【映像記録 #125】
日付:2025年4月19日 08:00
撮影者:川瀬誠
場所:リビング
ファイル名:IMG_0125.MP4
[朝のリビング。家族四人がソファに座っている]
[一晩中、誰も眠っていない様子]
[疲労と恐怖で憔悴した顔]
誠の声:「...夜は何も起きなかったな」
美咲:「ええ...でも、眠れなかった」
結衣:「私も...ずっと物音がして」
蓮:「俺も聞こえた。壁の中から...何かが動いてるみたいな」
誠:「記録には何も映ってない。でも、確かに何かがいる」
美咲:「霊媒師、見つかった?」
誠:「ああ。今日の午後、来てくれることになった」
結衣:「本当に...助けてくれるかな」
誠:「わからない。でも、やってみるしかない」
[窓の外を見る誠]
誠:「それまで、みんな一緒にいよう」
[全員が頷く]
[しかし]
[ダイニングの方から]
[ギシッという音]
[椅子が動く音]
[五人目の椅子]
全員:「...!」
[ゆっくりと椅子が動いている]
[まるで誰かが座っているように]
蓮:「おばあちゃん...?」
[しかし、違う]
[椅子の周りの空気が]
[黒く淀んでいる]
美咲:「あれは...お母さんじゃない...」
[椅子が激しく揺れ始める]
[そして]
[バタン!]
[椅子が倒れる]
[床に叩きつけられる]
[何度も]
[何度も]
[まるで誰かが怒り狂って暴れているように]
誠:「離れろ!」
[家族が後ずさる]
[椅子の暴走は続く]
[やがて]
[椅子が壊れる]
[脚が折れ、背もたれが砕ける]
[房江が大切にしていた椅子が]
[バラバラになる]
美咲:「お母さんの椅子...!」
[突然、すべてが止まる]
[静寂]
[床に散らばる椅子の破片]
[そして]
[破片の上に]
[霜で文字が浮かぶ]
『オマエタチノ バショ ジャナイ』
[全員が凍りつく]
誠:「...俺たちの場所じゃない...?」
[映像終了 / 録画時間:7分18秒]
【映像記録 #128】
日付:2025年4月19日 14:00
撮影者:川瀬誠
場所:リビング
ファイル名:IMG_0128.MP4
[リビング。家族と、初老の女性が座っている]
[女性は霊媒師の桐谷静江(65歳)]
[白い着物を着ている]
桐谷:「...なるほど」
誠:「何かわかりますか?」
桐谷:「この家には、確かに複数の霊がいます」
美咲:「複数...?」
桐谷:「一つは、優しい気配。おそらく、お義母様ですね」
誠:「はい、房江です」
桐谷:「もう一つは...」
[桐谷の表情が曇る]
桐谷:「非常に強い悪意。そして、怨念」
結衣:「怨念...」
桐谷:「この土地に、何かあったのではありませんか?」
美咲:「土地...?」
誠:「わかりません。ここに住んで15年ですが...」
桐谷:「調べてみるべきです。土地の歴史を」
桐谷:「その怨念は、あなた方個人に向けられているのではない」
桐谷:「この場所そのものに執着している」
蓮:「だから、『お前たちの場所じゃない』って...」
桐谷:「そうです。この土地の元の持ち主...あるいは、もっと古い何かが」
桐谷:「戻ってきているのかもしれません」
[桐谷が立ち上がる]
桐谷:「家の中を見せていただけますか?」
誠:「はい。どうぞ」
[桐谷が家の中を歩き回る]
[カメラが後を追う]
[各部屋を見て回る桐谷]
[やがて、2階の房江の部屋の前で立ち止まる]
桐谷:「...ここです」
美咲:「ここ?」
桐谷:「ここが、最も強い」
[ドアを開ける]
[部屋の中]
[壊れた椅子の残骸が、誰かが運び入れたのか、部屋の中央に積まれている]
桐谷:「この椅子...」
美咲:「母が使っていたものです」
桐谷:「いえ、それだけではありません」
[桐谷が椅子の破片に触れる]
桐谷:「この椅子には...二つの気配が染み付いている」
誠:「二つ?」
桐谷:「一つは、お義母様」
桐谷:「もう一つは...」
[桐谷が息を呑む]
桐谷:「男性...中年の...」
美咲:「男性...?」
桐谷:「この椅子、どこで手に入れたんですか?」
美咲:「母が...ずっと使っていたものです。もう20年以上...」
桐谷:「その前は?」
美咲:「確か...古道具屋で買ったと聞いています」
桐谷:「古道具屋...」
[桐谷が目を閉じる]
[何かを感じ取ろうとしている]
[やがて、目を開ける]
桐谷:「見えます...」
桐谷:「この椅子の元の持ち主...」
桐谷:「焼け死んでいます」
全員:「!?」
桐谷:「火事...この土地で起きた火事...」
桐谷:「多くの人が亡くなった...」
誠:「この土地で...火事?」
桐谷:「調べてください。必ず記録があるはずです」
[映像終了 / 録画時間:12分44秒]
【ウェブ検索記録】
日付:2025年4月19日 15:00
検索者:川瀬誠
検索ワード:「この住所 火災 歴史」
検索結果:
「○○町火災事故(1978年)」
1978年8月15日、現在の○○町3丁目地域で大規模火災が発生。
木造アパート「緑荘」が全焼。
死者:7名
負傷者:12名
出火原因:放火の疑い
犯人:住人の一人、田所健一(当時42歳)が関与したとされるが、
田所も火災で死亡したため、真相は不明。
田所健一は、アパートの大家との金銭トラブルを抱えており、
事件前日に激しい口論があったとの証言あり。
火災後、この土地は長年放置されたが、
1995年に再開発され、現在は住宅地となっている。
誠の声(録音):「...1978年。47年前」
誠:「この家が建っているのは、まさにその場所...」
誠:「緑荘があった場所だ」
誠:「田所健一...42歳...放火犯...」
誠:「この男が...今、戻ってきている...?」
【映像記録 #130】
日付:2025年4月19日 16:00
撮影者:川瀬誠
場所:リビング
ファイル名:IMG_0130.MP4
[リビング。家族と桐谷が再び集まっている]
[誠が調べた内容を説明する]
誠:「1978年、この場所で火災がありました」
誠:「7人が亡くなっています」
桐谷:「...やはり」
美咲:「その中の一人が...今、この家に?」
桐谷:「田所健一。その名前に覚えはありますか?」
全員が首を横に振る]
桐谷:「椅子です」
誠:「椅子?」
桐谷:「あの椅子は、田所のものだったのでしょう」
桐谷:「火災から生き残った家財の一つ」
桐谷:「それを、お義母様が古道具屋で買った」
美咲:「それで...田所の霊が...」
桐谷:「ええ。椅子に宿っていた」
桐谷:「長年、眠っていたのでしょう。しかし...」
誠:「房江が亡くなって、この家に椅子が戻ってきて...」
桐谷:「霊的な活動が活発になった」
桐谷:「お義母様の霊が現れたことで、刺激されたのかもしれません」
蓮:「じゃあ、どうすれば...」
桐谷:「供養です。田所を、そして火災で亡くなった方々全員を」
桐谷:「きちんと供養しなければ、この土地に平和は訪れません」
結衣:「供養...できますか?」
桐谷:「やってみます。ただし...」
美咲:「ただし?」
桐谷:「田所の怨念は非常に強い」
桐谷:「私一人では...難しいかもしれません」
誠:「じゃあ...」
桐谷:「お義母様の力を借りるのです」
全員:「房江の...?」
桐谷:「あなた方と和解した、優しい霊」
桐谷:「お義母様なら、手助けしてくれるはずです」
美咲:「お母さん...」
桐谷:「今夜、儀式を行います」
桐谷:「皆さん、覚悟を決めてください」
[映像終了 / 録画時間:8分37秒]
【映像記録 #133】
日付:2025年4月19日 22:00
撮影者:川瀬誠(三脚固定)
場所:房江の部屋
ファイル名:IMG_0133.MP4
[房江の部屋。ろうそくが灯されている]
[壊れた椅子の破片が部屋の中央に集められている]
[桐谷が祭壇を設置している]
[線香、数珠、経典]
[家族四人が部屋の四隅に座っている]
桐谷:「では、始めます」
桐谷:「誰も、円の外に出てはいけません」
桐谷:「何が起きても、部屋から出てはいけません」
全員:「はい」
[桐谷が経を唱え始める]
[低く、リズミカルな読経]
[部屋の空気が重くなる]
[ろうそくの炎が揺れる]
[窓が閉まっているのに]
[00:05:00経過]
[突然]
[椅子の破片が浮き上がる]
蓮:「!」
桐谷:「動かないで!」
[破片が空中で回転する]
[そして]
[破片が組み上がり始める]
[元の椅子の形に]
[しかし、不完全]
[歪んだ形]
[悪意に満ちた形]
[椅子から]
[黒い霧が湧き出る]
[霧が人の形を取る]
[田所健一の霊]
[焼け焦げた顔]
[怒りに満ちた目]
田所の声(ドス黒い声):「出て行け...」
田所:「ここは...俺の場所だ...」
桐谷:「田所健一。あなたの苦しみはわかります」
田所:「何が...わかる...」
田所:「あの日...あの火事で...」
田所:「俺は...燃えた...」
田所:「肌が...肉が...」
田所:「焼ける痛み...わかるか...!」
[田所が桐谷に襲いかかろうとする]
[しかし、見えない壁に阻まれる]
桐谷:「あなたは、自ら火を放った」
田所:「大家が...悪い...!」
田所:「俺を追い出そうと...!」
田所:「だから...燃やした...!」
桐谷:「そして、罪のない人々も巻き込んだ」
田所:「知るか...!」
田所:「俺は...被害者だ...!」
桐谷:「違います」
桐谷:「あなたは加害者です」
田所:「黙れ!!」
[部屋全体が揺れる]
[壁に亀裂が走る]
結衣:「きゃあ!」
美咲:「結衣!」
桐谷:「川瀬房江!」
桐谷:「力を貸してください!」
[沈黙]
[そして]
[部屋の反対側]
[光が生まれる]
[優しい、温かい光]
[その中から]
[房江の姿が現れる]
[以前よりもはっきりと]
[穏やかな顔]
美咲:「お母さん...!」
房江:「みさき...」
房江:「だいじょうぶ」
[房江が田所に向き合う]
房江:「たどころさん...」
田所:「...誰だ」
房江:「わたしも...あなたと...おなじ」
田所:「同じ...?」
房江:「くるしんで...しんだ」
房江:「むすめに...みすてられて」
田所:「...」
房江:「にくしみも...あった」
房江:「でも...わかった」
房江:「にくしんでも...なにも...うまれない」
田所:「俺は...」
房江:「あなたも...つらかったのね」
[房江が田所に手を伸ばす]
房江:「もう...いいのよ」
房江:「ゆるして...あげて」
田所:「ゆるす...?」
房江:「じぶんを」
[田所が動きを止める]
田所:「...俺を...?」
房江:「そう」
房江:「だれより...じぶんを...ゆるして」
[田所の表情が変わる]
[怒りが]
[悲しみに変わる]
田所:「俺は...」
田所:「俺は...悪く...ない...」
[涙が流れる]
田所:「俺は...ただ...」
田所:「いきたかっただけ...」
房江:「わかって...いる」
[房江が田所に触れる]
[光が田所を包む]
田所:「これは...」
房江:「もう...くるしまなくて...いい」
房江:「いきなさい...あちらへ...」
田所:「でも...俺は...」
房江:「だいじょうぶ」
房江:「わたしも...いく」
[房江と田所]
[二人とも光に包まれている]
美咲:「お母さん...行っちゃうの...?」
房江:「ええ...もう...いかないと」
誠:「房江さん...」
房江:「まこと...みさきを...たのむ」
誠:「はい...」
房江:「ゆい...れん...」
結衣:「おばあちゃん...」
蓮:「行かないで...」
房江:「だいじょうぶ」
房江:「いつも...みている」
房江:「わすれない...」
房江:「あなたたちを...あいしてる」
[房江が微笑む]
[最後の、最も美しい笑顔]
[光が強くなる]
[田所も]
[穏やかな表情で]
[光の中に消えていく]
[二人の霊が]
[この世から旅立つ]
[部屋に]
[静寂が戻る]
[椅子の破片は]
[ただの木片に戻っている]
[もう、何の力も宿っていない]
[家族四人]
[泣いている]
[悲しみと]
[安堵と]
[感謝の涙]
桐谷:「...終わりました」
桐谷:「お義母様は、立派でした」
美咲:「ありがとうございました...お母さん...」
[映像終了 / 録画時間:28分15秒]
【映像記録 #140】
日付:2025年4月20日 10:00
撮影者:川瀬誠
場所:リビング
ファイル名:IMG_0140.MP4
[朝のリビング]
[家族四人が座っている]
[桐谷は帰った後]
[疲れているが、表情は穏やか]
誠の声:「...終わったんだな」
美咲:「ええ...」
結衣:「おばあちゃん、本当に行っちゃったんだね」
蓮:「でも、最後すごくいい顔してた」
誠:「そうだな」
美咲:「お母さん、ありがとう...」
[沈黙]
[しかし、それは重苦しいものではなく]
[穏やかな沈黙]
誠:「これから、どうする?」
美咲:「どうするって?」
誠:「この家...まだ住み続けるか?」
[家族が顔を見合わせる]
結衣:「私は...引っ越したい」
蓮:「俺も...」
美咲:「そうね...新しい場所で、新しく始めましょう」
誠:「わかった。じゃあ、家を探そう」
[全員が頷く]
誠:「でも、房江さんのこと...椅子のことは、忘れない」
美咲:「もちろん」
結衣:「記録、残すんでしょ?」
誠:「ああ。全部」
誠:「何が起きたか。俺たちが何をしたか」
誠:「後世のために」
蓮:「それが、俺たちの償いだね」
誠:「そうだ」
[家族が手を取り合う]
[新しい未来へ向かって]
[映像終了 / 録画時間:5分22秒]
【テキストファイル - 最終記録】
作成日:2025年5月25日
作成者:川瀬誠
川瀬家 最終記録
2025年5月25日
今日、引っ越しが完了した。
新しい家。新しい街。
新しい始まり。
あれから1ヶ月。
4月19日の夜、房江さんと田所の霊は旅立った。
それ以来、何も起きていない。
古い家は売却した。
新しい家族が住むことになる。
何も知らない、普通の家族が。
彼らには何も起きないだろう。
もう、霊はいない。
あの土地は、浄化された。
でも、俺たちは忘れない。
房江さんのこと。
俺たちがしたこと。
そして、許してもらえたこと。
この記録は、すべてを含んでいる。
2025年3月3日から5月25日まで。
83日間の記録。
映像、音声、テキスト。
すべて。
これを、どうするか。
美咲と話し合った。
警察には提出しない。
もう、その必要はないから。
でも、記録は残す。
ハードディスクに保存して。
いつか、子供たちが大人になったとき。
見てもらおう。
これが、川瀬家の物語だと。
房江さん。
見守っていてください。
俺たちは、これから前を向いて生きていきます。
あなたの孫たちを。
あなたの娘を。
そして、俺自身を。
大切にします。
ありがとうございました。
川瀬誠
【映像記録 #152 - 最終記録】
日付:2025年5月25日 20:00
撮影者:川瀬誠
場所:新居のダイニングルーム
ファイル名:IMG_0152_FINAL.MP4
[新しい家のダイニング]
[新しいテーブル]
[新しい椅子]
[四脚だけ]
[家族四人が夕食を囲んでいる]
誠の声:「これが、最後の記録になる」
美咲:「そうね」
結衣:「カメラ、もうやめるの?」
誠:「ああ。もう、記録する必要はない」
蓮:「寂しいような...」
誠:「でも、忘れるわけじゃない」
誠:「この83日間のこと。房江さんのこと」
誠:「全部、心に刻んで生きていく」
美咲:「そうね」
[家族が食事を始める]
[普通の、平和な食卓]
[笑い声]
[何気ない会話]
[温かな時間]
[カメラは静かに、それを記録している]
[やがて、食事が終わる]
誠:「じゃあ、これで...」
[カメラを止めようとする]
[そのとき]
蓮:「あ、お父さん、待って」
誠:「ん?」
蓮:「最後に、みんなで何か言おうよ」
結衣:「いいね」
美咲:「そうね」
[四人がカメラの方を向く]
誠:「じゃあ...何を?」
美咲:「お母さんへの、メッセージ」
誠:「...いいな」
[誠がカメラを三脚に固定する]
[四人がテーブルに座る]
[カメラに向かって]
美咲:「お母さん」
美咲:「私たち、新しい家で頑張ります」
美咲:「いつも見守っていてください」
結衣:「おばあちゃん」
結衣:「私、大学受験頑張る」
結衣:「おばあちゃんが誇れるような人になるから」
蓮:「おばあちゃん」
蓮:「俺も頑張る。野球も勉強も」
蓮:「だから、応援してて」
誠:「房江さん」
誠:「俺は...まだ完璧な夫でも父でもない」
誠:「でも、家族を大切にします」
誠:「約束します」
[四人が手を繋ぐ]
全員:「ありがとう」
全員:「房江おばあちゃん」
[沈黙]
[そのとき]
[窓が]
[そよ風で揺れる]
[優しい風]
[まるで]
[どういたしまして、と言っているような]
[家族が微笑む]
[カメラに向かって]
[最後の笑顔]
誠:「じゃあ、これで...」
[カメラに手を伸ばす]
[画面が暗くなる]
[しかし]
[完全に消える前に]
[最後の1秒]
[画面の端に]
[うっすらと]
[白い服を着た人影]
[房江]
[微笑んでいる]
[見守っている]
[そして]
[消える]
[映像終了 / 録画時間:6分47秒]
[記録の記録]
発見日:2026年2月8日
発見者:不明
発見場所:インターネット上の匿名掲示板
以下のメッセージと共に、83日間の全記録がアップロードされていた。
これは、ある家族の記録です。
2025年3月3日から5月25日まで。
83日間。
幸せな家族が、ある出来事をきっかけに恐怖の淵に立たされ、
そして、乗り越えていった記録。
なぜ、この記録を公開するのか。
同じような経験をしている人がいるかもしれない。
霊的な現象に悩まされている人。
家族の秘密に苦しんでいる人。
過去の罪に囚われている人。
そういう人たちに、伝えたい。
逃げないでください。
向き合ってください。
真実を語ってください。
そして、許してください。
他人を。
そして、自分自身を。
それが、この記録から学んだことです。
川瀬家は今、幸せに暮らしています。
房江おばあちゃんは、今も見守っています。
この記録が、誰かの役に立つことを願って。
2026年2月8日
川瀬家一同
【エピローグ】
【映像記録 #??? - 未公開映像】
日付:2025年9月15日
撮影者:川瀬蓮(スマートフォン)
場所:新居のダイニングルーム
ファイル名:SECRET_REC_001.MP4
[新居のダイニング]
[家族四人が夕食を食べている]
[笑顔]
[平和な日常]
[カメラがゆっくりとパンする]
[テーブルの端]
[そこには]
[五脚目の椅子が置かれている]
[古道具屋で見つけた]
[房江の椅子に似た椅子]
[誰も座っていない]
[しかし]
[その前には]
[食器が並べられている]
[五人分の食事]
蓮の声:「おばあちゃんの分」
[蓮が自然に料理を取り分ける]
[家族全員が当たり前のように]
[五人目の存在を認識している]
美咲:「お母さん、今日もいい天気だったわね」
[空の椅子に話しかける]
結衣:「おばあちゃん、私の英語のテスト、満点だったよ」
[椅子に報告する]
誠:「房江さん、食事、美味しいですか?」
[椅子に問いかける]
[そして]
[椅子の上]
[空気が揺らぐ]
[うっすらと]
[人の形]
[房江の姿]
[かすかに]
[でも確かに]
[そこにいる]
[家族の一員として]
[永遠に]
[カメラがズームする]
[房江の顔]
[微笑んでいる]
[幸せそうに]
[そして]
[カメラに向かって]
[小さく手を振る]
[まるで]
[これを見ている誰かに向けて]
[「大丈夫よ」と]
[「あなたも幸せになれるわ」と]
[伝えているように]
[映像終了]
日付:2025年4月19日 08:00
撮影者:川瀬誠
場所:リビング
ファイル名:IMG_0125.MP4
[朝のリビング。家族四人がソファに座っている]
[一晩中、誰も眠っていない様子]
[疲労と恐怖で憔悴した顔]
誠の声:「...夜は何も起きなかったな」
美咲:「ええ...でも、眠れなかった」
結衣:「私も...ずっと物音がして」
蓮:「俺も聞こえた。壁の中から...何かが動いてるみたいな」
誠:「記録には何も映ってない。でも、確かに何かがいる」
美咲:「霊媒師、見つかった?」
誠:「ああ。今日の午後、来てくれることになった」
結衣:「本当に...助けてくれるかな」
誠:「わからない。でも、やってみるしかない」
[窓の外を見る誠]
誠:「それまで、みんな一緒にいよう」
[全員が頷く]
[しかし]
[ダイニングの方から]
[ギシッという音]
[椅子が動く音]
[五人目の椅子]
全員:「...!」
[ゆっくりと椅子が動いている]
[まるで誰かが座っているように]
蓮:「おばあちゃん...?」
[しかし、違う]
[椅子の周りの空気が]
[黒く淀んでいる]
美咲:「あれは...お母さんじゃない...」
[椅子が激しく揺れ始める]
[そして]
[バタン!]
[椅子が倒れる]
[床に叩きつけられる]
[何度も]
[何度も]
[まるで誰かが怒り狂って暴れているように]
誠:「離れろ!」
[家族が後ずさる]
[椅子の暴走は続く]
[やがて]
[椅子が壊れる]
[脚が折れ、背もたれが砕ける]
[房江が大切にしていた椅子が]
[バラバラになる]
美咲:「お母さんの椅子...!」
[突然、すべてが止まる]
[静寂]
[床に散らばる椅子の破片]
[そして]
[破片の上に]
[霜で文字が浮かぶ]
『オマエタチノ バショ ジャナイ』
[全員が凍りつく]
誠:「...俺たちの場所じゃない...?」
[映像終了 / 録画時間:7分18秒]
【映像記録 #128】
日付:2025年4月19日 14:00
撮影者:川瀬誠
場所:リビング
ファイル名:IMG_0128.MP4
[リビング。家族と、初老の女性が座っている]
[女性は霊媒師の桐谷静江(65歳)]
[白い着物を着ている]
桐谷:「...なるほど」
誠:「何かわかりますか?」
桐谷:「この家には、確かに複数の霊がいます」
美咲:「複数...?」
桐谷:「一つは、優しい気配。おそらく、お義母様ですね」
誠:「はい、房江です」
桐谷:「もう一つは...」
[桐谷の表情が曇る]
桐谷:「非常に強い悪意。そして、怨念」
結衣:「怨念...」
桐谷:「この土地に、何かあったのではありませんか?」
美咲:「土地...?」
誠:「わかりません。ここに住んで15年ですが...」
桐谷:「調べてみるべきです。土地の歴史を」
桐谷:「その怨念は、あなた方個人に向けられているのではない」
桐谷:「この場所そのものに執着している」
蓮:「だから、『お前たちの場所じゃない』って...」
桐谷:「そうです。この土地の元の持ち主...あるいは、もっと古い何かが」
桐谷:「戻ってきているのかもしれません」
[桐谷が立ち上がる]
桐谷:「家の中を見せていただけますか?」
誠:「はい。どうぞ」
[桐谷が家の中を歩き回る]
[カメラが後を追う]
[各部屋を見て回る桐谷]
[やがて、2階の房江の部屋の前で立ち止まる]
桐谷:「...ここです」
美咲:「ここ?」
桐谷:「ここが、最も強い」
[ドアを開ける]
[部屋の中]
[壊れた椅子の残骸が、誰かが運び入れたのか、部屋の中央に積まれている]
桐谷:「この椅子...」
美咲:「母が使っていたものです」
桐谷:「いえ、それだけではありません」
[桐谷が椅子の破片に触れる]
桐谷:「この椅子には...二つの気配が染み付いている」
誠:「二つ?」
桐谷:「一つは、お義母様」
桐谷:「もう一つは...」
[桐谷が息を呑む]
桐谷:「男性...中年の...」
美咲:「男性...?」
桐谷:「この椅子、どこで手に入れたんですか?」
美咲:「母が...ずっと使っていたものです。もう20年以上...」
桐谷:「その前は?」
美咲:「確か...古道具屋で買ったと聞いています」
桐谷:「古道具屋...」
[桐谷が目を閉じる]
[何かを感じ取ろうとしている]
[やがて、目を開ける]
桐谷:「見えます...」
桐谷:「この椅子の元の持ち主...」
桐谷:「焼け死んでいます」
全員:「!?」
桐谷:「火事...この土地で起きた火事...」
桐谷:「多くの人が亡くなった...」
誠:「この土地で...火事?」
桐谷:「調べてください。必ず記録があるはずです」
[映像終了 / 録画時間:12分44秒]
【ウェブ検索記録】
日付:2025年4月19日 15:00
検索者:川瀬誠
検索ワード:「この住所 火災 歴史」
検索結果:
「○○町火災事故(1978年)」
1978年8月15日、現在の○○町3丁目地域で大規模火災が発生。
木造アパート「緑荘」が全焼。
死者:7名
負傷者:12名
出火原因:放火の疑い
犯人:住人の一人、田所健一(当時42歳)が関与したとされるが、
田所も火災で死亡したため、真相は不明。
田所健一は、アパートの大家との金銭トラブルを抱えており、
事件前日に激しい口論があったとの証言あり。
火災後、この土地は長年放置されたが、
1995年に再開発され、現在は住宅地となっている。
誠の声(録音):「...1978年。47年前」
誠:「この家が建っているのは、まさにその場所...」
誠:「緑荘があった場所だ」
誠:「田所健一...42歳...放火犯...」
誠:「この男が...今、戻ってきている...?」
【映像記録 #130】
日付:2025年4月19日 16:00
撮影者:川瀬誠
場所:リビング
ファイル名:IMG_0130.MP4
[リビング。家族と桐谷が再び集まっている]
[誠が調べた内容を説明する]
誠:「1978年、この場所で火災がありました」
誠:「7人が亡くなっています」
桐谷:「...やはり」
美咲:「その中の一人が...今、この家に?」
桐谷:「田所健一。その名前に覚えはありますか?」
全員が首を横に振る]
桐谷:「椅子です」
誠:「椅子?」
桐谷:「あの椅子は、田所のものだったのでしょう」
桐谷:「火災から生き残った家財の一つ」
桐谷:「それを、お義母様が古道具屋で買った」
美咲:「それで...田所の霊が...」
桐谷:「ええ。椅子に宿っていた」
桐谷:「長年、眠っていたのでしょう。しかし...」
誠:「房江が亡くなって、この家に椅子が戻ってきて...」
桐谷:「霊的な活動が活発になった」
桐谷:「お義母様の霊が現れたことで、刺激されたのかもしれません」
蓮:「じゃあ、どうすれば...」
桐谷:「供養です。田所を、そして火災で亡くなった方々全員を」
桐谷:「きちんと供養しなければ、この土地に平和は訪れません」
結衣:「供養...できますか?」
桐谷:「やってみます。ただし...」
美咲:「ただし?」
桐谷:「田所の怨念は非常に強い」
桐谷:「私一人では...難しいかもしれません」
誠:「じゃあ...」
桐谷:「お義母様の力を借りるのです」
全員:「房江の...?」
桐谷:「あなた方と和解した、優しい霊」
桐谷:「お義母様なら、手助けしてくれるはずです」
美咲:「お母さん...」
桐谷:「今夜、儀式を行います」
桐谷:「皆さん、覚悟を決めてください」
[映像終了 / 録画時間:8分37秒]
【映像記録 #133】
日付:2025年4月19日 22:00
撮影者:川瀬誠(三脚固定)
場所:房江の部屋
ファイル名:IMG_0133.MP4
[房江の部屋。ろうそくが灯されている]
[壊れた椅子の破片が部屋の中央に集められている]
[桐谷が祭壇を設置している]
[線香、数珠、経典]
[家族四人が部屋の四隅に座っている]
桐谷:「では、始めます」
桐谷:「誰も、円の外に出てはいけません」
桐谷:「何が起きても、部屋から出てはいけません」
全員:「はい」
[桐谷が経を唱え始める]
[低く、リズミカルな読経]
[部屋の空気が重くなる]
[ろうそくの炎が揺れる]
[窓が閉まっているのに]
[00:05:00経過]
[突然]
[椅子の破片が浮き上がる]
蓮:「!」
桐谷:「動かないで!」
[破片が空中で回転する]
[そして]
[破片が組み上がり始める]
[元の椅子の形に]
[しかし、不完全]
[歪んだ形]
[悪意に満ちた形]
[椅子から]
[黒い霧が湧き出る]
[霧が人の形を取る]
[田所健一の霊]
[焼け焦げた顔]
[怒りに満ちた目]
田所の声(ドス黒い声):「出て行け...」
田所:「ここは...俺の場所だ...」
桐谷:「田所健一。あなたの苦しみはわかります」
田所:「何が...わかる...」
田所:「あの日...あの火事で...」
田所:「俺は...燃えた...」
田所:「肌が...肉が...」
田所:「焼ける痛み...わかるか...!」
[田所が桐谷に襲いかかろうとする]
[しかし、見えない壁に阻まれる]
桐谷:「あなたは、自ら火を放った」
田所:「大家が...悪い...!」
田所:「俺を追い出そうと...!」
田所:「だから...燃やした...!」
桐谷:「そして、罪のない人々も巻き込んだ」
田所:「知るか...!」
田所:「俺は...被害者だ...!」
桐谷:「違います」
桐谷:「あなたは加害者です」
田所:「黙れ!!」
[部屋全体が揺れる]
[壁に亀裂が走る]
結衣:「きゃあ!」
美咲:「結衣!」
桐谷:「川瀬房江!」
桐谷:「力を貸してください!」
[沈黙]
[そして]
[部屋の反対側]
[光が生まれる]
[優しい、温かい光]
[その中から]
[房江の姿が現れる]
[以前よりもはっきりと]
[穏やかな顔]
美咲:「お母さん...!」
房江:「みさき...」
房江:「だいじょうぶ」
[房江が田所に向き合う]
房江:「たどころさん...」
田所:「...誰だ」
房江:「わたしも...あなたと...おなじ」
田所:「同じ...?」
房江:「くるしんで...しんだ」
房江:「むすめに...みすてられて」
田所:「...」
房江:「にくしみも...あった」
房江:「でも...わかった」
房江:「にくしんでも...なにも...うまれない」
田所:「俺は...」
房江:「あなたも...つらかったのね」
[房江が田所に手を伸ばす]
房江:「もう...いいのよ」
房江:「ゆるして...あげて」
田所:「ゆるす...?」
房江:「じぶんを」
[田所が動きを止める]
田所:「...俺を...?」
房江:「そう」
房江:「だれより...じぶんを...ゆるして」
[田所の表情が変わる]
[怒りが]
[悲しみに変わる]
田所:「俺は...」
田所:「俺は...悪く...ない...」
[涙が流れる]
田所:「俺は...ただ...」
田所:「いきたかっただけ...」
房江:「わかって...いる」
[房江が田所に触れる]
[光が田所を包む]
田所:「これは...」
房江:「もう...くるしまなくて...いい」
房江:「いきなさい...あちらへ...」
田所:「でも...俺は...」
房江:「だいじょうぶ」
房江:「わたしも...いく」
[房江と田所]
[二人とも光に包まれている]
美咲:「お母さん...行っちゃうの...?」
房江:「ええ...もう...いかないと」
誠:「房江さん...」
房江:「まこと...みさきを...たのむ」
誠:「はい...」
房江:「ゆい...れん...」
結衣:「おばあちゃん...」
蓮:「行かないで...」
房江:「だいじょうぶ」
房江:「いつも...みている」
房江:「わすれない...」
房江:「あなたたちを...あいしてる」
[房江が微笑む]
[最後の、最も美しい笑顔]
[光が強くなる]
[田所も]
[穏やかな表情で]
[光の中に消えていく]
[二人の霊が]
[この世から旅立つ]
[部屋に]
[静寂が戻る]
[椅子の破片は]
[ただの木片に戻っている]
[もう、何の力も宿っていない]
[家族四人]
[泣いている]
[悲しみと]
[安堵と]
[感謝の涙]
桐谷:「...終わりました」
桐谷:「お義母様は、立派でした」
美咲:「ありがとうございました...お母さん...」
[映像終了 / 録画時間:28分15秒]
【映像記録 #140】
日付:2025年4月20日 10:00
撮影者:川瀬誠
場所:リビング
ファイル名:IMG_0140.MP4
[朝のリビング]
[家族四人が座っている]
[桐谷は帰った後]
[疲れているが、表情は穏やか]
誠の声:「...終わったんだな」
美咲:「ええ...」
結衣:「おばあちゃん、本当に行っちゃったんだね」
蓮:「でも、最後すごくいい顔してた」
誠:「そうだな」
美咲:「お母さん、ありがとう...」
[沈黙]
[しかし、それは重苦しいものではなく]
[穏やかな沈黙]
誠:「これから、どうする?」
美咲:「どうするって?」
誠:「この家...まだ住み続けるか?」
[家族が顔を見合わせる]
結衣:「私は...引っ越したい」
蓮:「俺も...」
美咲:「そうね...新しい場所で、新しく始めましょう」
誠:「わかった。じゃあ、家を探そう」
[全員が頷く]
誠:「でも、房江さんのこと...椅子のことは、忘れない」
美咲:「もちろん」
結衣:「記録、残すんでしょ?」
誠:「ああ。全部」
誠:「何が起きたか。俺たちが何をしたか」
誠:「後世のために」
蓮:「それが、俺たちの償いだね」
誠:「そうだ」
[家族が手を取り合う]
[新しい未来へ向かって]
[映像終了 / 録画時間:5分22秒]
【テキストファイル - 最終記録】
作成日:2025年5月25日
作成者:川瀬誠
川瀬家 最終記録
2025年5月25日
今日、引っ越しが完了した。
新しい家。新しい街。
新しい始まり。
あれから1ヶ月。
4月19日の夜、房江さんと田所の霊は旅立った。
それ以来、何も起きていない。
古い家は売却した。
新しい家族が住むことになる。
何も知らない、普通の家族が。
彼らには何も起きないだろう。
もう、霊はいない。
あの土地は、浄化された。
でも、俺たちは忘れない。
房江さんのこと。
俺たちがしたこと。
そして、許してもらえたこと。
この記録は、すべてを含んでいる。
2025年3月3日から5月25日まで。
83日間の記録。
映像、音声、テキスト。
すべて。
これを、どうするか。
美咲と話し合った。
警察には提出しない。
もう、その必要はないから。
でも、記録は残す。
ハードディスクに保存して。
いつか、子供たちが大人になったとき。
見てもらおう。
これが、川瀬家の物語だと。
房江さん。
見守っていてください。
俺たちは、これから前を向いて生きていきます。
あなたの孫たちを。
あなたの娘を。
そして、俺自身を。
大切にします。
ありがとうございました。
川瀬誠
【映像記録 #152 - 最終記録】
日付:2025年5月25日 20:00
撮影者:川瀬誠
場所:新居のダイニングルーム
ファイル名:IMG_0152_FINAL.MP4
[新しい家のダイニング]
[新しいテーブル]
[新しい椅子]
[四脚だけ]
[家族四人が夕食を囲んでいる]
誠の声:「これが、最後の記録になる」
美咲:「そうね」
結衣:「カメラ、もうやめるの?」
誠:「ああ。もう、記録する必要はない」
蓮:「寂しいような...」
誠:「でも、忘れるわけじゃない」
誠:「この83日間のこと。房江さんのこと」
誠:「全部、心に刻んで生きていく」
美咲:「そうね」
[家族が食事を始める]
[普通の、平和な食卓]
[笑い声]
[何気ない会話]
[温かな時間]
[カメラは静かに、それを記録している]
[やがて、食事が終わる]
誠:「じゃあ、これで...」
[カメラを止めようとする]
[そのとき]
蓮:「あ、お父さん、待って」
誠:「ん?」
蓮:「最後に、みんなで何か言おうよ」
結衣:「いいね」
美咲:「そうね」
[四人がカメラの方を向く]
誠:「じゃあ...何を?」
美咲:「お母さんへの、メッセージ」
誠:「...いいな」
[誠がカメラを三脚に固定する]
[四人がテーブルに座る]
[カメラに向かって]
美咲:「お母さん」
美咲:「私たち、新しい家で頑張ります」
美咲:「いつも見守っていてください」
結衣:「おばあちゃん」
結衣:「私、大学受験頑張る」
結衣:「おばあちゃんが誇れるような人になるから」
蓮:「おばあちゃん」
蓮:「俺も頑張る。野球も勉強も」
蓮:「だから、応援してて」
誠:「房江さん」
誠:「俺は...まだ完璧な夫でも父でもない」
誠:「でも、家族を大切にします」
誠:「約束します」
[四人が手を繋ぐ]
全員:「ありがとう」
全員:「房江おばあちゃん」
[沈黙]
[そのとき]
[窓が]
[そよ風で揺れる]
[優しい風]
[まるで]
[どういたしまして、と言っているような]
[家族が微笑む]
[カメラに向かって]
[最後の笑顔]
誠:「じゃあ、これで...」
[カメラに手を伸ばす]
[画面が暗くなる]
[しかし]
[完全に消える前に]
[最後の1秒]
[画面の端に]
[うっすらと]
[白い服を着た人影]
[房江]
[微笑んでいる]
[見守っている]
[そして]
[消える]
[映像終了 / 録画時間:6分47秒]
[記録の記録]
発見日:2026年2月8日
発見者:不明
発見場所:インターネット上の匿名掲示板
以下のメッセージと共に、83日間の全記録がアップロードされていた。
これは、ある家族の記録です。
2025年3月3日から5月25日まで。
83日間。
幸せな家族が、ある出来事をきっかけに恐怖の淵に立たされ、
そして、乗り越えていった記録。
なぜ、この記録を公開するのか。
同じような経験をしている人がいるかもしれない。
霊的な現象に悩まされている人。
家族の秘密に苦しんでいる人。
過去の罪に囚われている人。
そういう人たちに、伝えたい。
逃げないでください。
向き合ってください。
真実を語ってください。
そして、許してください。
他人を。
そして、自分自身を。
それが、この記録から学んだことです。
川瀬家は今、幸せに暮らしています。
房江おばあちゃんは、今も見守っています。
この記録が、誰かの役に立つことを願って。
2026年2月8日
川瀬家一同
【エピローグ】
【映像記録 #??? - 未公開映像】
日付:2025年9月15日
撮影者:川瀬蓮(スマートフォン)
場所:新居のダイニングルーム
ファイル名:SECRET_REC_001.MP4
[新居のダイニング]
[家族四人が夕食を食べている]
[笑顔]
[平和な日常]
[カメラがゆっくりとパンする]
[テーブルの端]
[そこには]
[五脚目の椅子が置かれている]
[古道具屋で見つけた]
[房江の椅子に似た椅子]
[誰も座っていない]
[しかし]
[その前には]
[食器が並べられている]
[五人分の食事]
蓮の声:「おばあちゃんの分」
[蓮が自然に料理を取り分ける]
[家族全員が当たり前のように]
[五人目の存在を認識している]
美咲:「お母さん、今日もいい天気だったわね」
[空の椅子に話しかける]
結衣:「おばあちゃん、私の英語のテスト、満点だったよ」
[椅子に報告する]
誠:「房江さん、食事、美味しいですか?」
[椅子に問いかける]
[そして]
[椅子の上]
[空気が揺らぐ]
[うっすらと]
[人の形]
[房江の姿]
[かすかに]
[でも確かに]
[そこにいる]
[家族の一員として]
[永遠に]
[カメラがズームする]
[房江の顔]
[微笑んでいる]
[幸せそうに]
[そして]
[カメラに向かって]
[小さく手を振る]
[まるで]
[これを見ている誰かに向けて]
[「大丈夫よ」と]
[「あなたも幸せになれるわ」と]
[伝えているように]
[映像終了]



