君に恋をしても何も変わらなかったのに




「でさ〜、昨日もまた悠斗くんと話せたんだよね!」




そう言って、ほとんど進展のない恋バナを続ける椎奈は、知らない。


椎奈が恋するずっと前から、私がその人を好きだった、ということを。




「良かったじゃん。で?今日は話せたの?」




ずっと私と話していた彼女が話せているわけもない。


それでも聞く私って性格悪いなぁ、と思う。


けれど、一度口に出してしまった言葉は消えないから、仕方がなく椎奈の言葉を待つ。



「うっ、それはまだ…」



予想通りの回答をしてきた彼女に、「行ってきたら?」という言葉を返す。



応援したくないわけではない。

親友の、恋だから。


それでも、もし私か椎奈の好きな人が違えばな、とは思う。

それも運命なのかな、と思いながら。


そんなことを考えている間に、椎奈が返事を返してくる。



「行けないよ〜、だってあの人だかりの中に入る自信ないもん…」



ほら、あそこ、と言って、椎奈が指さしたのは椎奈の、そして私の初恋である星川悠斗。


悠斗くん、なんて呼び方ができるならあの人だかりに入るくらいできるんじゃ、と思いながらも、そこそこ気が抜けた、適当と言えなくもない言葉を返す。



「理由なんてなんとでも言えるじゃん。例えば、委員会の都合?で話すことが〜、とか。」



ここまで可愛く『恋』というものをできる椎奈を、少し羨ましく思う。

それこそ、妬ましいくらいに。


そんな、自分で言うのもどうかとは思うが、醜い感情に目を背ける。

今なら来てくれてもいいのにな。そしたら、少しは対応してあげるのに。


いつもなら絶対に嫌!というようなことを願ってみた。

叶うとは、思えないけれど。


世間一般でいう、俺様系の人。

私の好きな人や好きな漫画のヒーローとは正反対で、

漫画で言えばモブ程度にしかなれない。そんな、性格をしていた。


そのくせ、名前はあるんだよなぁ、なんて、自分が好きな漫画のキャラを思い出していると、突然に呼ばれる。

七瀬ー、と私のことを呼ぶのは、私が来ないかな、と冗談混じりに願っていた人の声だった。

そしてそいつは、今日もテンプレと化したセリフを吐く。



「いい加減、俺のものになる気になったー?」



神田楓。私がクラス1嫌いな人。


けれど、椎奈の恋バナよりは嫌じゃない。


そう思い、いつもは無視をするその問いに返事を返す。



「ならないってば!何回言ったらわかるのー?第一、私好きな人いるし〜」


もちろん、あんたのことじゃないよ?という言葉も添えて。



普段は気にしている笑顔も、こいつ(神田)の前では多少崩れても大丈夫だ。


それがわかっているから、営業スマイルを作る。


普段とは少しだけ違う笑顔。その笑顔の違和感に気づくのは、椎奈くらいだろう。




「好きなやつって、あいつだろ?俺の相方。」



相方、と言われてもよくわからない。こいつには、一切興味がないから。



「ほら、あいつだよ、あの…悠斗」


その神田の発言に、一瞬、空気が凍る。



嫌な予感がした。けれど、別の人物であることに僅かな期待をかけて、質問を返す。


「悠斗、って…星川のこと?」


そう聞くと、こいつは首を縦に動かした。


そういえば、こいつもサッカー部だったっけ、と思いながらも、周囲の反応を確認する。



いつの間にか、別の友だちと話していた椎奈は、驚いた顔をしていた。


他のクラスメイトも、少しだけ意外そうな顔をしている人もいる。



そりゃ、あれだけ椎奈の恋バナを聞いていた私が星川を好きだとは思わないよね。



自分ひとりで納得しながらも、全然外れ、と神田に返しておく。



少しだけ驚いた顔をしながらも、そうか、と返してくる。


その返事を聞いた後、教室中に聞こえるように意識して声を出す。



「ごめん、ちょっとひとりになりたいから空き教室行ってくる。」


今は少しでも、神田から、そしてこの視線から離れたかった。