灯之村発熱事件 記録集

【資料5-C】インタビュー記録────

 対象者:佐藤健一(民俗学者・東京大学教授)
 収録日:2025年10月15日
 場所:東京大学研究室

 ──「厄渡し」という概念について教えてください。

 佐藤:「厄渡し」あるいは「厄移し」は、日本各地の民間信仰に見られる概念です。自分の災いや病気を、他者や物に移すことで厄を払うという考えですね。

 ──具体的にはどのような形で行われるのですか。

 佐藤:例えば、人形(ひとがた)に息を吹きかけて川に流す「流し雛」、身代わりの藁人形を作る風習、あるいは病人の枕元に置いた瓜を捨てる習慣などがあります。いずれも、災いを「別の何か」に移すという発想です。

 ──灯之村の挨拶について、どうお考えですか。

 佐藤:映像を見ましたが、確かに「何かを渡す」ジェスチャーに見えますね。両手を差し出し、掌を上に向ける。これは「与える」「託す」の身体表現です。

 ──あれが厄渡しの一種である可能性は? 

 佐藤:民俗学的には、その可能性は否定できません。ただし、それが実際に病気を引き起こすなどということは、科学的にはあり得ません。プラセボ効果の逆、いわゆるノセボ効果の可能性はありますが……。

 ──実は先生も灯之村を訪問されたと伺いました。

 佐藤:(表情が曇る)……ええ。学術調査として、先月訪れました。

 ──体調に変化はありましたか。

 佐藤:……帰京後、一週間ほど発熱しました。三十八度前後の熱が続いて、病院では原因不明と言われました。

 ──偶然だとお考えですか。

 佐藤:……科学者としては、そう答えるべきでしょう。しかし正直なところ、よくわかりません。私が訪問した際も、村人たちは全員があの挨拶をしてきました。何度も、何度も。まるで……。

 ──まるで? 

 佐藤:いえ、何でもありません。これ以上は憶測になります。