あなただけが教えてくれた

 翌日、俺は学校で山笠に話がある、と屋上に呼び出された。
「何?こんなところで」
 まだ季節は夏に入りかけだが、澄み渡った青空が広がっていた。
「いや、さ……相談したいな、と思って」
 山笠は、照れくさそうにフェンスに寄りかかり、風に髪をなびかせながら俺を見る。
「相談?」
「だってほら、昨日のボイスメッセージで鷺澤君、言ってたでしょ」
「あ……ああ、そういうこと!」
「そうだよ。てか、もしかして、あれってSNSの人限定ってこと?」
「ううん、そんなことはないけど……それで、相談って?俺が解決できるかは分からないけど」
「鷺澤君にしか相談できないよ。その、宇宙さん?て人と上手くいった鷺澤君にしかね」
「あ……もしかして、水瀬君とのこと?」
「うん、実は振られた」
「え?そうなの?でも自然に話しているように見えたけど……」
「そう見えるように頑張っているだけ」
 儚く笑う彼を見ていると、俺まで胸が痛くなった。
「振られた理由、聞いてもいい?」
 傷口を抉らないように慎重に尋ねると、山笠はあっさり答えた。
「同性をそういうふうに見れないって。それに、今は趣味に没頭したいからって」
「趣味?」
「小説を書いてるんだって」
「へえ。何というか、こう言ってはなんだけど、イメージ通りだね」
「うん。あー、どうすればいいかな。俺、もう女を好きになれないし。かと言って、同性に興味ない人を振り向かせる自信ないし。他に行った方がいいのかな……」
「うーん……難しい問題だね」
 俺は軽々しく言えないと思った。
 自分のことを思い返すと、もともと矢島の方から想いを寄せてくれていたのだから、どちらかといえば俺は水無瀬の側だ。
 では何であっさり意識し始めたのかというと、SNS上だからというのもあるが、性別を飛び越えた何かがあったのは間違いなかった。
「上手く言えないけど、性別が全てじゃないと思うけどな。惹かれる時は、否応なしに……」
 その時に蘇ったのは、やっぱり矢島の台詞だった。

――恋愛というのは、本人の意思で抑え込めるものじゃないんです。落ちてしまったら、もうそこから元には戻れない。鷺澤さんが答えに迷うのは、自覚がないわけではなくて、その気持ちが恋じゃなく、憧れだからじゃないんですか?

「これは受け売りなんだけどね、恋愛って自分の意思ではどうにもならないものだから、俺と宇宙さんの場合は、あっさりその概念っていうのかな、飛び越えちゃったな。こんなんじゃアドバイスにならないだろうけど」
「……ううん、ちょっとだけ気が楽になった。男女でも、両想いになるのってそれぐらい奇跡的ってことだよね。あっさり、いろいろ自分のタイプとか関係なしに、いつの間にかって」
「そうそう、というか、山笠君は付き合ったことあるんだからその感覚分かるか」
「うーん、でも俺の場合はたぶん、何かを間違えたんだよ。そこまでの相手じゃなかった。だからあんな付き合い方したし、終わり方をした。うん、ちょっとだけすっきりしたよ」
「本当に?こんなんでアドバイスにはなってないと思うけど」
「ううん、ありがとう。俺は先に戻るね」
 少しだけ明るくなった表情を浮かべながら、片手をひらりと振りながら、山笠は立ち去っていく。
 俺はその背中を目を細めて見送り、空を見上げた。
 話しながら分かったことがある。
 今さらだけど、俺と矢島は本当にかなりの確率で出会ったのだと。
「神様って本当にいるのかも」
 と思ったけど、すぐに思い直した。
 仮に出会わせたのが神様だとしても、その後ここまで関係を育めたのは、お互いがお互いに歩み寄って、助け合ったり、理解し合った結果だ。
 とても、今すぐに矢島に会いたかった。
 するとそこへ、狙いすましたかのようにスマートフォンが震える。
「え?電話?タイミング凄すぎ」
 驚きと喜びで舞い上がりながら電話に出ると、矢島は息を切らしていた。
「璃日人さん、どうしたんですか?」
「……、楓さん、俺、就職先決まりました」
「え!おめでとうございます!」
「ありがとう。それで、話したいので、放課後迎えに行きます」
「はい」
 俺は電話越しだと分かっていながら、勢いよく頷いた。