あなただけが教えてくれた

 放課後、担任につかまってしまい、なかなか矢島の元へ行けなかった。
 理由としては、部活動に何か入るようにということだったが、俺は興味ないのでの一点張りで、根負けした担任にようやく解放された。
「ふう……あ、やばい。璃日人さんからめっちゃ通知が来てる!」
 慌てて廊下を走ると、担任が廊下は走らないと注意する声が背後から響いたが、俺は無視した。
 校門に向かうと、矢島は珍しく車では来ていなかった。
「すみません、お待たせしました!先生につかまってしまって」
「いいですよ」
 そう言いながらも、矢島はやや拗ねた口調と態度だ。
「璃日人さん、時々子どもっぽいです」
「こんな俺は嫌ですか」
「いいえ、可愛いです」
 隣り合って歩きながら言えば、矢島は顔を赤らめた。
「照れてます?」
「楓さん、何か俺とこうなってから、そういうのに躊躇いがなくなってきてませんか」
「そんなことありませんよ。流石に、自分からは……その、あれはできないので」
「あれ?」
「……言わせないで下さい」
 今度は俺が顔を赤くする番だった。
「教えて下さい」
 矢島の手が伸びてきて、俺の頬に触れる。
「言わなきゃ駄目ですか?」
「言わなきゃ、ここでします」
 矢島がしようとしていることがそれなのに、分かっていて言わせようとする。
 それも、ここは通学路で、夕方とはいえ人通りはそれなりにある。
「璃日人さんは何というか、どんどん意地悪になってますよね」
「意地悪じゃありません。俺は、好きだからこうなるんです。楓さんのいろんな顔、いろんな言葉の数々、全てを聞いて、見ていたいんです」
「璃日人さん、欲張りです」
「今さら知ったんですか?ほら、こっちです」
「えっ、ちょっ」
 いきなり腕を引かれたかと思えば、細い道に引っ張り込まれた。
「り、ひと、さ……」
「しっ、声さえ出さなければ気づかれません」
 反論しようとした。
 ブロック塀の向こうには民家があって、そこからちょっと庭先に出たら気づかれるかもしれない。
 それとも、たまたま細道に人が来て、見られるかもしれない。
 でも、そんな反論も、俺の不安も全て、矢島は呆気なく口付け一つで塞ぎ、宥めてしまう。
「鼻で息をするんです」
 長く合わせられて呼吸が苦しくなると、優しく諭すように教えられる。
 俺は無我夢中で矢島の背中に手を回し、しがみついて暴れる鼓動を鎮めるしかない。
 ようやく解放されたと思うと、間近で綺麗な男と目が合う。
「璃日人さん、俺が初恋なんですよね?」
「そうですよ」
「何か、慣れ過ぎてませんか」
「そんなことありません。俺も必死です。ほら」
 後頭部を掴まれ、胸元に耳を押し当てられれば、確かに心音が速い気がした。
「璃日人さん、落ち着かないので、その……」
「そうですね。二人になれるところに行きましょう」
 宛てがあるのか、矢島は俺の手を引いて歩き出した。