今度は此方が言葉に詰まる番だった。
眉を下げてそう言われ、驚いてしまう。
「わ、かりました」
一限目が自習なんて、新学期始まって初めてのことだ。
この教師の口からそんな言葉が出てくるなんて予想できず、呆気に取られながら返事をする。驚きすぎて先程の怒りはすぐに鳴り潜めた。
急にあたりをキョロキョロし始めた担任は手招きしながら、廊下の端に寄り、小声で申し訳ないと続ける。
「じつは交通事故が起こったらしくて、」
なるほど。
それで自習か。
「一応、みんなには伏せておきます」
「さすが淺井、話が早いな」
安心したような笑顔に此方も笑顔を返した。
任せた、と肩を強く叩いた後、すぐに去っていく後ろ姿に内心苦笑する。べつに、一限が自習だって言ってもクラスメイトは理由なんて聞いてこないと思う。
すぐに盛り上がってしまうだろうから。
軽く痛む肩をさすりながら教室に向かう。
変わらず賑やかな廊下。新しいクラスになっていまだに消えない賑やかさは今日もいろんな話題で満ちている。
2年5組。自分の教室から聞こえる賑やかさも変わらない。
開きっぱなしの入り口に足を踏み入れて机に鞄を置く。その足で黒板に向かい、”一限 自習”とチョークで大きく書いた。
粉がついた指先を叩いて、再び自分の席に戻る。
その途中でクラスメイトが近づいてきた。
「自習なの?」
「あ、うん。担任が言ってた」
「まじかー。やった!」
端的に返すと嬉しそうな様子で友人のもとに駆けていく。ほら、理由はべつにいらない。予想通りだった。
椅子に座り荷物の整理をしているとやっと汗は引き、次は逆に冷えさえ感じる。
こんな調子じゃそのうち体調でも崩しそうだ。
読みかけの小説でも開くと周りの賑やかさはどうでも良くなった。
でも今日は。
ーーキーンコーン…
その音が響いても、教室は浮かれている。

