優等生の僕が、問題児に「つまみ食い」されるまで

「だけど、のぞむんと一緒なら無敵」
「もうっ……恥ずかしいな」
「可愛いな〜」

 部活が終わる声が聞こえてきたから、そそくさと教室へと向かっている。体育倉庫にいたら、鉢合わせしてしまうから。
 気まずいし、言い訳が思い浮かばない。まあこのヘラヘラ男なら、即座に対応できそうだけど。

 顔を見ていると、優しく微笑んできた。寒いからと言って、腕に抱きついてきた。
 可愛いって思う僕も、大概だよね。無敵って、それは僕のセリフだよね。

 恥ずかしいから、絶対に言わないけど。それに可愛いのは、朔弥くんの方だよ。

「痴話喧嘩は、二人の時にしてくれ」
「ち……そんなんじゃ」
「ラブラブな証拠だよね〜」
「お前はどうして! そんなにお気楽なんだ!」

 教室に入ると、朔弥くんの友達が待っていた。心配してくれていたようで、立ち上がって声をかけてきた。
 僕たちの様子を見て、一安心したようだった。痴話喧嘩と言っていて、揶揄ってきた。

 まあ、めんどくさそうにしていた。名前は覚えていないけど、確か隣のクラスだよね。
 僕は狼狽えてしまったけど、朔弥くんはいつも通りだった。ニヤニヤして、締まりのない顔をしている。

 それすらもイケメンなのは、惚れているからかも。まあ口に出すことは、絶対にしないけど。

「え〜俺は、世界中にのぞむんの良さを言ってもいいぐらいで〜あっ、でも。のぞむんの良さが分かると、他の人に言い寄られるか。それだけは、絶対に何があっても阻止しないとな」
「……恥ずかしい奴」
「ありがと〜のぞむん、かわいっ」
「アホくさ」

 朔弥くんは、ニコニコ笑っている。だけど目が座っていて、少し怖かった。
 まあ、カッコいいんだけど。それに嬉しそうにしているから、僕までも嬉しい。

 好きって、本当にめんどくさい。だけどそれ以上に、心地のいいものだよね。
 僕だって、朔弥くんの良さを知ってほしい。だけど僕以外に知られると、困ってしまう。

 同じ気持ちのため、否定しないでおこう。友達さんはため息をつきながら、後頭部を掻いて帰って行った。

「あっ、のぞむん。来月のシフトの件なんだけど」
「そろそろ、出さないとね」
「クリスマスイブは、俺の誕生日。もしかして、付き合って直ぐの恋人の誕生日。祝わないってことはないよな」
「説明くさいな。祝って欲しいの? 祝って欲しくないの?」
「祝って欲しいです」
「最初から、素直に言ってよ。仕方ないから、祝ってあげる」
「やった〜」

 いつものように、手を繋いで帰っていた。そこで来月のシフトと言っていて、そんな時期だったなと思い出した。
 いつ頃からか、当たり前のように合わせるようにした。まあその方が、間違いないし。

 同じクラスだから、そういうこともあるだろう。誕生日とやたらと強調していて、祝って欲しいみたいだ。

 素直に最初から言えば、いいのにね。言われなくても、当たり前にデートするに決まっているのに。
 僕の言葉に、少年のような眼差しを向けてきた。まあ可愛いから、いいんだけどね。

「ところで、家族のことと僕は関係あるのか」
「さあ?」
「さあ……って」
「だって、聞きたいって言うから。それに〜のぞむんは、俺の全てを知りたいらしいしっ! 脱ぐから見てよ! ありのままのすが」
「こんな時間だ。早く帰らないと」
「無視しないで! ふざけないから!」
「ぷっ、必死だな。ほら、帰るよ」
「は〜いっ」

 そこで気になったことを、聞いてみることにした。別に無理に話さなくてもいいが、因果関係を知りたい。
 だけど別に深い理由もないのか、脱ごうとしている。この人、どこまでお気楽なんだ。

 無視して帰ろうとすると、後ろから着いてきた。なんか、アヒルの子みたいで可愛い。
 ふざけているけど、きっと話を聞いて欲しかったんだよね。その対象が、他の誰でもない僕だったんだよね。

 そんなの嬉しくないはずがないから、大好きになるよね。この一時間ぐらいで、好きの度合いが増したような気がする。

 ――――まあ、絶対に言わないけどね。

「はあ……何を着て行こうか」

 イブの数日前の休日。朔弥くんに出かけようと言われていたが、用事があると言って断っていた。
 悲しそうな顔をしていたため、罪悪感があった。しかしこれも朔弥くんのためだと割り切った。

 胸は痛かったけど、仕方ないよね。僕だって、一緒にいたいけど我慢しているんだから。
 それはさておき、何を着ていくべきか。悩んでしまうのは、好きだから。

 付き合う前は、気にせずに私服で行っていた。だけど今は、付き合っている。
 本気で好きだし、相手も本気だ。生まれて初めて、服装に気を遣うことになった。

 玄関にある姿見で、服を見てみる。しかしなんか、しっくりとこない。

「はあ……デートって、大変だ」

 そこで、服のレパートリーがないことに気がついた。今までは、別に気にする必要もなかった。
 お母さんが、買ってきたものを着ていた。僕の物欲は、アニメ系統にしかないからね。

 そこで雑誌でも見て、研究しようかと思った。服を全部買うことはできなくても、なんとかできるかもだし。
 コンビニに向かい、雑誌を見てみる。しかし全く
もって、おしゃれな服を見ても参考にならない。

 だって、モデルの人は身長が高いから。僕じゃ、馬子にも衣装になってしまう。

「のぞ〜むんっ! なあに、しているの〜」
「朔弥くん。えっと」
「行こうか」
「えっ、ちょっと」

 後ろから抱きしめられて、直ぐに朔弥くんだって分かった。彼特有の、香水の香りがしたから。
 じゃなくても、絶対に分かっただろう。この温もりと、声で直ぐにね。

 戸惑っていると、腕を掴まれた。歩いて行こうとするため、急いで雑誌を戻した。
 もうっ、何をそんなに慌てているのだろうか。まあ、嘘をついたことは謝るけど。
 あれ、待って? 用事には違いないから、嘘ではないよね。

「おーい、俺らは」
「悪いけど、のぞむんに用があるんだよな」
「いつもそうだな」
「行こうぜ〜」
「いいのか」
「ああ、のぞむん以上に優先するものはないから」

 一緒に来ていた友人数名は、気にしない様子だった。どれだけ、当たり前の認識をされているんだよ。
 まあ、嫌じゃないからいいんだけど。僕以上に優先することは、ないらしい。

 キラキラな笑顔を見て、アニメとかなら星のエフェクトが飛ぶなと思った。そう思ったら、吹き出してしまった。
 頬を触られて、暖かかった。やっぱり、最高にイケメンだよね。

「何処行くんだ」