追放された俺がハズレスキル『王位継承権』で最強チートな王様になるまで 〜俺の臣下になりたくて、異世界の姫君たちがグイグイ来る〜

 灰狼侯爵家(はいろうこうしゃくけ)の領地までは10日前後の道のりだった。
 その間、俺は渡された資料を読んでいた。

 兵士たちは俺を丁重(ていちょう)にあつかってくれた。
 理由は『異世界人は、侯爵家(こうしゃくけ)に預けられるまでは王家の客人』だから。
 俺の場合は『北の地に捨てられるまでは』になるらしいけど。

 そういう情報についても、借りた資料には書かれていた。
 ランドフィアの歴史や、異世界召喚(いせかいしょうかん)の儀式に関わることも。

 数百年前までこの大陸には、たくさんの国があったらしい。
 数は二十以上。王も同じくらいいたそうだ。
 さまざまな国々が争い、収拾(しゅうしゅう)が付かない状態だった。

 そんなとき、魔王が現れた。
 魔王は北にある『魔の山』を拠点(きょてん)として、大陸中を荒らし回った。

 それを倒したのが初代大王、アルカイン=ランドフィアだ。
 アルカインは強力な戦士であり、優秀な魔法使いでもあった。
 彼はさまざまなマジックアイテムを作成して、軍隊を強化した。
 俺の首につけられた『首輪』も、『能力測定クリスタル』も、アルカインが作ったものだ。
 他にも、邪悪な敵を封印する杭や、不死身の兵隊──ゴーレムのようなものもあるらしい。

 それらマジックアイテムの力を借りて、アルカインは魔王を討ち果たした。
 人々はアルカインの功績(こうせき)をたたえて、王位についてくれるように願い出た。
 アルカインはそれを受けて、ランドフィア王国の初代大王になったそうだ。

 魔王は倒されたとはいえ、その恐怖は、人々の中に残っていた。
 それに加えて、初代王アルカインの予言もあった。

『いつか再び、魔王を名乗る者が現れる。人々はそれに備えなければならない。
 どれほど強力であっても、魔王はひとりだ。
 王と貴族が団結すれば、必ず、討ち果たせるだろう』

 ──と。
 だから魔王への対策として、大王は5人の部下に侯爵(こうしゃく)(くらい)を与えて、各地を治めさせることにした。

 序列第1位、金蛇(きんだ)
 序列第2位、銀鷹(ぎんよう)
 序列第3位、黒熊(こくゆう)
 序列第4位、赤鮫(しゃっこう)

 そして、北の果てに領地を持つ、序列最下位の灰狼(はいろう)

 灰狼が北の地に追いやられたのは大王の死後、反乱を起こしたのが理由だ。
 正確には『反乱の疑いあり』ということで、(さば)かれた。

 当時の王は慈悲深かった。
 灰狼侯(はいろうこう)を処刑はしたけれど、子孫には生きることを許した。
 そして灰狼侯爵領を、魔王の拠点だった『魔の山』に近い場所に設定した。

 灰狼の一族と領民は、領地から出ることを禁じられた。
 断りなく領地を出れば(ばつ)を受ける。場合によっては、即刻処刑される。

 王宮で儀式があるときは、黒熊侯(こくゆうこう)が代わりに出席する。
 灰狼の領地にもっとも近いのが黒熊の領地だからだ。
 それで黒熊候は、灰狼候の代官のようなことをしているらしい。

 ……灰狼は北の地に追いやられ、領地を出ることを禁じられている、か。
 だから王宮には、侯爵が4人しかいなかったんだな。
 黒熊候の部下が、俺を灰狼侯爵領(はいろうこうしゃくりょう)に送ってるのも、そういうわけか。

 俺たちが異世界に召喚(しょうかん)されたのも、初代大王アルカインが原因だ。
 初代大王アルカインは大陸を統一するために、異世界人を召喚していた。
 それでアルカインの死後、彼の偉業を忘れないように、100年後ごとに異世界召喚が行われるようになったそうだ。
 召喚された異世界人は侯爵(こうしゃく)下賜(かし)されて、魔物討伐などに活躍(かつやく)したらしい。その子孫も普通に生き残ってる。異世界人が貴族に準じるものとしてとしてあつかわれるのは、本当みたいだ。
 俺と一緒に召喚されたひとたちも、それなりに丁重(ていちょう)にあつかわれるんだろうな。

 異世界召喚が今も続いているのは、伝統行事になったから。
 王家に伝わる伝統行事だから、やり方を変えるわけにはいかない。だから北の果てに追いやられた灰狼侯爵領にも、異世界人は与えられる。
 ただ、使えない異世界人が選ばれてるみたいだけど。

 灰狼候爵家(はいろうこうしゃくけ)の人々は、今も(ばつ)を受け続けている。
 それは彼らを(ふう)じ込めるマジックアイテムの存在で──

「間もなく灰狼侯爵領(はいろうこうしゃくりょう)に入る。準備をされよ」

 ──そこまで資料を読んだところで、兵士が俺を呼んだ。
 しばらくして馬車が()まり、扉が開く。

 馬車の外で、兵士が俺を手招きしていた。


「この街道の先が貴公が行く場所──二度と出られぬ灰狼(はいろう)の地だ」


 兵士は俺を見ながら、笑っていた。

 馬車が停まっているのは海と山の間にある、細い道だ。
 西側は切り立った岩山。東側には(がけ)がある。その下は海だ。

 海からは冷たい風が吹いている。
 波が荒い。砕けた水しぶきが、道の上まで飛んでくる。

灰狼領(はいろうりょう)に入るまでは、貴公は王家の客人だ。聞きたいことがあれば教えるが」
「二度と出られぬ灰狼の地とおっしゃいましたね」
「ああ」
「それって……通り道が、この街道しかないからですか?」

 気づくと、俺はそんな言葉を口にしていた。

 ふたつの領地を(つな)ぐのは細い街道だ。
 西は岩山で、東は荒れた海。
 街道をふさいでしまえば、灰狼領から出る手段はなくなってしまう。

「つまり、黒熊侯爵家(こくゆうこうしゃくけ)の方々が、街道の出入りを監視されているということですか?」
「『門番』のくせに、よく学んでいるようだ」

 兵士の男性は吐き捨てた。
 まわりの兵士たちも俺を見て笑っている。

「だが、なにもわかっていないな。どうして黒熊侯爵家の者が、わざわざ兵士を配置しなければいけないのだ?」
「……どういうことですか?」
「灰狼領は、初代大王アルカインさまの遺産(いさん)によって封鎖(ふうさ)されているのだ」

 兵士たちが歩き出す。
 後をついていくと、街道の横に、兵士たちが立っているのが見えた。
 こんな風の強い場所なのに身動きひとつしていない。

 ……いや、違う。あれは人間じゃない。

 遠目には、普通の兵士に見える。
 武器は持っていて、(よろい)を着ているからだ。
 だけど、(かぶと)の下に顔はない。皮膚(ひふ)は灰色で、表面はつるつるしている。
 まるで、金属で作られた人形のようだ。

「これは初代大王アルカインさまが作られたゴーレムだ」

 兵士たちが教えてくれる。

「名を『不死兵(イモータル)』という。これが街道に配置されている限り、灰狼領の者は決して、領地から出ることはできぬ」
「これが……マジックアイテムなんですか?」
「そうだ。与えられた命令に応じて動く、最強のな」

 兵士の隊長が笑った。

「灰狼領の者が外に出ようとすれば、この『不死兵』の攻撃を受けることになる。『不死兵』には剣も、魔法も効かぬ。休みなく働く無敵の兵士だ。貴殿が灰狼領から出ようとした瞬間、容赦(ようしゃ)なく槍を振るうだろう」
「誰かが止めることは……」
「不可能だな。『不死兵』は王の血族と、王位継承権(おういけいしょうけん)を持つ者の命令しか聞かぬ」
「王の血族と、王位継承権を持つ者の?」
「だから貴殿は二度と、灰狼領から二度と出ることはできぬ……おい! なにをする!!」
「はい?」
「『不死兵』に近づくな! 危険だというのがわからぬのか!?」
「灰狼領から出ようとするものを攻撃するんですよね? 黒熊領の側から近づけば大丈夫だと思ったんですけど」
「だからといって触れようとする者があるか!? ええい! 異世界人はものを知らぬな!!」

 兵士たちが俺の腕をつかみ、街道へと引きずって行く。
 それから彼らは、街道に設置された(さく)の前で、俺を解放した。

「この柵の向こうが灰狼領だ。貴公が行くことはすでに伝えてある。逃げれば『不死兵』が貴公を殺すだろう。振り返らずに進め」
「わかりました。ここまで送ってくださって、ありがとうございました」

 俺は兵士たちに頭を下げた。
 それを見た隊長と兵士たちは、笑った。


「──本当に無知だな。これが無能な者への刑罰(けいばつ)だということもわからぬか」
「──見えないところにいろ。さもなければ、死ね」
「──異世界人へのみせしめだ。使えない人間がどうあつかわれるか、身をもって示すがいい」


 海からの強風に負けないように、そんなことをさけんでいる。
 結局、資料も取り上げられた。
 残ったのは服と靴と、少しの食料と水だけだ。

 兵士たちは俺に向かって(やり)を構えている。
 早く行け、ってことらしい。

 まぁいいや。
 予定通りにここまで来られた。実験もできた(・・・・・・)
 これからどうするかは、灰狼侯爵家の人と会って決めよう。

「それでは、失礼します」

 俺は兵士たちに背中を向けて歩き出す。
 そうして俺は、灰狼侯爵家の領地に足を踏み入れたのだった。





 ──その後、兵士たちは──


「それでは帰還(きかん)する」

 兵士たちの隊長は宣言した。
 苦々しい表情だった。

 主君の命令とはいえ、灰狼領の側は気分が悪い。
 ここは捨てられるべき者の住む場所だ。まともな人間が近づくべきではない。

 北西に視線を向ければ、黒々とした山が見える。
 数百年前に魔王が拠点にしていた、魔の山だ。
 その魔の山に一番近い場所にあるのが、灰狼領(はいろうりょう)
 つまり灰狼領は、魔王が復活したときに最初に襲われる場所でもあるのだ。

 いつか、魔王は復活する。
 そのときに最初に滅ぼされるか──あるいは、死に物狂いで抵抗するか。
 灰狼侯爵領は、そういう役目を背負わされている。

 今も灰狼侯爵家が存続しているのは、そのためだ。

 だから、領地の境目に『不死兵』が配置されているのだ。
 魔王が復活したときに灰狼領の者が逃げようとしたら、殺すために。

 灰狼領の者は必死で戦って、魔王とその配下を食い止めなければいけない。
 王家と、他の侯爵領が魔王への準備を整えるまでの間、時間を稼がなければいけない。

 さもなければ、殺す。
 それが、ここに『不死兵』が配置されている理由だ。

「しかし……あの異世界人は、ずいぶんと落ち着いていたな」

 100年前に灰狼に送られた者の記録を読んだことがある。
 その者は、二度と出られない場所に送られると知ったとき、海に身を投げた。
 灰狼領に入ったあとのことだ。
 その後、王家の許可なく異世界人を死なせた(ばつ)として、灰狼侯爵家は巨額(きょがく)罰金(ばっきん)を支払わされることになった。

 なのにコーヤ=アヤガキは、不思議なくらい落ち着いていた。
 運命を受け入れていたのか、それとも、なにか考えがあるのか──

「いや……捨てられるべき者に、考えなどあるわけがないか」

 しかも彼のジョブは『門番』だ。
 ジョブとしては最下層に位置している。そんな人間に知恵などあるわけがない。
 おそらくは自分の境遇を理解できなかっただけだろう。
 なにも考えていないから、落ち着いているように見えただけだ。

 隊長はそう考えて、兵士たちに移動の指示を出したのだが──

「……ん?」

 隊長は『不死兵』を見て、首をかしげた。

「あの『不死兵』は……少しおかしくないか?」
「どうされましたか。隊長」
「『不死兵』の中に、こっちを向いている者がいるのだ。以前からそうだったか?」

 隊長の言葉を聞いて、兵士たちが一斉に灰狼領の方を見る。

 ふたつの侯爵領の境目に並ぶ、10体の『不死兵』。
 そのうち1体が、黒熊領の(・・・・)方を(・・)向いていた(・・・・・)

「どうして『不死兵』が我々の方を向いているのだ? 10体とも灰狼領の方を向いていたような気がするのだが? 違ったか?」
「どうでしょうか? よく覚えていません」

 兵士のひとりは首をかしげる。

「風の影響かもしれません。こんな風の強い場所に数百年も置いてあったら、多少は向きが変わってもおかしくないのではありませんか?」
「…………そうかもしれぬな」
「…………そうですよ」
「だが、奇妙なのは確かだ。侯爵さまに報告すべきだろうか?」
「それは我々にはなんとも……」
「……むむぅ」

 初代大王アルカインが作ったマジックアイテムは絶対だ。
 建国から200年もの間、国を守る力として働いている。
 その能力を疑うのは、王家を疑うのに等しい。

 現に、王宮で『測定用クリスタル』の能力を疑った異世界人が殺されかけている。
 黒熊侯は、それを笑いながら話していた。
 その黒熊候に『「不死兵(イモータル)」に異常あり』と言えるだろうか……?

「『不死兵』の管理は我々の仕事ではない。役目は果たした。領都へと帰還するぞ」

 隊長は結論を出した。
 彼の指示に従い、馬車と兵団は黒熊侯爵領の領都へと向かったのだった。

 その後──


 ぎぎぎ。


 彼らが立ち去ったあと、『不死兵』の足元で、音がした。
 長年、こびりついた土と砂を払って、『不死兵』が動き出す。
 そうして、ゆっくりと向きを変えていく。
 やがて2体目の『不死兵』が、黒熊領の方角へと向き直る。

 それはまるで、灰狼侯爵領を守るような姿だった。






 ──数時間後。コーヤ視点──



「俺のスキルは『王位継承権(おういけいしょうけん)』です」

 数時間後。
 侯爵令嬢(こうしゃくれいじょう)のアリシア=グレイウルフに向かって、俺は言った。

「『王位継承権』スキルとは、魔力や血、遺伝子などが『王位を継承(けいしょう)する権利があるもの』としてあつかわれるものです。このスキルで俺は初代大王のマジックアイテムに干渉しました」
「……え」
「取り引きしませんか?」

 呆然(ぼうぜん)とする侯爵令嬢に、俺は続ける。

「灰狼領での居場所と、自由な行動を保証してください。代わりに俺は、あなたが着けている『首輪』を外します。悪い話じゃないと思いますが、どうでしょうか?」