「お父さんもいる……」
玄関に揃えられた靴を見て、ますます緊張が走った。
矢島と顔を見合わせたところへ、部屋の中から母が現れた。
「矢島さん、よく来てくれましたね。どうぞ上がってください」
「あ、はい。お邪魔します……」
矢島とともに不思議に思いながら中に入ると、テーブルにはいくつもの品々が並べられていた。
「お母さん、これって?」
俺の問いには答えず、母はどうぞ、とだけ言って矢島に席を勧めた。
するとそこへ、自室の方から父が現れた。
「矢島君、突然悪いね。特に話があるとかではないから緊張しなくていいよ。さあ、いっぱい食べて行ってくれ」
「はあ……えっと、ありがとうございます」
俺と矢島は再び顔を見合わせ、首を捻りながらも席に着く。
俺は生まれて初めて食べると言っても過言ではないくらい、豪華な夕飯に手を付けていきながら、初めは疑問に感じていたけれど、徐々に両親の気持ちが仄かに分かり始めた。
母が以前、俺と口論になった日の翌朝に朝食を作ってくれていたことを思い出す。
母の方を見ても、母は何も言わない。
俺の方も見ず、ただ黙々と食べている。
父も何も言わないが、その口元には柔らかい笑みが浮かんでいた。
その様子を見て、俺は少しずつ緊張を解いていき、食事を楽しむことに集中し始めた。
矢島の方を見ると、少し居心地悪そうにはしているが、俺の表情を見て、ほんのり笑った。
俺はきっと穏やかな表情をしていたのだろう。
食事中一切口を利かない家庭なんて、普通なら、すごく居心地が悪く、家族らしくないだろう。
けれど、俺にとってはそれさえも奇跡的で、温かい光景に思えた。
いずれ、この食卓も会話が飛び交うようになる。
俺にはその場面が、くっきりと浮かぶようだった。
その後、矢島が夕食に足を運んでくれるのが当たり前になっていく中で、俺は学年が上がり、高校生最後の年になった。
新任の教師が誰だろうとざわめく教室の中で、俺は密かに予感していたのかもしれない。
「たぶん、担任になるのは……」
独り言を呟いた瞬間、窓から吹き込んだ風が桜の花びらを運んできて、教室の扉が開く。
そこから現れた姿に、俺は満面の笑みを浮かべる。
「担任の先生、めちゃくちゃイケメンじゃね?」
目の前の席に座っていた間宮が振り返りながら囁く。
俺は頷きながら、担任の先生と視線を交わす。
――これで毎日、楓さんと一緒ですね。
その視線から伝わる台詞が脳内に響いた時、俺には二人で描く眩しいばかりの未来がくっきりと思い浮かんだ。
玄関に揃えられた靴を見て、ますます緊張が走った。
矢島と顔を見合わせたところへ、部屋の中から母が現れた。
「矢島さん、よく来てくれましたね。どうぞ上がってください」
「あ、はい。お邪魔します……」
矢島とともに不思議に思いながら中に入ると、テーブルにはいくつもの品々が並べられていた。
「お母さん、これって?」
俺の問いには答えず、母はどうぞ、とだけ言って矢島に席を勧めた。
するとそこへ、自室の方から父が現れた。
「矢島君、突然悪いね。特に話があるとかではないから緊張しなくていいよ。さあ、いっぱい食べて行ってくれ」
「はあ……えっと、ありがとうございます」
俺と矢島は再び顔を見合わせ、首を捻りながらも席に着く。
俺は生まれて初めて食べると言っても過言ではないくらい、豪華な夕飯に手を付けていきながら、初めは疑問に感じていたけれど、徐々に両親の気持ちが仄かに分かり始めた。
母が以前、俺と口論になった日の翌朝に朝食を作ってくれていたことを思い出す。
母の方を見ても、母は何も言わない。
俺の方も見ず、ただ黙々と食べている。
父も何も言わないが、その口元には柔らかい笑みが浮かんでいた。
その様子を見て、俺は少しずつ緊張を解いていき、食事を楽しむことに集中し始めた。
矢島の方を見ると、少し居心地悪そうにはしているが、俺の表情を見て、ほんのり笑った。
俺はきっと穏やかな表情をしていたのだろう。
食事中一切口を利かない家庭なんて、普通なら、すごく居心地が悪く、家族らしくないだろう。
けれど、俺にとってはそれさえも奇跡的で、温かい光景に思えた。
いずれ、この食卓も会話が飛び交うようになる。
俺にはその場面が、くっきりと浮かぶようだった。
その後、矢島が夕食に足を運んでくれるのが当たり前になっていく中で、俺は学年が上がり、高校生最後の年になった。
新任の教師が誰だろうとざわめく教室の中で、俺は密かに予感していたのかもしれない。
「たぶん、担任になるのは……」
独り言を呟いた瞬間、窓から吹き込んだ風が桜の花びらを運んできて、教室の扉が開く。
そこから現れた姿に、俺は満面の笑みを浮かべる。
「担任の先生、めちゃくちゃイケメンじゃね?」
目の前の席に座っていた間宮が振り返りながら囁く。
俺は頷きながら、担任の先生と視線を交わす。
――これで毎日、楓さんと一緒ですね。
その視線から伝わる台詞が脳内に響いた時、俺には二人で描く眩しいばかりの未来がくっきりと思い浮かんだ。

