あなただけが教えてくれた

「お父さん、俺……」
「今電話をしていたのは、矢島君か?」
「……」
 肯定も否定もしないでいると、父は苦笑いした。
「俺は矢島君には頭が上がらないな。あの子の方が、我々より親のようだ」
「矢島さんからは、なんて」
「自分の息子が、成長する姿を見たいとは思いませんか。今からでも遅くありません。親として、楓さんに向き合う時ですって、それはもう必死でな。俺の方はお前のやることに全面的に反対していたわけではないが、目が覚めるような気がした。お前は学校に行き始めて、友達もできたんだってな。俺は何というか、ほっとしたんだ」
「お父さん……」
 父の目に涙が浮かんでいるような気がしたのは、見間違いかもしれない。
 でも、目の前にいるのが確かに自分の父だと、たぶん初めて感じた瞬間だった。
「母さんの説得は、俺も手伝う。そもそも、俺も母さんも、お前をほったらかしにして好き勝手やっていたんだ。文句を言う資格はない。インフルエンサーでも何でも、好きにしなさい」
 立ち去ろうとする父の背に、俺は呟くように言った。
「お父さん、ありがとう。それと、矢島さんのことなんだけど……」
 あのホームページを見たことで薄々察しているかもしれないけれど、今後動画を上げるとしたら、もっとはっきりと明らかになっていくことだ。父どころか、あの母にさえ知られることになる。
 だからこそ、今のうちに言っておくべきだと口を開く。
「俺、矢島さんが……」
 父が振り返りもせずに遮った。
「お前にとって、彼は親以上の道標だからな。俺からは余計なことは言わない」
 すっと肩から重石が消えたと思った瞬間、父は付け加えた。
「ただし、高校生のうちはまだ自制しなさい」
「自制?」
「分からないなら、問題ない」
 父が去った後、俺は言葉の意味をじわりと理解して、一人赤面した。
「矢島さんに、電話しよう」
 咳払いし、言葉にならない思いをどう伝えようかと考えながら、電話をかけ始めた。