彼の顔にはいつも通りの笑顔が浮かんで。
両手いっぱいにプリント、その上にホッチキス、どこかの部屋の鍵を渡されて職員室のドアが閉められる。
やっぱりこの役割、辞めさせてくれないかな。
というか辞めたい。
そこまで重くはないけど気が重いせいで気持ちまで沈む。
切り替えたばかりだけど。
鍵についている名札には”視聴覚室”と書かれていた。
授業で一度も使ったことがない場所にわざわざ向かい、どんどん人気がなくなっていく。窓の外には部活にいそしむ生徒、帰路につく生徒、各々の姿が見えて。
「はあ、」
誰が見ているわけでもないのにため息をつく。
視聴覚室になんとか辿り着き、もらった鍵でドアを開けると、冷えた空気が満ちていた。
「確かに作業するにはいい環境、かな」
誰も近寄らない場所だし集中してできそうだ。
こんな作業じゃなくて勉強とかに使いたい。静かで冷えてて、これからの季節ずっとここで過ごしたい。
机の上にプリントを置いて傍に自分の鞄を放る。視聴覚室って、何のためにあるのか今まで考えたことなかったけど、机や椅子が片隅に固められていて半ば物置扱いになっているんだろう。
椅子に腰掛け、ホッチキスを避ける。
プリントを数枚綴りにして人数分揃える、なんて。確かに地道で地味で、細かい作業が苦手と言っていた担任には面倒臭いものだ。
「ま、これくらいなら」
静かすぎると独り言が自然と出てくる。
「早く終わらせよ…」
まずプリントを1綴り5枚分に分けなければならない。机がたくさんあって助かった。
任されると嫌になってしまうけど、黙々と行う作業は性に合っている。窓の外から聞こえる部活生の掛け声と時計の秒針を微かなBGMにひたすら手を動かす。
あっという間に仕分け終わり、ここからが本番だった。

