優等生の僕が、問題児に「つまみ食い」されるまで

 委員長って、雑用係みたいな感じだし。勉強だって、そこそこできていればいい。
 平均点を取れていれば、それでいいんだ。目立たないように、ひっそりと生きていたかった。

 母さんが厳しいのもあるけど、別に後悔はしていないつもりだった。だけど、なんか泣きたくなってきた。
 同じクラスじゃなくて、バイト先も同じじゃなければ話すことなかっただろう。

「お前って、元カノと連絡って取ってるか?」
「なんで」
「気になってさ」
「別に〜興味ねーし」
「冷たっ」
「だって、恋愛に興味なかったし」
「ぷっ……ひで〜男だなっ」

 彼女がいたらしく、じゃあ僕は? そこらへんのことは詳しくないから、分からない。だけど、何を信じればいいのか分からない。
 恋愛に興味ないって、何それ。僕にあんな風にアプローチしてきて、それってあんまりじゃない。

 僕だって、恋愛に興味はなかった。だけど朔弥くんだから、好きになったんだ。
 その後の会話も聞こえてきたが、断片的にしか聞こえない。聞きたくなくて、意図的にシャットアウトした。

 別に元カノぐらいいても、当然だろう。このイケメンだし、優しいから。
 だけど僕に対する優しさを、他の人にも向けていた。それを想像しただけで、体が鉛のように重たくなった。

 立ち去ればいいのに、足が動かない。呼吸が乱れて、何も考えたくない。

「のぞむん、遅いな〜あっ、いつの間に来てい」
「触るなっ!」
「どうした? 泣いてんのか! 何かあっ」
「ごめっ……」
「あっ! のぞむんっ!」

 朔弥くんの声が聞こえてきて、ドアが開いた。僕のことを見て、驚いている様子だ。
 だけど直ぐにいつもの笑顔に戻って、頬を触ってこようとした。だけど咄嗟に、手を払い除けてしまった。

 好きだけど、苦しい。拒絶してしまったのに、優しい笑みを浮かべている。
 僕の涙に気がついて、心配してくれた。手を見ると、赤くなっていた。

 何も考えたくないため、踵を返して走った。名前を呼んでいる声が聞こえるけど、聞きたくない。

「うっ……ぐっ……もっ……ぼ……のば……かっ」

 体育倉庫が空いていたため、そこに入った。マットの上に体育座りをして、泣いていた。
 涙が溢れてきて、止まってくれない。鼻水も出ていて、何度も何度も啜った。

 僕は嫌な奴だったに、違いない。今も昔も、自分のことしか考えていない。
 あいつみたいに、必死じゃなかった。あいつが好きだって言ってくれたから、好きになった。

 この気持ちに嘘はないし、一時の気の迷いでもない。間違いなく、僕は朔弥くんが好き。
 だけど、拒絶してしまった。僕のことを大事にしてくれるのに、傷つけてしまった。

 今度こそ、嫌われたに違いない。どうしよう、僕って最低な人間だ。

「のぞむんっ! はあ……はあ……ふう……やっと、見つけた」
「……さ……くや……くっ」
「待って、逃げないで。逃げたら、別れるよ。いいの」
「ダ……メ……うっ」
「あっ、ごめんっ。絶対に別れたりしないよ。のぞむんが嫌いになったとしても、絶対に離さないよ。ほら、俺ヤンデレだしっ」

 扉が開いて、朔弥くんが入ってきた。肩で息をしていて、制服の上着を持っていた。
 逃げようとすると、抱きしめられた。香水と汗の香りがして、泣きたくなった。

 優しい温もりを感じて、安心したからだ。逃げたら別れると言われて、僕は一気に悲しくなった。
 僕が拒絶したんだから、仕方ないのかもしれない。だけど、そんなのは絶対に嫌だ。

 否定すると、絶対に離さないと言われた。耳元だったから、恥ずかしくなった。
 だけど今は、僕の方が離したくない。だって初めての恋で、最後にしたいから。

「えっと、落ち着いたか」
「ご……迷惑を」
「迷惑じゃないよ。他でもない、のぞむんのためだし」

 優しく抱きしめてくれて、背中を摩ってくれた。いつだって、僕のことを大事にしてくれる。
 今は僕を後ろから抱きしめて、離さないようにしている。背中から伝わる温もりは、優しくて心地よかった。

 こんなにもハイスペックな彼氏は、この人以外には存在しない。恥ずかしいから、口には出さないでおくけど。
 これがダメなのかもだけど、恥ずかしいから。今の僕には、そんな歯の浮くようなセリフを口にはできない。

 僕のためだと優しい笑顔で、伝えてくれた。いつだって、真っ直ぐに見つめてくれる。
 僕って思っているよりも、ずっと朔弥くんのことが好きなんだろうな。胸に擦り寄って、ギュッと制服を掴んだ。

 おでこにキスをされて、顔から火が出そうになった。それでもこの熱を、絶対に手放したくない。

「で? 何があったんだ」
「そのさっきの会話、聞いてしまって」
「あー、どこまで」
「僕のこと嫌いだって」
「だった、な! 過去形! 今は愛だから! ラブ! アイニージューだっ!」
「I need youだよ。正しくは……ぷっ、分かってるよ」
「やっと、笑った。のぞむんは、笑った方がいい。世界で一番、可愛い」

 僕はさっきの会話が聞こえたと言うと、狼狽えていた。そしてあわあわしながら、発音の悪い英語を言っている。
 これは、英語を強制しないとな。中学の時に使った英語のリスニングのDVDを、聴かせよう。

 それはいいとして、慌てすぎて可愛いな。思わず笑うと、嬉しそうにしていた。
 ほんと、僕には勿体無いぐらいの彼氏だよ。聞きたくないけど、しっかりと話した方がいいな。

「教えてほしい。僕のこと、どう思っていたのか」
「あー、別にいいだろ」
「よくない。それに、朔弥くんってたまに壁を作るよね」
「そんなつもりは、ないんだけどな」
「全部じゃなくてもいいから、教えてよ。す……きな人のことは知りたいじゃん」
「のぞむん……分かったよ。引かずに聞いてね」
「話題にもよる」
「手厳しいな〜俺さ……幼少期に親が離婚して、ずっと寂しかったんだよね」

 僕のエゴで、自己満足だ。そんなことは分かっていても、知りたいって思う。
 僕だって、朔弥くんのこと好きだもん。それにこういう時じゃないと、素直になれないし。

 誰にだって、知られたくないことはあるだろう。だから別に、無理に話すことはない。
 だけど、壁を作られるのは嫌だ。他の人なら別にどうでもいいが、朔弥くんだけは別である。

 だけど、思っていた以上に踏み込んではいけないような気がする。だけど今更止められないから、素直に聞くことにした。

「寂しいから、イタズラをした。確かに構ってもらえたけど、返って困らせていた」

「……あっ……えっと」