うんめい手繰り寄せ




この騒がしい教室のなか、一応真面目に自習に取り組んでいるのは数えるほどだと思う。


通っているこの高校はガチガチの進学校という訳でもなく、とりわけ自由が多い。
偏差値はそれなりで、特に制限はない校風。髪色もあまり派手すぎるとお叱りを受ける程度で厳しすぎない。
アルバイトも申請すれば通るし、化粧もある程度は許されている。


進学したい生徒は進学コースに身を置き、別の教室で授業を受けるようだけど、特に希望がなければ平々凡々に過ごすだけ。進学校でなくてももちろん大学にはいけるし困ることは少ない。
と、自分では思っている。



「淺井くん!」



賑やかななか、唐突に名前を呼ばれて顔を上げた。
隣の席の女子が困ったような表情を浮かべながら此方を向いていて、彼女の手にはシャーペンが握られている。



「何?」

「いま大丈夫? ちょっと数学で聞きたいことがあって」



こんな賑やかな空間でも真面目に自習に取り組んでいる人がいるんだと内心驚いてしまう。手持ち無沙汰に開いていた小説を思わず閉じた。



「いいよ。どこ?」

「あ、ありがとう! ここなんだけど、」



見習うべきだな、と向けられた笑顔を見ながら自分を叱咤。
彼女は授業の復習をしているらしくノートを此方に寄せて、書きかけの数式を指さした。その数式は結構厄介で面倒臭いものだ。


一回では理解できなかったもので、昨夜復習しておいてよかった、と安堵からため息でも出そうだった。
教科書を見てもらいながら説明すると、理解が進んできた様子で書きかけの数式が解まで辿り着く。



「できたっ。難しいね」



ふう、とひと息つきながら彼女はまた笑顔を浮かべた。



「よかった。これ結構代入のポイントが面倒臭いし、教科書だとこのページ見ながら解いたほうがいいよ」



教科書を指さしてそう言うと、律儀に付箋を貼り付ける真面目さにまた感心していしまう。