まだ春なのにいい加減にしてほしい。
5月の日差しだと思えないほど容赦なく照りつける光、顳顬から伝う汗を取り出したハンカチで拭い内心毒づく。
一度も染めたことがない黒髪は一層日光を集めている気がする。
生まれつきの黒髪を恨んでみたけれど、この日差しではどんな髪色でも一緒だ。
駅からに一本道、同じ学校だろう生徒が多く、みんなが口々に暑さを嘆いている。
自分だけじゃない。それだけで少しは気持ちが落ち着いた。
肩からずり落ちそうな鞄の紐を掛け直し、足早に進む。
早く、日陰に避難したい。
年々暑さが増すこの季節、今年は制服の更衣期間も早いと思う。
「暑、」
目にかかりそうな前髪を指先で避けて、また恨んだ。
まだ春なのに。
⪩⪨
⪩⪨
「淺井、ちょっといいか」
昇降口で靴を履き替え、廊下に向かう途中で自分の名前が呼ばれ足を止める。
振り返ると担任教師の困ったような表情が此方を見下ろしていた。
「おはようございます」
「え? ああ、おはよう」
挨拶すら忘れていた様子で返されて、なんだか面倒くさく感じる。
暑さが緩和されて落ち着いたと思っていた気持ちはまだまだささくれていたようだ。短絡的な怒りをしずめるためにちいさく息を吐き出す。
この担任の担当科目は体育で年中ジャージ着ていて、自由人で、明るい笑顔で声が大きくて。って、結構”体育教師を言えば”の特徴を揃えているひとだ。
そんな彼がわざわざ声をかけてくるのは常だけど。
「今日の一限、自習だってクラスに言っておいてくれないか」
「え、」

