記録 - 2025年3月、川瀬家の83日間

【映像記録 #046】
日付:2025年3月11日 14:45
撮影者:川瀬誠
場所:房江の部屋
ファイル名:IMG_0046.MP4
[カメラが床に置かれている。横倒しの状態]
[画面には誠と美咲の足元だけが映っている]
美咲の声:「答えて、誠さん」
誠の声:「...」
美咲:「あの夜、あなたは何をしたの?」
誠:「俺は...何も...」
美咲:「嘘」
[沈黙]
美咲:「母の部屋に、あなたが入ったの、知ってるわ」
誠:「...いつから?」
美咲:「ずっと。最初から」
[誠が床に座り込む音]
誠:「...そうか」
美咲:「なぜ黙ってたの? なぜ私に全部押し付けたの?」
誠:「押し付けたわけじゃ...」
美咲:「じゃあ何?私が母を殺したって、ずっと思わせておいて」
誠:「美咲...」
美咲:「3年間よ。3年間、私は自分を責め続けた」
[美咲の声が震える]
美咲:「眠れない夜、何度も思い出した。母の顔、冷たくなった体...」
美咲:「全部、私のせいだって...」
誠:「違う...お前のせいじゃない」
美咲:「じゃあ誰のせい?あなたの?」
[長い沈黙]
誠:「...俺の、せいだ」
[美咲が息を呑む音]
美咲:「何をしたの」
誠:「...睡眠薬」
美咲:「睡眠薬?」
誠:「お義母さんに...飲ませた」
美咲:「なぜ...」
誠:「お前を助けたかった」
美咲:「私を?」
誠:「お前、限界だったんだ。お義母さんの介護で、精神的に...」
誠:「あの夜も、お義母さんを部屋に閉じ込めた後、お前は泣きながら言ってた」
誠:「『もう無理、もう耐えられない』って」
[カメラを拾い上げる誠]
[美咲の顔が映る。涙で濡れている]
誠:「だから、俺は...せめて静かに寝てもらおうと思って」
美咲:「それで睡眠薬を...」
誠:「ああ。お前の飲んでたやつ。2錠だけのつもりだった」
美咲:「2錠...」
誠:「でも...お義母さん、暴れて...飲ませるのが大変で...」
誠:「気づいたら...5錠、いや、6錠...」
美咲:「そんなに...」
誠:「それでも足りなかった。お義母さん、ずっと『出せ、出せ』って叫んで...」
[誠の声が途切れる]
誠:「だから...もっと...」
美咲:「何錠飲ませたの?」
誠:「...覚えてない。10錠以上...かもしれない」
美咲:「...」
誠:「そしたら、やっと静かになって...眠って...」
誠:「俺は部屋を出た。それで終わりだと思ってた」
美咲:「でも、翌朝...」
誠:「ああ...お義母さんは...もう...」
[誠が嗚咽する]
誠:「俺が殺したんだ。俺が...」
[二人とも泣いている]
[階段を駆け上がってくる足音]
結衣の声:「お母さん!お父さん!」
[結衣が部屋に入ってくる。蓮も一緒]
結衣:「何があったの? 泣き声が...」
[二人の様子を見て、立ち尽くす]
蓮:「...お父さん?」
誠:「...お前たちにも、話さないと」
結衣:「何を?」
誠:「おばあちゃんのこと。本当のこと」
[映像終了 / 録画時間:8分33秒]


【映像記録 #047】
日付:2025年3月11日 15:15
撮影者:川瀬誠
場所:リビング
ファイル名:IMG_0047.MP4
[リビング。家族四人が座っている]
[カメラは三脚に固定されている]
[誰も話していない]
[重苦しい沈黙]
誠の声:「...全部話す」
結衣:「...」
蓮:「...」
誠:「おばあちゃんが亡くなった夜のこと」
[誠が顔を上げる。目は赤く腫れている]
誠:「お母さんが話したこと、覚えてるか?おばあちゃんを部屋に閉じ込めたって」
結衣:「うん...」
誠:「でも、それだけじゃなかった」
蓮:「どういうこと?」
誠:「その後、俺が...おばあちゃんに睡眠薬を飲ませた」
[結衣と蓮が顔を見合わせる]
結衣:「睡眠薬...?」
誠:「ああ。大量に」
蓮:「なんで...」
誠:「お母さんを助けたかった。おばあちゃんの介護で、お母さんは限界だった」
誠:「だから、せめて一晩だけでも静かに寝てもらおうと...」
美咲:「でも、それが...」
誠:「おばあちゃんの心臓に負担をかけた。高齢で、持病もあったから...」
[結衣が立ち上がる]
結衣:「じゃあ、お父さんが...おばあちゃんを...」
誠:「殺した。そうだ」
[結衣が後ずさる]
結衣:「嘘...」
蓮:「お父さん...それ、本当なの?」
誠:「本当だ」
[蓮も立ち上がる]
蓮:「じゃあ、今まで...お母さんが苦しんでたのは...」
美咲:「私は知らなかったの。お父さんが何をしたか」
結衣:「知らなかった...?」
美咲:「ええ。だから、ずっと自分を責めてた」
結衣:「でも、お父さんは黙ってたんでしょ?」
誠:「...ああ」
結衣:「最低...」
誠:「...」
蓮:「なんで? なんで黙ってたの?」
誠:「言えなかった。言ったら、全部壊れると思った」
結衣:「全部壊れてるじゃん!今!」
[結衣が叫ぶ]
結衣:「お母さんを3年も苦しめて、私たちに嘘ついて!」
誠:「ごめん...」
結衣:「ごめんで済むと思ってるの!?」
蓮:「お姉ちゃん...」
結衣:「私、もう無理。こんな家族...」
[結衣が部屋を出ていく]
誠:「結衣!」
[ドアが激しく閉まる音]
[蓮も複雑な表情で父を見る]
蓮:「俺も...部屋に戻る」
[蓮も出ていく]
[残された誠と美咲]
[二人とも動かない]
誠:「...美咲」
美咲:「...」
誠:「俺、どうすればいい?」
美咲:「知らないわ」
誠:「美咲...」
美咲:「今は...一人にして」
[美咲も立ち上がる]
[一人残される誠]
[カメラの前で、頭を抱える]
誠(独り言):「全部...壊れた...」
[映像終了 / 録画時間:6分41秒]


【スマートフォン映像 #007】
日付:2025年3月11日 16:00
撮影者:川瀬結衣
場所:自室
ファイル名:VID_20250311_160032.mp4
[結衣の部屋。ベッドに座る結衣]
[スマホで自撮り。涙でぐしゃぐしゃの顔]
結衣:「最悪...最悪だよ...」
[声が震えている]
結衣:「お父さんが...殺したって...」
[深呼吸しようとするが、うまくできない]
結衣:「なんで? なんでそんなことしたの?」
[ベッドに倒れ込む]
結衣:「お母さんのため?嘘でしょ...」
[スマホを天井に向ける]
結衣:「家族って何?信じるって何?」
[沈黙]
結衣:「もう...誰も信じられない」
[スマホの通知音]
結衣:「...また?」
[画面を見る]
結衣(読み上げる):「『まこと うそつき』...」
[別の通知]
結衣:「『まこと わたしを ころした』...」
[さらに通知]
結衣:「『でも みさきも わるい』...」
結衣:「お母さんも...?」
[次々と届くメッセージ]
結衣:「『みんな うそつき』」
結衣:「『ゆるさない』」
結衣:「『ぜんいん ゆるさない』」
[結衣が震える]
結衣:「やめて...もうやめて...」
[部屋の電気が点滅し始める]
結衣:「え...?」
[チカチカと明滅する照明]
[そして、完全に消える]
結衣:「きゃっ!」
[暗闇]
[スマホの画面の光だけ]
[その光で、部屋の様子がわずかに見える]
[クローゼットのドアが、ゆっくりと開く]
結衣:「...誰?」
[中から、何かが出てくる]
[白い服]
[老婆]
結衣:「おばあ...ちゃん...?」
[房江の霊が、結衣に近づいてくる]
[顔は悲しみと怒りで歪んでいる]
房江の声(かすれた、遠い声):「...ゆい...」
結衣:「来ないで...!」
房江:「...みんな...うそつき...」
結衣:「違う...私は何も...」
房江:「...しってた...でしょ...」
結衣:「え...?」
房江:「...わたしが...くるしんでた...こと...」
結衣:「...」
房江:「...だれも...たすけて...くれなかった...」
[房江が手を伸ばす]
結衣:「やめて!触らないで!」
[スマホを投げる]
[カメラが回転しながら落下]
[床に激突]
[画面が割れる]
[しかし録画は続いている]
[歪んだ映像]
[結衣の悲鳴]
[房江の笑い声]
[映像が乱れる]
[砂嵐]
[映像終了 / 録画時間:4分15秒]


【音声記録 #011】
日付:2025年3月11日 16:05
録音者:川瀬蓮
場所:自室
ファイル名:Voice_011.m4a
[蓮が机に向かっている音]
[ペンで何かを書いている]
蓮(独り言):「お父さんが...おばあちゃんを...」
[ペンが止まる]
蓮:「信じられない...」
[椅子の背もたれに寄りかかる音]
蓮:「でも...」
[沈黙]
蓮:「俺、覚えてるんだ」
蓮:「おばあちゃんが怖くなっていったこと」
蓮:「最初は優しかったのに...だんだん変わっていって...」
蓮:「お母さんに怒鳴ったり、物を投げたり...」
蓮:「俺も...怖かった」
[深いため息]
蓮:「だから...お父さんの気持ちも...わかる...かも」
[ドンドンドンという音]
[壁を叩く音]
蓮:「!」
[音が続く]
[隣の部屋から]
蓮:「お姉ちゃんの部屋...?」
[立ち上がる]
蓮:「お姉ちゃん?」
[ドアを開ける]
蓮:「お姉ちゃん、大丈夫?」
[廊下に出る]
[結衣の部屋のドアをノックする]
蓮:「お姉ちゃん!」
[返事がない]
蓮:「開けるよ!」
[ドアを開ける]
[悲鳴]
蓮:「お姉ちゃん!!」
[部屋に駆け込む音]
蓮:「お姉ちゃん、起きて!起きて!」
[揺さぶる音]
蓮:「お父さん! お母さん!」
[階段を駆け下りる音]
蓮:「誰か!助けて!」
[録音終了 / 録画時間:3分28秒]


【映像記録 #049】
日付:2025年3月11日 16:10
撮影者:川瀬誠
場所:結衣の部屋
ファイル名:IMG_0049.MP4
[結衣の部屋。床に倒れている結衣]
[誠、美咲、蓮が周りを囲んでいる]
誠の声:「結衣! 結衣!」
美咲:「結衣、目を開けて!」
[結衣の体が痙攣している]
蓮:「お父さん、救急車!」
誠:「もう呼んだ!」
[結衣の口が動く]
[何かを呟いている]
美咲:「結衣?何か言ってる...」
[耳を近づける美咲]
美咲:「...ゆるさない...?」
誠:「結衣!?」
結衣:「うそつき...みんな...うそつき...」
美咲:「結衣、あなたじゃないでしょ!? 誰なの!?」
[結衣の目が開く]
[白目を剥いている]
[そして、ゆっくりと誠を見る]
結衣(房江の声):「まこと...」
誠:「...お義母さん?」
結衣:「どうして...ころした...」
誠:「俺は...」
結衣:「わたし...しにたくなかった...」
美咲:「お母さん...結衣から出ていって!」
結衣:「みさきも...わるい...」
美咲:「私が悪いのはわかってる! だから、結衣には...」
結衣:「みんな...つぐなわないと...」
誠:「償う...どうすればいい?」
結衣:「しんじつを...いえ...」
誠:「真実は話した!」
結衣:「ぜんぶ...じゃない...」
誠:「全部...?」
結衣:「まだ...かくしてる...」
[沈黙]
美咲:「誠さん...まだ何かあるの?」
誠:「...」
結衣:「いえ...さもないと...」
[結衣の体が大きく痙攣する]
美咲:「結衣!」
[突然、結衣が静かになる]
[普通に呼吸している]
[目を開ける]
結衣:「...お母さん?」
美咲:「結衣!大丈夫!?」
結衣:「何があったの...?私...」
[遠くからサイレンの音]
蓮:「救急車、来た!」
誠:「蓮、誘導してきて!」
蓮:「うん!」
[蓮が部屋を出る]
[美咲が結衣を抱きしめる]
美咲:「大丈夫...大丈夫よ...」
[誠は呆然と立っている]
誠(独り言):「まだ...隠してる...?」
[映像終了 / 録画時間:5分53秒]


【病院での記録】
日付:2025年3月11日 18:30
場所:総合病院 診察室
記録者:診察医(音声のみ)
医師:「検査の結果ですが...」
誠:「はい」
医師:「身体的には、特に異常はありません」
美咲:「でも、あんなに...」
医師:「過度のストレスによる失神、と診断します」
誠:「ストレス...」
医師:「最近、何か心理的な負担がありましたか?」
結衣:「...家族の問題で」
医師:「そうですか。娘さん、かなり疲れているようです」
医師:「しばらく安静にして、必要ならカウンセリングも検討してください」
美咲:「はい...」
医師:「今日は念のため一晩、入院していただきますが、問題なければ明日退院できます」
誠:「わかりました。ありがとうございます」
[診察室を出る]


【映像記録 #052】
日付:2025年3月11日 20:00
撮影者:川瀬誠
場所:病院の廊下
ファイル名:IMG_0052.MP4
[病院の廊下。誠が一人で立っている]
[窓の外は真っ暗]
誠(独り言):「まだ隠してる...か」
[窓ガラスに映る自分の姿を見つめる]
誠:「何を隠してる?俺は全部話したはずだ」
[沈黙]
誠:「睡眠薬のこと...大量に飲ませたこと...」
誠:「他に何が...」
[そのとき、窓ガラスに]
[自分の姿の隣に]
[もう一人、映っている]
[房江]
誠:「!」
[振り返る]
[誰もいない]
[再び窓を見る]
[房江の姿は消えている]
誠:「...気のせいか」
[しかし]
[ガラスに文字が浮かび上がる]
[指で書いたような文字]
『あのひ なにを した』
誠:「あの日...?」
[さらに文字が]
『へやを でたあと』
誠:「部屋を出た後...?」
[記憶を辿る誠]
誠:「俺は...睡眠薬を飲ませて...お義母さんが眠ったのを確認して...」
誠:「部屋を出て...」
[はっとする]
誠:「...鍵」
[文字が増える]
『そう』
『かぎを かけた』
誠:「俺は...鍵をかけた...」
[震える声]
誠:「お義母さんが...起きて暴れないように...」
『だから』
『わたしは』
『でられなかった』
誠:「...」
『くるしくて』
『たすけを よんだ』
『でも』
『だれも こなかった』
[誠が壁に寄りかかる]
誠:「そんな...俺は...」
『ころした』
『あなたが』
『わたしを』
『ころした』
[誠が床に崩れ落ちる]
誠:「ごめん...ごめんなさい...」
[文字が消える]
[廊下に、誠の嗚咽だけが響く]
[映像終了 / 録画時間:4分37秒]


【映像記録 #054】
日付:2025年3月12日 00:15
撮影者:川瀬誠
場所:病院 結衣の病室
ファイル名:IMG_0054.MP4
[深夜の病室。結衣がベッドで眠っている]
[美咲も付き添い用の椅子で仮眠している]
[誠がカメラを持って、窓際に立っている]
誠の声(小声):「結衣は眠ってる。美咲も」
[カメラを自分に向ける]
[憔悴しきった顔]
誠:「俺は...最低だ」
[涙が頬を伝う]
誠:「お義母さんを殺した。それも...鍵をかけて、閉じ込めて」
誠:「苦しんでたはずだ。助けを求めてたはずだ」
誠:「でも、俺は...気づかないふりをして...朝まで寝てた」
[声が震える]
誠:「美咲のせいにした。美咲が閉じ込めたから、悪いのは美咲だって...」
誠:「でも、本当は...俺が殺したんだ」
[カメラを窓の外に向ける]
誠:「お義母さん...聞こえてますか?」
誠:「俺が悪かった。全部、俺のせいです」
誠:「美咲も、子供たちも、何も悪くない」
誠:「だから...だから、お願いです...」
誠:「家族には...何もしないでください」
[沈黙]
[窓ガラスに、また文字が浮かぶ]
『おそい』
誠:「...遅い?」
『もう はじまって いる』
誠:「何が...始まってるんですか?」
『つぐない』
誠:「償い...」
『みんな くるしむ』
『わたしが くるしんだ ように』
誠:「やめてください! 子供たちは関係ない!」
『かんけい ある』
『みんな みてた』
『わたしの くるしみを』
『だれも たすけなかった』
[誠が窓に手をつく]
誠:「それは...そうかもしれない...でも...」
『だから』
『みんな ゆるさない』
[文字が消える]
[誠が膝から崩れ落ちる]
[そのとき]
美咲の声:「...誠さん?」
[美咲が目を覚ましている]
美咲:「何してるの...?」
誠:「...美咲」
美咲:「また...お母さんと?」
誠:「...ああ」
美咲:「何て?」
誠:「...もう、手遅れだって」
美咲:「手遅れ...」
誠:「俺たち、もう...許されないんだ」
[美咲が誠に近づく]
美咲:「諦めないで」
誠:「でも...」
美咲:「まだ方法があるはず」
誠:「方法...?」
美咲:「わからない。でも...探さないと」
[二人が見つめ合う]
[ベッドから、結衣の声]
結衣:「...お父さん、お母さん」
[二人が振り向く]
結衣:「聞こえてた...」
美咲:「結衣...」
結衣:「おばあちゃん...本当に怒ってるんだね」
誠:「...ああ」
結衣:「私たち、どうなっちゃうの?」
[誠が答えられずにいる]
美咲:「大丈夫。何とかする」
結衣:「どうやって?」
美咲:「...まず、家に帰ったら、蓮と話をする」
美咲:「それから...ちゃんと、お母さんと向き合う」
誠:「向き合う...?」
美咲:「ええ。逃げるのはもうやめ。全部、受け入れる」
結衣:「お母さん...」
美咲:「それしか、道はないわ」
[映像終了 / 録画時間:7分22秒]


【映像記録 #058】
日付:2025年3月12日 10:00
撮影者:川瀬誠
場所:自宅リビング
ファイル名:IMG_0058.MP4
[リビング。家族四人が集まっている]
[結衣は昨夜退院した]
[全員、疲れ切った表情]
誠の声:「みんな、集まってくれてありがとう」
蓮:「...うん」
結衣:「...」
誠:「昨日、お義母さんが俺に言った」
誠:「『もう手遅れだ』『みんな許さない』って」
美咲:「でも、私たちは諦めない」
蓮:「どうするの?」
美咲:「全部、明らかにする」
結衣:「明らかに...?」
美咲:「お母さんの死の真相。私たちが何をしたか。全部」
誠:「でも、それを誰に?」
美咲:「...警察」
[一同、息を呑む]
蓮:「警察って...お父さん、捕まるの?」
誠:「...かもしれない」
結衣:「やだ...」
誠:「でも、それが償いなら...」
美咲:「お母さんが求めてるのは、真実だと思うの」
美咲:「隠し続けることじゃなく、ちゃんと認めること」
蓮:「でも、警察に言ったら...」
美咲:「家族は壊れるかもしれない」
美咲:「でも、今のままでも壊れてる」
結衣:「...」
誠:「俺は...お前たちの判断に従う」
誠:「俺が勝手にしたことで、みんなを巻き込んだ」
誠:「だから、決めてくれ」
[長い沈黙]
[蓮が口を開く]
蓮:「...俺は、いいと思う」
誠:「蓮...」
蓮:「このまま、おばあちゃんに怯えて生きるのは嫌だ」
蓮:「お父さんがしたことは悪いことだけど...でも、家族は家族だし」
[涙をこらえる蓮]
蓮:「一緒に、償いたい」
美咲:「蓮...」
結衣:「...私も」
誠:「結衣」
結衣:「怖いけど...でも、このままじゃダメだと思う」
結衣:「真実を言わないと、おばあちゃんは許してくれない」
[美咲が二人を抱きしめる]
美咲:「ありがとう...」
[誠も加わる]
[家族四人、抱き合う]
誠:「...じゃあ、決まりだな」
美咲:「ええ」
誠:「でも、その前に」
美咲:「何?」
誠:「お義母さんに、直接話したい」
美咲:「お母さんに?」
誠:「ああ。警察に行く前に、ちゃんと謝りたい」
美咲:「...2階の部屋?」
誠:「うん。みんなで行こう」
蓮:「みんなで...?」
誠:「ああ。家族全員で」
結衣:「...わかった」
[四人が立ち上がる]
[階段に向かう]
[映像終了 / 録画時間:6分48秒]


【映像記録 #059】
日付:2025年3月12日 10:15
撮影者:川瀬誠
場所:2階廊下〜房江の部屋
ファイル名:IMG_0059.MP4
[2階の廊下を歩く家族四人]
[誠がカメラを持っている]
[房江の部屋の前で立ち止まる]
美咲:「...ここ」
蓮:「久しぶりだな...この部屋」
結衣:「3年ぶり...」
誠:「行くぞ」
[ドアを開ける]
[部屋の中]
[埃っぽい空気]
[しかし、何かが違う]
美咲:「...あの椅子」
[部屋の中央に、あの椅子が置かれている]
[ダイニングにあったはずの椅子]
蓮:「いつの間に...」
誠:「わからない...でも」
[椅子に近づく]
誠:「お義母さん、います...よね」
[沈黙]
[部屋の空気が重くなる]
[窓が、ガタガタと揺れ始める]
結衣:「...!」
[電球が点滅する]
[そして]
[椅子に]
[徐々に]
[姿が現れる]
[房江]
[白い服を着た、老婆の姿]
[はっきりと、そこに座っている]
美咲:「お母さん...」
[房江が四人を見る]
[悲しみと怒りの混じった表情]
房江:「...みんな...そろったのね」
誠:「...はい」
房江:「なんの ようかしら」
誠:「謝りに来ました」
房江:「あやまる...?」
誠:「はい。俺が...あなたを殺しました」
[房江の表情が変わらない]
誠:「睡眠薬を大量に飲ませて...部屋に閉じ込めて...鍵をかけて」
誠:「あなたが苦しんでいるのを知りながら...助けなかった」
房江:「...」
誠:「本当に...申し訳ありませんでした」
[誠が深く頭を下げる]
[美咲も]
美咲:「お母さん...私も、ごめんなさい」
美咲:「お母さんを閉じ込めた。あなたの苦しみを、見て見ぬふりをした」
美咲:「娘として...最低でした」
[結衣と蓮も頭を下げる]
結衣:「おばあちゃん...私も、ごめんなさい」
蓮:「俺も...助けられなくて、ごめんなさい」
[四人、頭を下げたまま]
[房江が立ち上がる]
[四人に近づく]
房江:「...あやまれば...ゆるされる...と...?」
誠:「...いいえ」
房江:「では...なぜ...」
誠:「許されなくても、言わなければいけないと思いました」
誠:「これから、警察に全部話します」
誠:「罰を受けます。それが償いだと思うから」
房江:「...ばつ...」
美咲:「お母さん、私たちは逃げません」
美咲:「あなたにしたことの責任を、取ります」
[房江が動きを止める]
[長い沈黙]
房江:「...わたしは」
房江:「くるしかった」
[涙が頬を伝う]
房江:「さびしかった」
房江:「こわかった」
房江:「あの ばん」
房江:「ずっと...ドアを...たたいた」
房江:「たすけて...たすけて...って」
房江:「でも...だれも...こなかった」
[家族全員、涙を流している]
房江:「むねが...くるしくて」
房江:「いきが...できなくて」
房江:「でも...だれも...」
[房江が崩れ落ちる]
[美咲が駆け寄る]
美咲:「お母さん!」
[房江を抱きしめようとする]
[しかし、手は空を切る]
[房江の体は、触れられない]
美咲:「お母さん...ごめんなさい...ごめんなさい...」
[美咲が床に崩れる]
[誠、結衣、蓮も]
[みな、泣いている]
房江:「...でも」
[房江が顔を上げる]
房江:「いま...わかった」
美咲:「...え?」
房江:「みんな...くるしんでた」
房江:「わたしだけ...じゃなかった」
誠:「お義母さん...」
房江:「みさきは...かぞくを まもろうと...」
房江:「まことは...みさきを まもろうと...」
房江:「みんな...まちがえた」
房江:「わたしも...」
[房江の姿が、薄くなっていく]
結衣:「おばあちゃん...消えちゃうの?」
房江:「だいじょうぶ」
房江:「もう...くるしく ない」
蓮:「おばあちゃん...」
房江:「ゆい、れん」
房江:「ひどいこと...いって...ごめんね」
結衣:「ううん...」
蓮:「おばあちゃん...」
房江:「みんな...しあわせに...なって」
美咲:「お母さん...行かないで...」
房江:「だいじょうぶ」
房江:「もう...ここには...いない」
房江:「でも...いつも...みてる」
[房江が微笑む]
[穏やかな、優しい笑顔]
房江:「さようなら」
[光に包まれる房江]
[そして]
[消える]
[部屋には、椅子だけが残っている]
[家族四人、呆然と立っている]
[やがて]
[美咲が椅子に触れる]
美咲:「...温かい」
誠:「え?」
美咲:「椅子が...温かいの」
[みなが椅子に触れる]
[確かに、温もりがある]
蓮:「本当だ...」
結衣:「おばあちゃんの...温もり」
[四人が椅子を囲む]
[誠がカメラを置く]
[家族四人、椅子の周りで手を繋ぐ]
[静かな祈りのような時間]
[やがて、窓から差し込む光が強くなる]
[部屋全体が、優しい光に包まれる]
[映像終了 / 録画時間:15分27秒]


【映像記録 #062】
日付:2025年3月13日 14:00
撮影者:川瀬誠
場所:警察署
ファイル名:IMG_0062.MP4
[警察署の取調室]
[誠が机を挟んで、刑事と向かい合っている]
[カメラは許可を得て、部屋の隅に設置されている]
刑事:「では、改めて確認しますが」
誠:「はい」
刑事:「3年前、義母の川瀬房江さんに、睡眠薬を大量に飲ませた」
誠:「はい」
刑事:「その後、部屋に鍵をかけて閉じ込めた」
誠:「はい」
刑事:「翌朝、房江さんは心臓発作で亡くなっていた」
誠:「はい」
刑事:「そして、この事実を今まで隠していた」
誠:「...はい」
[刑事がため息をつく]
刑事:「なぜ今になって自首を?」
誠:「...償いたいと思ったからです」
刑事:「3年も経ってから?」
誠:「はい。遅すぎることはわかっています」
刑事:「...」
[刑事が資料に目を通す]
刑事:「房江さんの死因は、当時、心臓発作と診断されています」
刑事:「睡眠薬との因果関係を証明するのは...難しいでしょう」
誠:「...それでも、事実は事実です」
刑事:「川瀬さん」
誠:「はい」
刑事:「あなたの行為は、確かに問題があります」
刑事:「しかし、殺人の意図があったとは言えない」
刑事:「それに、時効の問題もあります」
誠:「時効...」
刑事:「ご家族のためにも、よく考えられた方がいい」
誠:「...」
[取調室のドアがノックされる]
[別の警察官が入ってくる]
警察官:「失礼します。ご家族が来られています」
刑事:「...会いますか?」
誠:「はい」
[美咲、結衣、蓮が入ってくる]
美咲:「誠さん...」
誠:「みんな...」
刑事:「少し、お話しください」
[刑事が席を外す]
[家族が誠の周りに集まる]
美咲:「刑事さんから聞いたわ。不起訴になるかもしれないって」
誠:「...ああ」
結衣:「よかった...」
誠:「でも、俺がしたことは消えない」
蓮:「わかってる。でも、お父さんがいなくなったら嫌だ」
誠:「蓮...」
美咲:「誠さん、私たち、これから一緒に償っていきましょう」
美咲:「お母さんに、毎日祈りを捧げて」
美咲:「ちゃんと、供養して」
結衣:「家族で、生きていこう」
誠:「...みんな」
[誠が泣く]
誠:「ありがとう...」
[家族が抱き合う]
[カメラは静かに、その様子を記録し続ける]
[映像終了 / 録画時間:8分15秒]


【テキストファイル】
作成日:2025年3月15日
作成者:川瀬誠
川瀬家 記録

2025年3月13日、警察に全てを話した。
結果、不起訴処分となった。
証拠不十分、時効、そして房江さんの死因が
心臓発作と既に診断されていたため。

法律上は罰せられなかった。
でも、俺の罪は消えない。

美咲と話し合った。
これからどう生きていくか。

決めた。

房江さんのために、毎日祈る。
この家で、家族と共に生きる。
逃げない。

そして、この記録を残す。
何があったのか。
俺たちが何をしたのか。
後世のために。

それが、俺たちにできる償いだ。

房江さん、見守っていてください。


【映像記録 #070】
日付:2025年3月20日 19:00
撮影者:川瀬誠
場所:ダイニングルーム
ファイル名:IMG_0070.MP4
[ダイニング。家族四人が夕食を囲んでいる]
[テーブルには、五脚の椅子]
[あの椅子が、定位置に置かれている]
[誰も座っていない]
[しかし、その前には食器が置かれている]
誠の声:「いただきます」
全員:「いただきます」
[食事が始まる]
[蓮が、五人目の皿に料理を取り分ける]
蓮:「おばあちゃんの分」
美咲:「ありがとう、蓮」
[自然な動作]
[まるで房江がそこにいるかのように]
結衣:「今日ね、学校で先生に褒められたんだ」
美咲:「よかったわね」
誠:「何を?」
結衣:「英語のテスト、満点だった」
蓮:「すごい」
結衣:「おばあちゃんにも報告したいな」
美咲:「きっと聞こえてるわよ」
[一同、空いた椅子を見る]
[そこには誰もいない]
[でも、確かに]
[何かがいるような気がする]
[温かい存在]
誠:「房江さん、結衣が頑張ってますよ」
[沈黙]
[そして]
[窓が、そよ風で揺れる]
[まるで返事をするように]
美咲:「...お母さん」
蓮:「おばあちゃん、いるのかな」
結衣:「いるよ。きっと」
[家族が微笑む]
[食事が続く]
[カメラは、その光景を静かに記録する]
[五人家族の、新しい日常を]
[映像終了 / 録画時間:12分04秒]


【音声記録 #025】
日付:2025年3月20日 23:00
録音者:川瀬誠
場所:書斎
ファイル名:Voice_025.m4a
誠の声:「3月20日。記録を続けて、18日目」
[ペンで何かを書く音]
誠:「あれから、家族の様子が変わった」
誠:「みんな、少しずつだけど、笑顔が増えた」
誠:「房江さんとちゃんと向き合ったからだと思う」
[椅子の背もたれに寄りかかる音]
誠:「でも、時々、不思議なことが起きる」
誠:「朝起きると、房江さんの部屋から懐かしい匂いがしたり」
誠:「夜、廊下で誰かの気配を感じたり」
誠:「でも、もう怖くない」
誠:「房江さんは、怒ってない」
誠:「見守ってくれてる」
[深呼吸]
誠:「俺は、この記録を続ける」
誠:「何が起きても、全部記録する」
誠:「それが、俺たち家族の物語だから」
[沈黙]
誠:「房江さん、今夜もおやすみなさい」
[録音終了 / 録音時間:2分18秒]