タイトル:
『ゆめこちゃんと遊んだ日』
投稿者:
みこと
投稿日:
2026/01/17
怪談と言っていいのか定かではないのですが、ちょっと不気味だったのでお話させてください。
もしこの件についてもう少し詳しく知っている人がいたら教えて欲しいです。
私のブログをいつも読んでくださってる皆さんはご存知かと思いますが、私は現在十七歳の女子高校生です。
私の家は東京にあって、生まれた時から東京育ちではあるのですが、お父さんとお母さんの実家は結構な田舎だったりします。特に、お父さんの家はめっちゃくちゃ大きくて、現在お祖父ちゃんとお祖母ちゃん、それからお父さんの兄である伯父さんと奥さん、その娘たちが一緒に暮らしています。
田舎の家あるあるですが、お父さんが大学を機に東京に出るとなった時、お祖父ちゃんたちは結構しょっぱい顔をしたそうです。幸いお父さんは次男だったこと、伯父さんがその家に残ってくれることになった結果、上京を許してもらったそうですが。
お祖父ちゃんもお祖母ちゃんも、孫の私達には結構優しいです。ただ、昔から結構厳格な家であるらしく、祖父母の家に行くたびお母さんのみならずお父さんまでもがめちゃくちゃ緊張していたのを覚えています。
お祖父ちゃんお祖母ちゃんの家は、その村でも一番大きな――それこそ昔の武家屋敷みたいな、立派な日本家屋です。広すぎて、探検しようとしたら迷子になるなんてこともザラでした。お祖父ちゃんいわく、私達の家――とりあえずO家としておきます――は村でもとても重要な役目を担っていて、そのお役目を果たすためにどんどん家を大きくしていったそうです。
増改築を繰り返したからなのか、お屋敷も凄く古い部分と新しい部分があったり、変な構造をしているなんて箇所も珍しくありませんでした。
普段はとても優しい祖父母ですが、これだけは幼い頃から口が酸っぱくなるほど言われていたのです。
『ええか、みこと。他のみんなもや。絶対に、絶対に、絶対に……お屋敷の、入っちゃいけんと言われたところには、絶対に入ったらあかんで』
お屋敷には、子供が入ってはいけないエリアがたくさんありました。
例えば、四階。
例えば、地下室。
一階から三階の範囲でも、時々注連縄が張ってある廊下のようなものがあって、あとドアも縄をかけてあるような妙なドアがありまして。そこは、絶対に近付いてはいけないと怖い顔で言われていたものです。
何故入ってはいけないのか?私が尋ねると、お祖父ちゃんは「それも言ってはいけない決まりやから」と教えてくれませんでした。子供心に不思議に思ったものです。ただ、いつも孫たちにはちっとも怒らないお祖父ちゃんが、私と従妹がこっそり縄の廊下に入ろうとしたところを見つけて怒鳴ってきたことがあり、恐怖心から近づかないようにしていたのでした。
さて、そんな私も十七歳になりまして。
今年のお正月、いつものようにお祖父ちゃんとお祖母ちゃんの家に行き、ご挨拶をすることになりました。
村は電車を乗り継いだ上、駅からも遠いのでバスにも乗らないといけません。しかもそのバス、一日に二本しか来ないんです。滅茶苦茶不便でしたがなんとか辿り着き、いつものように仲良く楽しいお正月を迎えたのでした。
私達は一月三日に家に帰ったのですが――その一日の夜のことです。私はお祖父ちゃんに呼ばれて、こんな頼み事をされました。
「みこと。お前に頼みたいことがあんねん。ちょっとついてきてくれるか」
掃除とか料理とか洗濯とか、そういうお手伝いかなと思っていました。しかし、お祖父ちゃんは何故かキッチンからも洗面所からも離れて階段を上っていきます。三階まで来た時、お祖父ちゃんは四階へ続く階段にかけられていた注連縄を潜っていきました。私は驚きます。
「お祖父ちゃん、四階には入っちゃダメだったんじゃないの?昔から言ってたじゃん」
「せやな。でも、事情が変わったんや。みことにも手伝ってもらわなあかん。ついてき。見せたる」
階段も廊下も木製な上老朽化していて、踏み込むたびにぎしぎしと音を立てます。私としてはいつか壊れてしまいそうで、そういう怖さが勝っていました。しかし同じだけ、今まで入ってはいけないと言われていた場所に入れる喜びも感じていたのです。やっぱり、子供の頃からずっと興味は尽きなかったものですから。
角度の急な階段を上ると、三階までと変わらない廊下が出現しました。ですが、昼間なのになんだか妙に暗いのです。理由はすぐにわかりました。廊下の右手側は窓になっているのですが――その窓が全部、板を打ち付けて塞がれているのです。隙間から光差し込んできているとはいえ、それでも昼とは思えないような暗さであるのは間違いありませんでした。
「お祖父ちゃん、なんで窓に板なんて打ち付けてあるの?」
「決まっとる。外から見えんようにするためや」
「見えんようにするって、何を?」
「…………」
お祖父ちゃんは、相変わらず詳しいことを何も教えてくれません。やがて私は、一つの部屋の前に連れてこられました。木製のドアは、南京錠で外から鍵がかかっていて、さらに注連縄がかけられています。明らかに普通の部屋ではありませんでした。
「このドアの向こうに、ゆめこちゃんがおる」
「誰?ゆめこちゃんって」
「ゆめこちゃんは、ゆめこちゃんや。……みこと、お前に仕事を与える。今から儂が迎えにくるまで、ここでゆめこちゃんのお話相手をするんや。儂がいなくなったらドアをノックしてこう言え。『ゆめこちゃんとお話するために来ましたみことです』ってな」
ちなみに言うまでもなくおわかりかと思いますが、このブログに書いている『みこと』というのは本名ではありません。本来はここに私のフルネームが入ります。
「そしたら、ゆめこちゃんが答えてくれて、お喋りをしてくれる。みことは、とにかくゆめこちゃんといっぱいお話して、遊んだればええ。とにかく、ゆめこちゃんの機嫌を損ねんようにせなあかん。それと、ゆめこちゃんに頼まれても、ドアだけは絶対開けたらあかん。これは、ご機嫌を損ねてもやったらあかん。でもって、ゆめこちゃんの要望は、出来る限り聞くようにせなあかんで」
お祖父ちゃんは、なんだか焦っているようでした。私はお祖父ちゃんの顔とドアを交互に見比べます。明らかに、ドアの向こうにいるのは普通の存在ではありません。いや、人間だったら、それもそれで問題です。明らかに監禁されているわけですからね。
私はわけがわからなくて、お祖父ちゃんに説明を求めました。ところが、お祖父ちゃんはそれ以上のことは何も教えてくれなかったのです。
ただ、私に繰り返し繰り返し言いました。
「じゃあ、頼んだで。今日と、明日と、明後日まででええ。三日間だけでええんや、とにかくゆめこちゃんを楽しませたってな。ほんまに頼むな。頼むで」
わけがわかりませんでした。しかし、お祖父ちゃんは有無を言わさぬ様子で近くの部屋から椅子を持ってくると、ドアの前に置いたのです。此処に座ってお喋りをしろと言いたかったようです。
「あとで必ず迎えに来るから、それまでな。頼むでみこと」
「ちょっと、お祖父ちゃん!」
はっきり言って、逆らえる空気ではありません。お祖父ちゃんはそれだけ言うと、逃げるように階下に行ってしまいました。



