解説してほしい。俺も深見くんのことが好きなのに。この気持ちは、まだ伝えられてもないのに。

 何で一方的に終わらせられたんだろう。そんなのずるすぎる。

 後半は深見くんのことに頭を悩ませながらだった。そう簡単に忘れようがない。

 縁結び神社で引いたおみくじの恋愛部分が恨めしかった。神に頼んで機会を伺えとあったので、全力で手を合わせる。

 神様、好きな人が告白してくれたっぽいのに言い逃げされた上に忘れてくれと言われました。俺はこれで終わるつもりはないです。

「みやしー、すげー真剣に願ってたね」
「うん。おみくじの結果に神頼みしろってあったから」

 お土産を買える大通りでは、買いたいもので二手に分かれたら中村くんとペアになった。

 修学旅行では、深見くんと2人きりになれるタイミングがめったになさそうだ。機会は自分で作るしかない。

 昼休みの学校までは俺が待てそうになかった。

 家族へのお土産を買って、休憩がてら店で抹茶ラテを飲む。

「点呼の後に俺がそっちの部屋行ってもいい? できれば、今日は深見くんと同じ部屋になりたい」

 ほっと一息をついて、中村くんに今日これからの相談をする。

「怜央が何かやらかした? 様子変だよね」
「うん。言い逃げされたから、逃がさないつもり」
「やるー」

 中村くんにヒューとスカスカの口笛を吹かれて、俺はクスクス笑ってしまった。

  ホテルへ戻って、夕飯の時間に山田くんにも話をする。深見くんが席を立ってる間に俺と中村くんが部屋を入れ替えると伝えた。

「旭の面倒見るのは疲れるけど、一晩だけならわかったよ」

 げんなりした様子を見せる山田くんに中村くんが「何だって?」と微笑みながら首を傾げる。

「旭が近くではしゃいでると寝れない」
「はしゃぐのは修平のほうだろ」
「俺は静かだよ」
「どこが。昼間ずっと歴史語ってたの修平だろ。あれまた教えてよ」

 テーブルを挟んでやり取りが始まったので、俺はそっと会話からフェードアウトした。

 風呂を済ませて、先生のチェックも完了した後、荷物は部屋に置いたまま廊下に出る。ふかふかの絨毯を踏みしめながら、そっと歩いていくと既に中村くんが歩いてきていた。

「説明すんのもめんどかったから、怜央には部屋入れ替わること話してない。遊びに行ってくるって出たから、これで入って」

 カードキーを交換して、辺りを確認する。先生の見回りはまだ大丈夫そうだった。

「ありがとう。助かるよ」
「いーえ。変なとこ怖気づくやつだから、がっつり捕まえてやってね」

 お節介だけど、と中村くんが囁く。俺はそのつもりだとうなずいた。

 薄ぼんやりした照明の下を歩いて、部屋の前に立つ。深呼吸のひとつくらいはしたかったが、先生が来たら怖いので勢いに任せてドアを開けた。

 風呂上がりのポカポカした体温が、沸騰しそうなほど上昇している。やばい。スウェットの上下が暑かった。

 神様、これって機会になってますか。息を吸うと、スマホ画面を見つめていたTシャツ姿の深見くんが「おかえり」とこちらを向いた。

「え、何で?」

 俺の姿を認識した途端、目を大きく見開いてベッドの上で後ずさる。往生際が悪い。

「昼間のあれ、何だったか聞きに来た」
「……何でもないよ。忘れてって言ったでしょ」

 この期に及んでそれを言うのか。ズカズカと深見くんの目の前に立って、ベッドに身を乗り出す。掛け布団のカバーが波打ってぐしゃぐしゃに歪んだ。

 唇がわなわな震えてきて、息を吐く。あんな半端で終われるわけない。

「何なんだよ……っ、俺のことからかって楽しいかよ」
「違う。そんなつもりは――」
「じゃあどんなつもりだよ。俺の気持ちは? 俺が深見くんのこと好きだって気持ちはどこへやればいい?」

 深見くんのパジャマの襟をつかんだ。左右に揺れていた深見くんの大きな黒目がようやく俺を捉える。

「え、宮下くん、オレのこと好きなの?」
「そうだよ。忘れてって言うなら努力するけど、俺が深見くんを好きなのは忘れないでほしい」

 パっと手を離して、俺も言い逃げしてやろうと思った。だけど、深見くんが俺の腕をつかんで逃してくれない。

 仕方なくベッドの脇に腰を下ろす。

「泣くほど、キスされたくねーのに?」
「違う、キスしなかったから泣いたんだよ。深見くんは俺のこと別に好きじゃないんだって思って……俺は好きなのに」

 ふざけんなよ、と出てきた声が掠れてしまった。俺が目を擦るより早く深見くんの親指が頬を拭って、涙を絡めとる。

 俺が泣くのは深見くんのせいだ。

「うわっ!?」

 ぐいっと引き寄せられてバランスを崩した俺が倒れ込んでしまって、深見くんの上にのしかかる体勢になってしまった。

 急いで起き上がろうとすれば、後頭部を押さえられてうまく動けない。

「ほんとに、オレのこと好きなの?」
「好きだよ。深見くんは、何でキスしようとからかったり、急に告白してきたの?」

 頭の手をどけて、深見くんの顔を見る。さっきの俺みたいに、現実についてこれていないみたいだ。

 Tシャツ越しに伝わる鼓動がびっくりするほど速かった。これは俺のじゃない。

「宮下くんがオレのこと好きだったらいいなって期待したけど、震えるほど嫌なんだなーって思ったから冗談にした。さすがに嫌がる人にキスはしたくねーし」
「嫌がった覚えないよ。あ、でも緊張はした。あんなこと初めてだったし、テンパってた」
「すげー嫌がってる顔してたよ!? 眉こんな寄ってたし」
「えー、ごめん。自覚はなかった」

 俺の態度が合ってるか不安でしかなかった。自分の表情なんて気にしてる余裕もないくらいで、目を閉じれば待ちの姿勢になると思っていた。

 それが深見くんの不安を煽ってたのか。

「告白は、宮下くんの気持ちがちょっとでも揺らがねーかなって思ったから。そのくせすぐビビッてだめだったけど」
「深見くん、ほんと変なとこで引いてくよね。俺の弁当のときは意地でも譲らないのに」
「どうしていいかわかんなかった。好きすぎて全部ほしいけど、宮下くんを閉じ込めたいわけでもねーし」

 サラサラになった俺の髪を深見くんが優しく撫でる。

「ぜんぶほしいの?」
「うん。オレ重いと思うよ。逃げるなら今のうちだよ」
「わかんないけど、深見くんにならぜんぶあげてもいいよ」
「後悔しても逃がしてあげられないからね」

 耳のあたりへ下りてきた指先から、熱が伝わってきた。射抜かれるような瞳にぞくりとして「いいよ」と答える。

「キスしてもいい?」

 う、と一瞬フリーズしてしまった。

「それは……訊かれたら嫌って答える」 
「だって勝手にしてまたあの顔されたら、ちょっと怯むかも」
「……わかった、いいよ。早く」

 眉間に力が入らないように気をつけて、まぶたを下ろす。

 一度だけの話だと思っていたら、角度を変えて何度も唇が落とされる。割って入ってくる熱に手のひらで押し返して体を離そうとすると、指を絡められてしまった。そのための手じゃない。

 指の隙間を撫でる深見くんの手がくすぐったくて、ぞわぞわする。どうにか短く息を吐くと空いた隙間を埋めるようになぞられて、頭の中が痺れていく。

 深見くんと俺の位置が逆転する。背中がベッドについて、我に返った。待て待て待て、これ以上はだめだ。

 深見くんの肩を少し強めにトントン叩く。唇が離れたかと思えば、深見くんは隣になだれ込むように寝転んだ。

「……ごめん。調子乗った」
「ほんとだよ。何しようとしてんの」
「それ訊くの?」

 深見くんの親指がゆっくり口の端を撫でてくるので「遠慮しとく」と答えた。

 あのときもこうやってキスしたかったのかなぁと思うと、胸がぎゅっと締めつけられる。こんなの、好かれてることを痛いほど実感させられる。

「修学旅行なの忘れないでよ」

 うん、と顎を引いた深見くんのふにゃっとした笑顔に苦笑してしまった。

「でも、まずは今抱きしめるのはいい?」
「いいよ……え、このまま?」

 起き上がろうとする俺を引き寄せて「ちょっとだけ」と甘えた声になる深見くん。首筋に深見くんの髪が当たってくすぐったかった。

「深見くん温かいね」

 そろそろと深見くんの腕の中にすっぽり収まった。意外にもどきどきより安心感のほうが勝る。

「抱きしめたいとは言ったんだけど……あの、あんま動かないで」
「あっ、わかった」

 ほんのり額に汗を滲ませた深見くんをクスクス笑う。

「落ちつけそう?」
と訊ねれば、背中に回された手にちょっと力が入った。

「うん。宮下くん、大好きだよ」
「……俺も」

 深見くんの腕をあやすようにポンポン叩く。しばらくそうしていると「おやすみ」と低い声が降ってきて、俺も同じ言葉を返した。

 ◇◇◇

 神頼みの効果あったかな。意識がはっきりしてくると、カーテンのわずかな隙間が明るくなっているのが見えた。

「……昨日の、」

 ちゃんと夢じゃなさそうだ。きょろきょろと部屋を見回すと加湿器の蒸気が出ている。電気は消えていて、掛け布団がかかっていた。

 スースー寝息を立てて眠る深見くんの頬を指先でそっとつつく。ぐっすり寝ているらしい。疲れてたのかな。

 俺のほうは深見くんに抱きしめられている途中から記憶がないけど、深見くんが色々動いてくれたんだろう。夜遅くまで起きてたのかもしれない。俺はまったく気づかなかった。

 背中に回されている腕を剥がそうとして、全然動かせないことに気づいた。これは力が入っている。

「ちょっと、起きてるなら言ってよ」
「まだ早いでしょ。もうちょっと寝ようよ」
「そうしたいけど……だめだ、あと15分で起床だよ。俺そろそろ行かないと」

 他の人が廊下に出る前に急いで部屋に戻らないと、別の部屋にいたのがバレてしまう。

「あー、ほら。めっちゃ鳴ってる! 中村くん戻ってきてるよ」

 怒涛のドアベルの音が鳴り響く。これ他の部屋に聞こえることはないんだろうか。っていうか、中村くんも何回鳴らすんだ。

 慌ててスリッパを履いて、ドアを開ける。

「おはよー、みやしー。寝てたらやばいかと思って電話したけど、全然出ないから起こしに来た」
「え、ごめん。音を全部消してた」

 山田くんのアラーム音だけで起きれたから、今日もそれに頼る予定でアラームすら忘れてしまっていた。

「えー、ベッド戻しといてくれたの? そんなの全然よかったのに」

 中へ入ってきた中村くんが自分のベッドを見て言った。昨日一度も使ってないベッドは深見くんのと比べて明らかに整っている。

 まさか使ってないなんて言えるわけもなく、曖昧にうなずいた。

「じゃあ、俺も部屋に戻るね」
「はーい。またあとでね!」

 寝癖で前髪が跳ねた深見くんは中村くんが戻ってきたことに気づいているのかも怪しいまま、無言で俺に手を振ってくれた。

 3日目の自由行動では何かと深見くんが俺の隣にいて気にかけてくれすぎて、そんな深見くんをたまに中村くんが引き剥がしてくれていた。

「深見クンと仲直りできたのはよかったけど、テンション上がりすぎてなかった?」

 帰りの新幹線で斜め向かいの山田くんが、目の前の深見くんに苦笑いを浮かべる。深見くんはうんともすんとも言わず、爆睡だった。

 山田くんの隣で、中村くんも同じように眠っている。

「深見くんも意外と舞い上がるタイプなのかも」
「……ってことは宮氏もなんだ?」
「うん、テンション高い深見くんも面白いなーって感じだった」

 なるほど、と前のめりになりそうになった中村くんの額を押さえて座席に戻す山田くん。彼もぼんやりした目を閉じて、寝る姿勢に入った。

 ふっと笑って、俺も深見くんを確認する。寄りかかってほしいけど位置がいまいちだ。

 こっちはちょうどいい。俺が深見くんの肩にもたれて、静かに目を閉じた。