【映像記録 #085】
日付:2025年4月1日 07:30
撮影者:川瀬誠
場所:ダイニングルーム
ファイル名:IMG_0085.MP4
[朝のダイニング。家族四人が朝食を食べている]
[五人目の椅子と食器は、もはや当たり前の光景]
誠の声:「今日から4月だな」
美咲:「そうね。もう春だわ」
結衣:「桜、もう咲いてるよね」
蓮:「学校の桜、満開だった」
誠:「そうか。今度、お花見でも行くか」
美咲:「いいわね」
蓮:「おばあちゃんの分のお弁当も作らないとね」
[全員が微笑む]
[しかし]
[美咲の表情が、一瞬曇る]
誠:「美咲?」
美咲:「ん? なんでもないわ」
誠:「顔色が悪いぞ」
美咲:「大丈夫。ちょっと寝不足なだけ」
結衣:「お母さん、最近よく眠れてないの?」
美咲:「ええ...まあ」
蓮:「悪夢とか?」
美咲:「...似たようなもの」
誠:「どんな?」
美咲:「いいのよ。大したことないから」
[美咲が話題を変えようとする]
美咲:「それより、蓮。今日、部活あるんでしょ?」
蓮:「うん。午後から」
美咲:「お弁当、多めに作っておくわね」
蓮:「ありがと」
[会話が続く]
[しかし、カメラは捉えている]
[美咲の手が、わずかに震えていることを]
[コーヒーカップを持つ手が]
[不自然に震えている]
[映像終了 / 録画時間:5分42秒]
【スマートフォン映像 #018】
日付:2025年4月1日 12:45
撮影者:川瀬結衣
場所:高校の屋上
ファイル名:VID_20250401_124532.mp4
[屋上。結衣が友人の美月と話している]
[二人でお弁当を食べている]
美月:「ねえ、結衣」
結衣:「ん?」
美月:「最近、元気になったよね」
結衣:「そう?」
美月:「うん。前は何か...暗い感じだったけど」
結衣:「家族の問題、一応解決したから」
美月:「よかった。お父さんのカメラも?」
結衣:「まだ続けてる。でも、もう慣れた」
美月:「そっか」
[空を見上げる結衣]
結衣:「でもね...」
美月:「ん?」
結衣:「時々、変な感じがするんだ」
美月:「変な感じ?」
結衣:「誰かに見られてる感じ。でも、優しい目で」
美月:「おばあちゃん?」
結衣:「...たぶん」
美月:「怖くないの?」
結衣:「ううん。もう怖くない」
結衣:「おばあちゃん、許してくれたと思うから」
美月:「そっか...」
[沈黙]
美月:「でも、結衣」
結衣:「ん?」
美月:「本当に、全部終わったの?」
結衣:「...どういうこと?」
美月:「いや...なんとなく」
美月:「まだ何か、続いてる気がして」
結衣:「...」
[結衣がスマホを見る]
[画面に通知]
[送信者:不明]
結衣:「...また」
美月:「メッセージ?」
結衣:「うん...」
[メッセージを開く]
[内容を読んで、結衣の顔が青ざめる]
美月:「どうしたの?」
結衣:「...これ」
[美月に見せる]
美月(読み上げる):「『みさき くるしんでる』...?」
結衣:「お母さんが...苦しんでる...?」
美月:「誰が送ってるの?」
結衣:「わかんない...でも」
[次のメッセージが届く]
結衣:「『たすけて あげて』...」
美月:「これって...」
結衣:「おばあちゃんからかも...」
[結衣が立ち上がる]
結衣:「ごめん、帰る!」
美月:「え? 授業は?」
結衣:「休む!お母さんが心配!」
[結衣が走り出す]
[スマホを持ったまま]
[映像は揺れながら、空と地面を交互に映す]
[映像終了 / 録画時間:3分27秒]
【音声記録 #032】
日付:2025年4月1日 13:00
録音者:川瀬蓮
場所:学校の教室
ファイル名:Voice_032.m4a
[教室。授業中らしい雑音]
[先生の声が遠くから聞こえる]
蓮の声(小声):「やばい、眠い...」
[あくび]
蓮:「昨日、ちゃんと寝たのに...」
[机に突っ伏す音]
蓮:「ちょっとだけ...」
[規則正しい呼吸]
[眠りに落ちる蓮]
[00:02:30]
[突然、蓮が何かを呟く]
蓮(寝言):「...おばあちゃん...?」
[00:02:45]
蓮:「何...言ってるの...?」
[00:03:00]
蓮:「お母さんが...どうした...?」
[周囲がざわつく]
友人の声:「おい、蓮、大丈夫か?」
蓮(寝言):「やめて...お母さんに...何を...」
友人:「蓮! 起きろ!」
[蓮が跳ね起きる]
蓮:「うわっ!」
友人:「大丈夫?変な寝言言ってたぞ」
蓮:「寝言...?」
友人:「ああ。『おばあちゃん』とか『お母さん』とか」
蓮:「...」
先生の声:「川瀬、大丈夫か?」
蓮:「す、すみません...」
先生:「体調悪いなら保健室に行きなさい」
蓮:「いえ、大丈夫です」
[授業が再開する]
[しかし蓮は落ち着かない様子]
蓮(小声):「夢...何を見たんだ...?」
[記憶を辿る]
蓮:「おばあちゃんが...何か言ってた...」
蓮:「お母さんのこと...」
蓮:「『助けてあげて』...?」
[不安そうな呼吸]
蓮:「気のせいだよな...」
[しかし、心の奥で]
[何かが引っかかっている]
[録音終了 / 録音時間:5分15秒]
【映像記録 #087】
日付:2025年4月1日 13:30
撮影者:自動録画
場所:自宅リビング
ファイル名:AUTO_REC_015.MP4
[誠は仕事で不在。美咲が一人でリビングにいる]
[掃除機をかけている]
[普通の日常の光景]
[しかし]
[美咲の動きが止まる]
美咲:「...また」
[掃除機のスイッチを切る]
[静寂]
美咲:「聞こえる...」
[耳を澄ます]
[かすかな音]
[2階から]
[誰かが歩く音]
美咲:「誰もいないはずなのに...」
[階段を見上げる]
[足音は続いている]
[ゆっくりとした、規則正しい足音]
美咲:「...お母さん?」
[返事はない]
[しかし足音は止まらない]
美咲(意を決して):「行かないと...」
[階段を上り始める]
[一段一段、慎重に]
[2階の廊下]
[足音は房江の部屋から聞こえる]
美咲:「お母さん...いるの?」
[部屋のドアが、わずかに開いている]
美咲:「入るわよ...」
[ドアを開ける]
[部屋の中]
[あの椅子に]
[房江が座っている]
[はっきりとした姿]
[以前より鮮明]
美咲:「お母さん...!」
房江:「みさき...」
美咲:「どうしたの? 何か...」
房江:「...くるしい」
美咲:「苦しい?どこが?」
房江:「ここ...」
[房江が胸に手を当てる]
房江:「むねが...くるしい」
美咲:「お母さん、でももう...あなたは...」
房江:「わかってる...わたしは...しんでる」
房江:「でも...くるしい」
美咲:「なぜ...?」
房江:「あなたが...くるしんでる...から」
美咲:「私が...?」
房江:「うそを...ついてる」
美咲:「嘘...?」
房江:「まだ...なにか...かくしてる」
[美咲が後ずさる]
美咲:「何を言って...私は全部...」
房江:「いいえ」
[房江が立ち上がる]
房江:「あなたは...まだ...いってない」
房江:「あのひの...ほんとうのこと」
美咲:「本当のこと...?」
房江:「なぜ...わたしを...とじこめた?」
美咲:「それは...蓮を守るため...」
房江:「ほんとうに?」
美咲:「...」
房江:「ほかに...りゆうが...あったはず」
[美咲が震える]
美咲:「やめて...」
房江:「いいなさい」
美咲:「お母さん...」
房江:「なぜ...わたしを...にくんだ?」
美咲:「憎んで...ない...」
房江:「うそ」
[房江が近づく]
房江:「あなたは...わたしを...うとましく...おもってた」
美咲:「違う!」
房江:「じゃまだと...おもってた」
美咲:「やめて!」
房江:「いなくなれば...いいと...」
美咲:「やめて!!」
[美咲が床に崩れ落ちる]
[涙を流す]
美咲:「...ごめんなさい」
美咲:「ごめんなさい...ごめんなさい...」
[房江の表情が柔らかくなる]
房江:「...やっと」
房江:「ほんとうのことを...いえた」
[美咲が顔を上げる]
美咲:「お母さん...」
房江:「だいじょうぶ」
房江:「わかってる」
房江:「あなたも...くるしかった」
房江:「わたしの...せわで...つかれきってた」
美咲:「でも...それでも...思っちゃいけないことを...」
房江:「にんげんだもの」
[房江が微笑む]
房江:「わたしも...おなじこと...おもったことが...ある」
美咲:「え...?」
房江:「あなたが...こどもの...とき」
房江:「てが...かかって...たいへんで...」
房江:「いなければ...いいのに...って」
美咲:「お母さん...」
房江:「だから...わかる」
房江:「かいごは...つらい」
房江:「にくしみも...うまれる」
房江:「でも...それで...いい」
美咲:「いい...の?」
房江:「それが...にんげん」
[房江の姿が薄くなり始める]
美咲:「お母さん、消えないで...」
房江:「だいじょうぶ」
房江:「もう...くるしく...ない」
房江:「あなたも...くるしまないで」
美咲:「お母さん...!」
房江:「さようなら」
房江:「みさき」
[房江が完全に消える]
[部屋には、椅子だけが残る]
[美咲が床に座り込んだまま]
[静かに泣いている]
[玄関のドアが開く音]
結衣の声:「お母さん! お母さん!」
[階段を駆け上がる足音]
結衣:「お母さん、どこ!?」
[部屋に飛び込んでくる結衣]
結衣:「お母さん!」
[美咲を抱きしめる]
美咲:「結衣...」
結衣:「大丈夫? メッセージ来て...心配で...」
美咲:「メッセージ...?」
結衣:「おばあちゃんから。お母さんが苦しんでるって」
美咲:「...そう」
[美咲が結衣を抱きしめ返す]
美咲:「ありがとう...来てくれて」
結衣:「お母さん...泣いてるの?」
美咲:「ええ...でも、大丈夫」
美咲:「これは...悲しい涙じゃないの」
結衣:「...?」
美咲:「お母さんに...許してもらえた気がするの」
[二人が抱き合ったまま]
[窓から差し込む光が、二人を優しく包む]
[映像終了 / 録画時間:18分33秒]
【映像記録 #092】
日付:2025年4月1日 19:00
撮影者:川瀬誠
場所:ダイニングルーム
ファイル名:IMG_0092.MP4
[夕食時。家族四人が集まっている]
[美咲の表情は穏やかだ]
誠の声:「今日、みんな早く帰ってきたな」
結衣:「お母さんが心配で」
蓮:「俺も。なんか胸騒ぎがして」
誠:「美咲、何かあったのか?」
美咲:「...ええ」
[美咲が今日のことを話す]
[房江との対話]
[隠していた本心]
[そして、許し]
誠:「...そうか」
蓮:「お母さん、苦しかったんだね」
美咲:「ええ。でも、もう大丈夫」
結衣:「おばあちゃん、本当に優しいね」
美咲:「そうね...私のこと、わかってくれた」
誠:「じゃあ、これで...」
美咲:「ええ。本当に、終わったと思う」
[全員が五人目の椅子を見る]
[そこには誰もいない]
[でも、確かに]
[温かな存在を感じる]
蓮:「おばあちゃん、まだいるのかな」
美咲:「いるわ。でも、もう苦しんでない」
結衣:「見守ってくれてるんだね」
誠:「そうだな」
[家族が微笑み合う]
[そのとき]
[窓が揺れる]
[そよ風]
[テーブルの上のナプキンが、ふわりと浮く]
[そして]
[五人目の椅子が]
[わずかに動く]
[まるで誰かが座ったように]
蓮:「...!」
結衣:「今...」
美咲:「お母さん...」
誠:「いらっしゃるんですね」
[全員が椅子に向かって頭を下げる]
美咲:「お母さん、今日もありがとう」
[沈黙]
[そして]
[どこからともなく]
[かすかな声]
『いただきます』
[房江の声]
[優しく、穏やかな声]
[家族全員が涙を流す]
誠:「はい...いただきます」
全員:「いただきます」
[食事が始まる]
[五人家族の]
[新しい形の]
[団らん]
[映像終了 / 録画時間:8分17秒]
【日記エントリ】
日付:2025年4月5日
筆者:川瀬美咲
今日で、母が現れなくなって4日。
でも、いなくなったわけじゃない。
いつも、そばにいる気がする。
朝、コーヒーを淹れるとき。
洗濯物を干すとき。
料理を作るとき。
母が見守ってくれている。
誠も、子供たちも、同じことを感じているみたい。
家族の会話で、自然に母の話題が出る。
「おばあちゃんなら、こう言うよね」
「おばあちゃん、喜んでくれるかな」
母は、家族の一員として
これからもずっと、私たちと一緒にいる。
それでいいんだと思う。
これが、私たちの新しい家族の形。
【映像記録 #105】
日付:2025年4月10日 14:00
撮影者:川瀬誠
場所:公園
ファイル名:IMG_0105.MP4
[桜が満開の公園]
[家族四人がピクニックをしている]
[レジャーシートの上に、お弁当]
[そして、五人分の食器]
誠の声:「いい天気だな」
美咲:「そうね。桜も綺麗」
結衣:「写真撮ろう!」
蓮:「いいね」
[四人が集まる]
結衣:「タイマーセットして...」
[スマホを立てかける]
結衣:「3、2、1...」
[シャッター音]
[しかし]
[撮影された写真には]
[五人が映っている]
[四人の家族の隣に]
[薄く、しかし確かに]
[白い服を着た房江の姿]
[微笑んでいる]
結衣:「...あれ?」
蓮:「どうした?」
結衣:「この写真...」
[みんなで画面を見る]
美咲:「...お母さん」
誠:「写ってる...」
蓮:「おばあちゃん...」
[沈黙]
[そして]
[四人が同時に笑い出す]
結衣:「おばあちゃん、一緒に写りたかったんだね」
蓮:「ちゃっかりしてる」
美咲:「お母さんらしいわ」
誠:「じゃあ、もう一枚撮るか。ちゃんと五人で」
[再び集まる四人]
[空いたスペースを作って]
誠:「房江さんもどうぞ」
[シャッター音]
[今度は]
[房江の姿がさらにはっきりと]
[家族の中心に]
[幸せそうに微笑んでいる]
[映像終了 / 録画時間:6分28秒]
【音声記録 #048】
日付:2025年4月15日 22:30
録音者:川瀬誠
場所:書斎
ファイル名:Voice_048.m4a
誠の声:「4月15日。記録を始めて、44日目」
[ペンで何かを書く音]
誠:「房江さんが現れなくなって、2週間」
誠:「でも、家族はみんな元気だ」
誠:「美咲の顔色も良くなった」
誠:「結衣も蓮も、笑顔が増えた」
[椅子の軋む音]
誠:「俺たちは、房江さんと和解できたんだと思う」
誠:「これからも、房江さんは家族の一員だ」
誠:「見えなくても、触れられなくても」
誠:「確かにそこにいる」
[深呼吸]
誠:「この記録も、そろそろ終わりかもしれない」
誠:「記録を始めた理由...日常を残したかった」
誠:「でも、残ったのは日常じゃなく、非日常だった」
誠:「それでもいい」
誠:「これが、俺たち家族の物語だから」
[沈黙]
誠:「でも...なんだろう」
誠:「まだ、何かが...」
[言葉が途切れる]
誠:「...気のせいか」
誠:「とにかく、今夜も平和だ」
誠:「房江さん、おやすみなさい」
[録音終了 / 録音時間:3分15秒]
【映像記録 #118】
日付:2025年4月18日 02:47
撮影者:自動録画
場所:リビング
ファイル名:AUTO_REC_022.MP4
[深夜のリビング]
[すべての明かりが消えている]
[静寂]
[02:00:00経過]
[何も起きない]
[02:15:00]
[突然]
[ダイニングの椅子が動く]
[五人目の椅子]
[ゆっくりと]
[テーブルから離れていく]
[まるで誰かが引いているように]
[02:20:00]
[椅子がリビングの中央で止まる]
[そして]
[空気が揺らぐ]
[房江の姿が現れる]
[しかし]
[以前とは違う]
[表情が]
[悲しみでも怒りでもなく]
[何か別の感情]
[不安? 恐れ?]
房江の声(かすかに):「...みんな」
房江:「きを...つけて」
[誰に向かって話しているのか]
房江:「まだ...おわって...ない」
房江:「わたしは...いい」
房江:「でも...」
[言葉が途切れる]
房江:「ほかの...ものが...」
[突然]
[房江の表情が恐怖に変わる]
房江:「くる...」
房江:「なにかが...くる...」
[房江が何かから逃げるように]
[後ずさる]
房江:「やめて...」
房江:「わたしじゃ...ない...」
[そのとき]
[リビングの温度が急激に下がる]
[窓ガラスが]
[凍り始める]
[霜が広がっていく]
[そして]
[房江の背後に]
[別の影が現れる]
[黒い]
[人の形をしているが]
[房江よりも]
[はるかに禍々しい]
[影が房江に触れる]
房江:「いや...!」
[房江の姿が掻き消える]
[黒い影だけが残る]
[影が]
[カメラの方を向く]
[顔はない]
[しかし]
[見ている]
[確実に]
[このカメラを]
[この家を]
[この家族を]
[見ている]
[02:47:00]
[影が消える]
[すべてが元に戻る]
[温度も]
[窓の霜も]
[まるで何もなかったかのように]
[しかし]
[椅子だけが]
[リビングの中央に]
[倒れている]
[録画終了 / 録画時間:47分00秒]
【映像記録 #119】
日付:2025年4月18日 07:00
撮影者:川瀬誠
場所:リビング
ファイル名:IMG_0119.MP4
[朝のリビング。誠が最初に起きてきた]
[倒れている椅子を見つける]
誠:「...なんだ、これ」
[椅子を起こす]
[そのとき、手に何かが付く]
誠:「冷たっ!」
[手を見る]
[霜]
[4月なのに、椅子に霜がついている]
誠:「どういうことだ...?」
[カメラを確認する]
誠:「自動録画...昨夜も動いてたのか」
[録画を再生しようとする]
[しかし]
[ファイルが破損している]
誠:「開けない...なんで?」
[何度も試すが、再生できない]
誠:「おかしい...」
[不安そうな表情]
誠:「何が...起きたんだ...?」
[階段を降りてくる美咲]
美咲:「おはよう...あら、椅子が」
誠:「ああ...倒れてた」
美咲:「誰が...」
誠:「わからない。でも、これ」
[霜を見せる]
美咲:「霜...?この季節に?」
誠:「それに、昨夜の録画が壊れてる」
美咲:「壊れてる...?」
[二人が顔を見合わせる]
美咲:「...まさか」
誠:「何か、起きたのかもしれない」
美咲:「でも、お母さんは...」
誠:「房江さんじゃないかもしれない」
美咲:「え...?」
誠:「他の...何かが」
[沈黙]
[不安が二人を包む]
[映像終了 / 録画時間:4分33秒]
【スマートフォン映像 #025】
日付:2025年4月18日 12:00
撮影者:川瀬結衣
場所:高校の教室
ファイル名:VID_20250418_120015.mp4
[昼休み。結衣が一人で座っている]
[スマホで自撮り]
結衣(小声):「なんか...変な感じがする」
[周りを見回す]
結衣:「朝から、ずっと...誰かに見られてる気がして」
[窓の外を見る]
結衣:「でも、おばあちゃんの時とは違う」
結衣:「あの時は...温かい感じだったけど」
結衣:「今は...冷たい」
[震える声]
結衣:「怖い...」
[スマホの画面が乱れる]
結衣:「え...?」
[ノイズが走る]
[そして]
[画面に文字が浮かぶ]
[しかし、房江のメッセージとは違う]
[判読できない文字]
[まるで古代文字のような]
結衣:「何、これ...」
[文字が増えていく]
[画面を埋め尽くす]
[結衣がスマホを放り投げる]
結衣:「きゃっ!」
[スマホが床に落ちる]
[しかし、画面は点いたまま]
[文字が脈動している]
[まるで生きているように]
[クラスメートが駆け寄る]
友人:「結衣、大丈夫!?」
結衣:「スマホが...変なんです...」
[友人がスマホを拾う]
友人:「え? 何も映ってないけど」
結衣:「え...?」
[友人がスマホを見せる]
[普通の画面]
[文字は消えている]
結衣:「さっきまで...」
友人:「疲れてるんじゃない? 顔色悪いよ」
結衣:「...そう、かも」
[しかし]
[結衣の手は震えている]
[何かがおかしい]
[何かが近づいている]
[そう感じている]
[映像終了 / 録画時間:2分47秒]
【音声記録 #052】
日付:2025年4月18日 15:30
録音者:川瀬蓮
場所:自宅への帰り道
ファイル名:Voice_052.m4a
[自転車を漕ぐ音]
蓮の声(独り言):「今日、変だったな...」
[信号待ち]
蓮:「授業中、何度も...背中がゾクッとした」
蓮:「振り返っても、誰もいないのに」
[信号が変わり、再び漕ぎ出す]
蓮:「それに、夢も...」
蓮:「昨日の夢、すごく怖かった」
蓮:「真っ暗な部屋に、誰かいて...」
蓮:「おばあちゃんじゃない、別の誰かが...」
[急ブレーキをかける音]
蓮:「うわっ!」
[自転車が止まる]
蓮(息を切らして):「今...道に...」
[周りを見回す]
蓮:「誰か...立ってた...?」
[沈黙]
蓮:「いない...」
[深呼吸]
蓮:「気のせいだ...気のせい...」
[再び漕ぎ出す]
[しかし]
[00:03:30]
[背後から]
[足音]
[自転車と同じ速度で]
[ついてくる足音]
蓮:「...!」
[速度を上げる]
[足音も速くなる]
蓮:「誰!?」
[振り返る]
[誰もいない]
[しかし足音は続いている]
蓮:「やだ...やだ...!」
[全速力で漕ぐ]
[家が見えてくる]
蓮:「家だ...!」
[自転車を放り出し、玄関に駆け込む]
蓮:「ただいまっ!」
[ドアを閉める]
[荒い呼吸]
蓮:「はあ...はあ...」
[窓から外を見る]
[誰もいない]
[静かな住宅街]
蓮:「...なんだったんだ...」
[録音終了 / 録音時間:5分08秒]
【映像記録 #122】
日付:2025年4月18日 19:30
撮影者:川瀬誠
場所:ダイニングルーム
ファイル名:IMG_0122.MP4
[夕食時。しかし雰囲気が重い]
[四人とも、あまり食べていない]
誠の声:「...みんな、今日何かあったか?」
[沈黙]
結衣:「...スマホが、変だった」
蓮:「俺、帰り道で...誰かに追いかけられた気がした」
美咲:「私も...家で、変な音が聞こえて」
誠:「...やっぱり」
美咲:「やっぱり?」
誠:「昨夜、何かが起きたんだ」
誠:「録画が壊れてて、確認できないけど...」
誠:「何か...良くないものが、来たのかもしれない」
蓮:「良くないもの...?」
誠:「房江さんとは違う、何か」
結衣:「おばあちゃんじゃないの...?」
美咲:「でも、お母さんとは和解したはず...」
誠:「だからこそ、かもしれない」
全員:「?」
誠:「房江さんがいなくなって、空いた場所に...」
誠:「別の何かが入り込んできた」
[恐怖が家族を包む]
美咲:「どうすれば...」
誠:「わからない。でも...」
[そのとき]
[リビングから]
[バタンという音]
全員:「!」
[全員がリビングに駆け込む]
[誠がカメラを持って]
[リビングの窓]
[開いている]
[しかし、鍵はかかっていたはず]
誠:「窓が...」
[窓の外を見る]
[誰もいない]
[しかし]
[窓ガラスに]
[霜で描かれた文字]
『ニゲラレナイ』
蓮:「逃げられない...」
結衣:「嘘でしょ...」
美咲:「誠さん...」
[誠がカメラを窓に向ける]
[そのとき]
[ガラスの向こう]
[一瞬]
[黒い影が映る]
[人の形をしているが]
[顔がない]
[影が]
[こちらを見ている]
[全員が悲鳴を上げる]
[映像が乱れる]
[砂嵐]
[映像終了 / 録画時間:5分53秒]
【緊急家族会議 - 音声記録】
日付:2025年4月18日 20:00
場所:リビング
録音者:川瀬誠
誠:「落ち着いて。みんな、落ち着いて」
美咲:「落ち着けないわよ! あれ、何なの!?」
結衣:「怖い...怖いよ...」
蓮:「あれ、おばあちゃんじゃないよね...?」
誠:「ああ...違う」
誠:「何か別の...もっと悪意のあるものだ」
美咲:「どうして...どうして今になって...」
誠:「わからない。でも、対処しないと」
結衣:「どうやって!?」
誠:「...専門家に相談する」
美咲:「専門家って...」
誠:「霊媒師、お坊さん、誰でもいい」
誠:「このままじゃ、危険だ」
蓮:「お父さん...本気?」
誠:「本気だ」
[沈黙]
美咲:「...わかったわ。探しましょう」
結衣:「でも、今夜は...」
誠:「今夜は、みんな一緒にいよう」
誠:「誰も一人にならない」
蓮:「...うん」
[不安と恐怖の中]
[家族は寄り添う]
[しかし]
[窓の外では]
[黒い影が]
[じっと]
[この家を見つめている]
日付:2025年4月1日 07:30
撮影者:川瀬誠
場所:ダイニングルーム
ファイル名:IMG_0085.MP4
[朝のダイニング。家族四人が朝食を食べている]
[五人目の椅子と食器は、もはや当たり前の光景]
誠の声:「今日から4月だな」
美咲:「そうね。もう春だわ」
結衣:「桜、もう咲いてるよね」
蓮:「学校の桜、満開だった」
誠:「そうか。今度、お花見でも行くか」
美咲:「いいわね」
蓮:「おばあちゃんの分のお弁当も作らないとね」
[全員が微笑む]
[しかし]
[美咲の表情が、一瞬曇る]
誠:「美咲?」
美咲:「ん? なんでもないわ」
誠:「顔色が悪いぞ」
美咲:「大丈夫。ちょっと寝不足なだけ」
結衣:「お母さん、最近よく眠れてないの?」
美咲:「ええ...まあ」
蓮:「悪夢とか?」
美咲:「...似たようなもの」
誠:「どんな?」
美咲:「いいのよ。大したことないから」
[美咲が話題を変えようとする]
美咲:「それより、蓮。今日、部活あるんでしょ?」
蓮:「うん。午後から」
美咲:「お弁当、多めに作っておくわね」
蓮:「ありがと」
[会話が続く]
[しかし、カメラは捉えている]
[美咲の手が、わずかに震えていることを]
[コーヒーカップを持つ手が]
[不自然に震えている]
[映像終了 / 録画時間:5分42秒]
【スマートフォン映像 #018】
日付:2025年4月1日 12:45
撮影者:川瀬結衣
場所:高校の屋上
ファイル名:VID_20250401_124532.mp4
[屋上。結衣が友人の美月と話している]
[二人でお弁当を食べている]
美月:「ねえ、結衣」
結衣:「ん?」
美月:「最近、元気になったよね」
結衣:「そう?」
美月:「うん。前は何か...暗い感じだったけど」
結衣:「家族の問題、一応解決したから」
美月:「よかった。お父さんのカメラも?」
結衣:「まだ続けてる。でも、もう慣れた」
美月:「そっか」
[空を見上げる結衣]
結衣:「でもね...」
美月:「ん?」
結衣:「時々、変な感じがするんだ」
美月:「変な感じ?」
結衣:「誰かに見られてる感じ。でも、優しい目で」
美月:「おばあちゃん?」
結衣:「...たぶん」
美月:「怖くないの?」
結衣:「ううん。もう怖くない」
結衣:「おばあちゃん、許してくれたと思うから」
美月:「そっか...」
[沈黙]
美月:「でも、結衣」
結衣:「ん?」
美月:「本当に、全部終わったの?」
結衣:「...どういうこと?」
美月:「いや...なんとなく」
美月:「まだ何か、続いてる気がして」
結衣:「...」
[結衣がスマホを見る]
[画面に通知]
[送信者:不明]
結衣:「...また」
美月:「メッセージ?」
結衣:「うん...」
[メッセージを開く]
[内容を読んで、結衣の顔が青ざめる]
美月:「どうしたの?」
結衣:「...これ」
[美月に見せる]
美月(読み上げる):「『みさき くるしんでる』...?」
結衣:「お母さんが...苦しんでる...?」
美月:「誰が送ってるの?」
結衣:「わかんない...でも」
[次のメッセージが届く]
結衣:「『たすけて あげて』...」
美月:「これって...」
結衣:「おばあちゃんからかも...」
[結衣が立ち上がる]
結衣:「ごめん、帰る!」
美月:「え? 授業は?」
結衣:「休む!お母さんが心配!」
[結衣が走り出す]
[スマホを持ったまま]
[映像は揺れながら、空と地面を交互に映す]
[映像終了 / 録画時間:3分27秒]
【音声記録 #032】
日付:2025年4月1日 13:00
録音者:川瀬蓮
場所:学校の教室
ファイル名:Voice_032.m4a
[教室。授業中らしい雑音]
[先生の声が遠くから聞こえる]
蓮の声(小声):「やばい、眠い...」
[あくび]
蓮:「昨日、ちゃんと寝たのに...」
[机に突っ伏す音]
蓮:「ちょっとだけ...」
[規則正しい呼吸]
[眠りに落ちる蓮]
[00:02:30]
[突然、蓮が何かを呟く]
蓮(寝言):「...おばあちゃん...?」
[00:02:45]
蓮:「何...言ってるの...?」
[00:03:00]
蓮:「お母さんが...どうした...?」
[周囲がざわつく]
友人の声:「おい、蓮、大丈夫か?」
蓮(寝言):「やめて...お母さんに...何を...」
友人:「蓮! 起きろ!」
[蓮が跳ね起きる]
蓮:「うわっ!」
友人:「大丈夫?変な寝言言ってたぞ」
蓮:「寝言...?」
友人:「ああ。『おばあちゃん』とか『お母さん』とか」
蓮:「...」
先生の声:「川瀬、大丈夫か?」
蓮:「す、すみません...」
先生:「体調悪いなら保健室に行きなさい」
蓮:「いえ、大丈夫です」
[授業が再開する]
[しかし蓮は落ち着かない様子]
蓮(小声):「夢...何を見たんだ...?」
[記憶を辿る]
蓮:「おばあちゃんが...何か言ってた...」
蓮:「お母さんのこと...」
蓮:「『助けてあげて』...?」
[不安そうな呼吸]
蓮:「気のせいだよな...」
[しかし、心の奥で]
[何かが引っかかっている]
[録音終了 / 録音時間:5分15秒]
【映像記録 #087】
日付:2025年4月1日 13:30
撮影者:自動録画
場所:自宅リビング
ファイル名:AUTO_REC_015.MP4
[誠は仕事で不在。美咲が一人でリビングにいる]
[掃除機をかけている]
[普通の日常の光景]
[しかし]
[美咲の動きが止まる]
美咲:「...また」
[掃除機のスイッチを切る]
[静寂]
美咲:「聞こえる...」
[耳を澄ます]
[かすかな音]
[2階から]
[誰かが歩く音]
美咲:「誰もいないはずなのに...」
[階段を見上げる]
[足音は続いている]
[ゆっくりとした、規則正しい足音]
美咲:「...お母さん?」
[返事はない]
[しかし足音は止まらない]
美咲(意を決して):「行かないと...」
[階段を上り始める]
[一段一段、慎重に]
[2階の廊下]
[足音は房江の部屋から聞こえる]
美咲:「お母さん...いるの?」
[部屋のドアが、わずかに開いている]
美咲:「入るわよ...」
[ドアを開ける]
[部屋の中]
[あの椅子に]
[房江が座っている]
[はっきりとした姿]
[以前より鮮明]
美咲:「お母さん...!」
房江:「みさき...」
美咲:「どうしたの? 何か...」
房江:「...くるしい」
美咲:「苦しい?どこが?」
房江:「ここ...」
[房江が胸に手を当てる]
房江:「むねが...くるしい」
美咲:「お母さん、でももう...あなたは...」
房江:「わかってる...わたしは...しんでる」
房江:「でも...くるしい」
美咲:「なぜ...?」
房江:「あなたが...くるしんでる...から」
美咲:「私が...?」
房江:「うそを...ついてる」
美咲:「嘘...?」
房江:「まだ...なにか...かくしてる」
[美咲が後ずさる]
美咲:「何を言って...私は全部...」
房江:「いいえ」
[房江が立ち上がる]
房江:「あなたは...まだ...いってない」
房江:「あのひの...ほんとうのこと」
美咲:「本当のこと...?」
房江:「なぜ...わたしを...とじこめた?」
美咲:「それは...蓮を守るため...」
房江:「ほんとうに?」
美咲:「...」
房江:「ほかに...りゆうが...あったはず」
[美咲が震える]
美咲:「やめて...」
房江:「いいなさい」
美咲:「お母さん...」
房江:「なぜ...わたしを...にくんだ?」
美咲:「憎んで...ない...」
房江:「うそ」
[房江が近づく]
房江:「あなたは...わたしを...うとましく...おもってた」
美咲:「違う!」
房江:「じゃまだと...おもってた」
美咲:「やめて!」
房江:「いなくなれば...いいと...」
美咲:「やめて!!」
[美咲が床に崩れ落ちる]
[涙を流す]
美咲:「...ごめんなさい」
美咲:「ごめんなさい...ごめんなさい...」
[房江の表情が柔らかくなる]
房江:「...やっと」
房江:「ほんとうのことを...いえた」
[美咲が顔を上げる]
美咲:「お母さん...」
房江:「だいじょうぶ」
房江:「わかってる」
房江:「あなたも...くるしかった」
房江:「わたしの...せわで...つかれきってた」
美咲:「でも...それでも...思っちゃいけないことを...」
房江:「にんげんだもの」
[房江が微笑む]
房江:「わたしも...おなじこと...おもったことが...ある」
美咲:「え...?」
房江:「あなたが...こどもの...とき」
房江:「てが...かかって...たいへんで...」
房江:「いなければ...いいのに...って」
美咲:「お母さん...」
房江:「だから...わかる」
房江:「かいごは...つらい」
房江:「にくしみも...うまれる」
房江:「でも...それで...いい」
美咲:「いい...の?」
房江:「それが...にんげん」
[房江の姿が薄くなり始める]
美咲:「お母さん、消えないで...」
房江:「だいじょうぶ」
房江:「もう...くるしく...ない」
房江:「あなたも...くるしまないで」
美咲:「お母さん...!」
房江:「さようなら」
房江:「みさき」
[房江が完全に消える]
[部屋には、椅子だけが残る]
[美咲が床に座り込んだまま]
[静かに泣いている]
[玄関のドアが開く音]
結衣の声:「お母さん! お母さん!」
[階段を駆け上がる足音]
結衣:「お母さん、どこ!?」
[部屋に飛び込んでくる結衣]
結衣:「お母さん!」
[美咲を抱きしめる]
美咲:「結衣...」
結衣:「大丈夫? メッセージ来て...心配で...」
美咲:「メッセージ...?」
結衣:「おばあちゃんから。お母さんが苦しんでるって」
美咲:「...そう」
[美咲が結衣を抱きしめ返す]
美咲:「ありがとう...来てくれて」
結衣:「お母さん...泣いてるの?」
美咲:「ええ...でも、大丈夫」
美咲:「これは...悲しい涙じゃないの」
結衣:「...?」
美咲:「お母さんに...許してもらえた気がするの」
[二人が抱き合ったまま]
[窓から差し込む光が、二人を優しく包む]
[映像終了 / 録画時間:18分33秒]
【映像記録 #092】
日付:2025年4月1日 19:00
撮影者:川瀬誠
場所:ダイニングルーム
ファイル名:IMG_0092.MP4
[夕食時。家族四人が集まっている]
[美咲の表情は穏やかだ]
誠の声:「今日、みんな早く帰ってきたな」
結衣:「お母さんが心配で」
蓮:「俺も。なんか胸騒ぎがして」
誠:「美咲、何かあったのか?」
美咲:「...ええ」
[美咲が今日のことを話す]
[房江との対話]
[隠していた本心]
[そして、許し]
誠:「...そうか」
蓮:「お母さん、苦しかったんだね」
美咲:「ええ。でも、もう大丈夫」
結衣:「おばあちゃん、本当に優しいね」
美咲:「そうね...私のこと、わかってくれた」
誠:「じゃあ、これで...」
美咲:「ええ。本当に、終わったと思う」
[全員が五人目の椅子を見る]
[そこには誰もいない]
[でも、確かに]
[温かな存在を感じる]
蓮:「おばあちゃん、まだいるのかな」
美咲:「いるわ。でも、もう苦しんでない」
結衣:「見守ってくれてるんだね」
誠:「そうだな」
[家族が微笑み合う]
[そのとき]
[窓が揺れる]
[そよ風]
[テーブルの上のナプキンが、ふわりと浮く]
[そして]
[五人目の椅子が]
[わずかに動く]
[まるで誰かが座ったように]
蓮:「...!」
結衣:「今...」
美咲:「お母さん...」
誠:「いらっしゃるんですね」
[全員が椅子に向かって頭を下げる]
美咲:「お母さん、今日もありがとう」
[沈黙]
[そして]
[どこからともなく]
[かすかな声]
『いただきます』
[房江の声]
[優しく、穏やかな声]
[家族全員が涙を流す]
誠:「はい...いただきます」
全員:「いただきます」
[食事が始まる]
[五人家族の]
[新しい形の]
[団らん]
[映像終了 / 録画時間:8分17秒]
【日記エントリ】
日付:2025年4月5日
筆者:川瀬美咲
今日で、母が現れなくなって4日。
でも、いなくなったわけじゃない。
いつも、そばにいる気がする。
朝、コーヒーを淹れるとき。
洗濯物を干すとき。
料理を作るとき。
母が見守ってくれている。
誠も、子供たちも、同じことを感じているみたい。
家族の会話で、自然に母の話題が出る。
「おばあちゃんなら、こう言うよね」
「おばあちゃん、喜んでくれるかな」
母は、家族の一員として
これからもずっと、私たちと一緒にいる。
それでいいんだと思う。
これが、私たちの新しい家族の形。
【映像記録 #105】
日付:2025年4月10日 14:00
撮影者:川瀬誠
場所:公園
ファイル名:IMG_0105.MP4
[桜が満開の公園]
[家族四人がピクニックをしている]
[レジャーシートの上に、お弁当]
[そして、五人分の食器]
誠の声:「いい天気だな」
美咲:「そうね。桜も綺麗」
結衣:「写真撮ろう!」
蓮:「いいね」
[四人が集まる]
結衣:「タイマーセットして...」
[スマホを立てかける]
結衣:「3、2、1...」
[シャッター音]
[しかし]
[撮影された写真には]
[五人が映っている]
[四人の家族の隣に]
[薄く、しかし確かに]
[白い服を着た房江の姿]
[微笑んでいる]
結衣:「...あれ?」
蓮:「どうした?」
結衣:「この写真...」
[みんなで画面を見る]
美咲:「...お母さん」
誠:「写ってる...」
蓮:「おばあちゃん...」
[沈黙]
[そして]
[四人が同時に笑い出す]
結衣:「おばあちゃん、一緒に写りたかったんだね」
蓮:「ちゃっかりしてる」
美咲:「お母さんらしいわ」
誠:「じゃあ、もう一枚撮るか。ちゃんと五人で」
[再び集まる四人]
[空いたスペースを作って]
誠:「房江さんもどうぞ」
[シャッター音]
[今度は]
[房江の姿がさらにはっきりと]
[家族の中心に]
[幸せそうに微笑んでいる]
[映像終了 / 録画時間:6分28秒]
【音声記録 #048】
日付:2025年4月15日 22:30
録音者:川瀬誠
場所:書斎
ファイル名:Voice_048.m4a
誠の声:「4月15日。記録を始めて、44日目」
[ペンで何かを書く音]
誠:「房江さんが現れなくなって、2週間」
誠:「でも、家族はみんな元気だ」
誠:「美咲の顔色も良くなった」
誠:「結衣も蓮も、笑顔が増えた」
[椅子の軋む音]
誠:「俺たちは、房江さんと和解できたんだと思う」
誠:「これからも、房江さんは家族の一員だ」
誠:「見えなくても、触れられなくても」
誠:「確かにそこにいる」
[深呼吸]
誠:「この記録も、そろそろ終わりかもしれない」
誠:「記録を始めた理由...日常を残したかった」
誠:「でも、残ったのは日常じゃなく、非日常だった」
誠:「それでもいい」
誠:「これが、俺たち家族の物語だから」
[沈黙]
誠:「でも...なんだろう」
誠:「まだ、何かが...」
[言葉が途切れる]
誠:「...気のせいか」
誠:「とにかく、今夜も平和だ」
誠:「房江さん、おやすみなさい」
[録音終了 / 録音時間:3分15秒]
【映像記録 #118】
日付:2025年4月18日 02:47
撮影者:自動録画
場所:リビング
ファイル名:AUTO_REC_022.MP4
[深夜のリビング]
[すべての明かりが消えている]
[静寂]
[02:00:00経過]
[何も起きない]
[02:15:00]
[突然]
[ダイニングの椅子が動く]
[五人目の椅子]
[ゆっくりと]
[テーブルから離れていく]
[まるで誰かが引いているように]
[02:20:00]
[椅子がリビングの中央で止まる]
[そして]
[空気が揺らぐ]
[房江の姿が現れる]
[しかし]
[以前とは違う]
[表情が]
[悲しみでも怒りでもなく]
[何か別の感情]
[不安? 恐れ?]
房江の声(かすかに):「...みんな」
房江:「きを...つけて」
[誰に向かって話しているのか]
房江:「まだ...おわって...ない」
房江:「わたしは...いい」
房江:「でも...」
[言葉が途切れる]
房江:「ほかの...ものが...」
[突然]
[房江の表情が恐怖に変わる]
房江:「くる...」
房江:「なにかが...くる...」
[房江が何かから逃げるように]
[後ずさる]
房江:「やめて...」
房江:「わたしじゃ...ない...」
[そのとき]
[リビングの温度が急激に下がる]
[窓ガラスが]
[凍り始める]
[霜が広がっていく]
[そして]
[房江の背後に]
[別の影が現れる]
[黒い]
[人の形をしているが]
[房江よりも]
[はるかに禍々しい]
[影が房江に触れる]
房江:「いや...!」
[房江の姿が掻き消える]
[黒い影だけが残る]
[影が]
[カメラの方を向く]
[顔はない]
[しかし]
[見ている]
[確実に]
[このカメラを]
[この家を]
[この家族を]
[見ている]
[02:47:00]
[影が消える]
[すべてが元に戻る]
[温度も]
[窓の霜も]
[まるで何もなかったかのように]
[しかし]
[椅子だけが]
[リビングの中央に]
[倒れている]
[録画終了 / 録画時間:47分00秒]
【映像記録 #119】
日付:2025年4月18日 07:00
撮影者:川瀬誠
場所:リビング
ファイル名:IMG_0119.MP4
[朝のリビング。誠が最初に起きてきた]
[倒れている椅子を見つける]
誠:「...なんだ、これ」
[椅子を起こす]
[そのとき、手に何かが付く]
誠:「冷たっ!」
[手を見る]
[霜]
[4月なのに、椅子に霜がついている]
誠:「どういうことだ...?」
[カメラを確認する]
誠:「自動録画...昨夜も動いてたのか」
[録画を再生しようとする]
[しかし]
[ファイルが破損している]
誠:「開けない...なんで?」
[何度も試すが、再生できない]
誠:「おかしい...」
[不安そうな表情]
誠:「何が...起きたんだ...?」
[階段を降りてくる美咲]
美咲:「おはよう...あら、椅子が」
誠:「ああ...倒れてた」
美咲:「誰が...」
誠:「わからない。でも、これ」
[霜を見せる]
美咲:「霜...?この季節に?」
誠:「それに、昨夜の録画が壊れてる」
美咲:「壊れてる...?」
[二人が顔を見合わせる]
美咲:「...まさか」
誠:「何か、起きたのかもしれない」
美咲:「でも、お母さんは...」
誠:「房江さんじゃないかもしれない」
美咲:「え...?」
誠:「他の...何かが」
[沈黙]
[不安が二人を包む]
[映像終了 / 録画時間:4分33秒]
【スマートフォン映像 #025】
日付:2025年4月18日 12:00
撮影者:川瀬結衣
場所:高校の教室
ファイル名:VID_20250418_120015.mp4
[昼休み。結衣が一人で座っている]
[スマホで自撮り]
結衣(小声):「なんか...変な感じがする」
[周りを見回す]
結衣:「朝から、ずっと...誰かに見られてる気がして」
[窓の外を見る]
結衣:「でも、おばあちゃんの時とは違う」
結衣:「あの時は...温かい感じだったけど」
結衣:「今は...冷たい」
[震える声]
結衣:「怖い...」
[スマホの画面が乱れる]
結衣:「え...?」
[ノイズが走る]
[そして]
[画面に文字が浮かぶ]
[しかし、房江のメッセージとは違う]
[判読できない文字]
[まるで古代文字のような]
結衣:「何、これ...」
[文字が増えていく]
[画面を埋め尽くす]
[結衣がスマホを放り投げる]
結衣:「きゃっ!」
[スマホが床に落ちる]
[しかし、画面は点いたまま]
[文字が脈動している]
[まるで生きているように]
[クラスメートが駆け寄る]
友人:「結衣、大丈夫!?」
結衣:「スマホが...変なんです...」
[友人がスマホを拾う]
友人:「え? 何も映ってないけど」
結衣:「え...?」
[友人がスマホを見せる]
[普通の画面]
[文字は消えている]
結衣:「さっきまで...」
友人:「疲れてるんじゃない? 顔色悪いよ」
結衣:「...そう、かも」
[しかし]
[結衣の手は震えている]
[何かがおかしい]
[何かが近づいている]
[そう感じている]
[映像終了 / 録画時間:2分47秒]
【音声記録 #052】
日付:2025年4月18日 15:30
録音者:川瀬蓮
場所:自宅への帰り道
ファイル名:Voice_052.m4a
[自転車を漕ぐ音]
蓮の声(独り言):「今日、変だったな...」
[信号待ち]
蓮:「授業中、何度も...背中がゾクッとした」
蓮:「振り返っても、誰もいないのに」
[信号が変わり、再び漕ぎ出す]
蓮:「それに、夢も...」
蓮:「昨日の夢、すごく怖かった」
蓮:「真っ暗な部屋に、誰かいて...」
蓮:「おばあちゃんじゃない、別の誰かが...」
[急ブレーキをかける音]
蓮:「うわっ!」
[自転車が止まる]
蓮(息を切らして):「今...道に...」
[周りを見回す]
蓮:「誰か...立ってた...?」
[沈黙]
蓮:「いない...」
[深呼吸]
蓮:「気のせいだ...気のせい...」
[再び漕ぎ出す]
[しかし]
[00:03:30]
[背後から]
[足音]
[自転車と同じ速度で]
[ついてくる足音]
蓮:「...!」
[速度を上げる]
[足音も速くなる]
蓮:「誰!?」
[振り返る]
[誰もいない]
[しかし足音は続いている]
蓮:「やだ...やだ...!」
[全速力で漕ぐ]
[家が見えてくる]
蓮:「家だ...!」
[自転車を放り出し、玄関に駆け込む]
蓮:「ただいまっ!」
[ドアを閉める]
[荒い呼吸]
蓮:「はあ...はあ...」
[窓から外を見る]
[誰もいない]
[静かな住宅街]
蓮:「...なんだったんだ...」
[録音終了 / 録音時間:5分08秒]
【映像記録 #122】
日付:2025年4月18日 19:30
撮影者:川瀬誠
場所:ダイニングルーム
ファイル名:IMG_0122.MP4
[夕食時。しかし雰囲気が重い]
[四人とも、あまり食べていない]
誠の声:「...みんな、今日何かあったか?」
[沈黙]
結衣:「...スマホが、変だった」
蓮:「俺、帰り道で...誰かに追いかけられた気がした」
美咲:「私も...家で、変な音が聞こえて」
誠:「...やっぱり」
美咲:「やっぱり?」
誠:「昨夜、何かが起きたんだ」
誠:「録画が壊れてて、確認できないけど...」
誠:「何か...良くないものが、来たのかもしれない」
蓮:「良くないもの...?」
誠:「房江さんとは違う、何か」
結衣:「おばあちゃんじゃないの...?」
美咲:「でも、お母さんとは和解したはず...」
誠:「だからこそ、かもしれない」
全員:「?」
誠:「房江さんがいなくなって、空いた場所に...」
誠:「別の何かが入り込んできた」
[恐怖が家族を包む]
美咲:「どうすれば...」
誠:「わからない。でも...」
[そのとき]
[リビングから]
[バタンという音]
全員:「!」
[全員がリビングに駆け込む]
[誠がカメラを持って]
[リビングの窓]
[開いている]
[しかし、鍵はかかっていたはず]
誠:「窓が...」
[窓の外を見る]
[誰もいない]
[しかし]
[窓ガラスに]
[霜で描かれた文字]
『ニゲラレナイ』
蓮:「逃げられない...」
結衣:「嘘でしょ...」
美咲:「誠さん...」
[誠がカメラを窓に向ける]
[そのとき]
[ガラスの向こう]
[一瞬]
[黒い影が映る]
[人の形をしているが]
[顔がない]
[影が]
[こちらを見ている]
[全員が悲鳴を上げる]
[映像が乱れる]
[砂嵐]
[映像終了 / 録画時間:5分53秒]
【緊急家族会議 - 音声記録】
日付:2025年4月18日 20:00
場所:リビング
録音者:川瀬誠
誠:「落ち着いて。みんな、落ち着いて」
美咲:「落ち着けないわよ! あれ、何なの!?」
結衣:「怖い...怖いよ...」
蓮:「あれ、おばあちゃんじゃないよね...?」
誠:「ああ...違う」
誠:「何か別の...もっと悪意のあるものだ」
美咲:「どうして...どうして今になって...」
誠:「わからない。でも、対処しないと」
結衣:「どうやって!?」
誠:「...専門家に相談する」
美咲:「専門家って...」
誠:「霊媒師、お坊さん、誰でもいい」
誠:「このままじゃ、危険だ」
蓮:「お父さん...本気?」
誠:「本気だ」
[沈黙]
美咲:「...わかったわ。探しましょう」
結衣:「でも、今夜は...」
誠:「今夜は、みんな一緒にいよう」
誠:「誰も一人にならない」
蓮:「...うん」
[不安と恐怖の中]
[家族は寄り添う]
[しかし]
[窓の外では]
[黒い影が]
[じっと]
[この家を見つめている]



