優等生の僕が、問題児に「つまみ食い」されるまで

「はあ……そぉ……見えているなら……はあ……代われ」
「へーい」

 次の日になり、僕たちはデートに来た。身構えていたけど、ドッグランで遊ぼうという意味だった。
 それなら、そうと言って欲しいよ。ゴンザレスと一緒に、指定された公園へとやってきた。

 広い公園を見た瞬間に、一気に走り出した。正直、完全に引っ張られてしまった。
 もう既に、朔弥くんも来ていたようだ。長袖のTシャツと、穴あきの黒いスキニーを穿いている。

 動きやすいように、スニーカのようだ。たったそれだけなのに、芸能人かよっていうオーラがあった。
 今日もキラキラしていて、眩しいぐらいだ。天気も良くて、十月になるというのに暑い。

 その気温を上げているのは、この男なのかも。キャップを被っており、サングラスもしている。
 僕を見て、ニヤニヤしている。ツッコみたいが、その気力はない。

 それでも無理にでも、悪態をついた。すると優しく微笑み、リードを掴んだ。

「ゴンザレス、言うこと聞いてよ」
「ガルル」
「なんで〜俺のこと嫌いなのか」
「もしかして、香水じゃないか」
「香水?」
「犬って、嫌いな匂いがしていると警戒するんだよ」

 ゴンザレスは、朔弥くんのことが嫌いなようだ。言うことを聞かないし、威嚇して吠えている。
 だけど本当に嫌いなら、リードを掴ませないはずなんだが。朔弥くんは慣れていないのか、涙目になっている。

 人懐っこいし、前はもっと普通にしていたよな。若干、苦手そうにしていたが。
 そこで、朔弥くんから香水の香りがしてきた。もしかして、そのせいじゃないのか。

 詳しくは知らないが、犬は香水とかの香りが嫌いらしい。全部でないと思うが、可能性はある。
 犬の嗅覚は、人間とは比べ物にならないらしいし。そのことを言うと、朔弥くんは脱兎の如く駆けて行った。

「洗ってきた」
「どう? ゴンザレス」
「ワウ〜ン」
「撫でていいそうだよ」
「ふさふさしてる」

 手を洗ってきたらしく、びしょびしょだった。まあ子供じゃないから、勝手に自分でやるだろう。
 そこで、指輪とかをしていない事に気がついた。いつもは、邪魔だなと思うぐらいにつけている。

 そういえば初めての時を除いて、うちに来るときは外している。何か意味でもあるのか?
 僕はしゃがんで、ゴンザレスに聞いてみる。すると朔弥くんの近くに行って、一周した。

 尻尾を高く上げて、左右にぶんぶんと大きく振っている。嬉しそうにしていて、懐いたみたい。
 なるほど、やっぱり香水だったのか。朔弥くんは嬉しそうに、抱きついてもふもふしている。
 幸せな気持ちになるし、いいことずくめだよね。僕ももふもふすると、お日様のいい香りがした。

「まあ、一応認めてやるっ! みたいな感じかな」
「飼い主に似て、上からなんだな」
「何か、言った?」
「なんでもありません」

 朔弥くんと、ゴンザレスが仲良くなった。それはいいけど、なんか釈然としない感覚に陥った。
 何だろ、胸の奥がムカムカしてきた。そのため、少しだけイジワルを言う事にした。

 我ながら、大人気(おとなげ)ない。だけど朔弥くんは、笑顔で返してくれた。
 すると何故か、ムカムカが消えた。不思議に思ったけど、自然と笑顔になった。
 まあ、余計な一言を言っていた。そのため少しだけ釘を刺すと、目を逸らしていた。

「この梅のおにぎり、美味いな」
「僕が握ったからね」
「愛情たっぷりだな」
「うん、込めたよ」
「マジで込めたのか」
「嫌だったのか」
「むしろ、嬉しい。涙が出るほどに」
「大袈裟だな」

 ゴンザレスは、ドッグランを走り回っている。マンションの中では、窮屈だもんな。
 そこで僕たちは、弁当を食べることにした。幼稚園の時に、使っていたレジャーシートを持ってきた。

 当時のアニメのもので、懐かしいな。あの時は、何も考えずに行動していたっけ。
 母さんに教わって、今日は僕も手伝った。少し歪だけど、それなりになっただろ。

 ラップに包んで、力を込めればいいからな。僕の非力のおかげで、程よくなったらしい。
 梅が好きみたいなので、蜂蜜梅を入れてみた。卵焼きと唐揚げも入れたから、満足みたいだ。

 好評のようで、自然と笑顔になった。それにしても凄い食欲で、僕の分まで食べている。
 まあ、お腹空いていないからいいけどさ。本当に美味しそうに食べていて、見ていて清々しい気持ちになった。

「なあ……のぞむん」
「なんだ、もうないぞ」
「そうじゃなくてさ……俺に好きって言われて、迷惑か」
「なんで」
「友達に聞いたら、あまりシツコいと嫌われるって」

 弁当を平らげると、急に元気がなくなった。変な奴だなと思っていると、神妙な面持ちになった。
 足りないようで、僕のことを見てきた。ないと告げると、違ったようだ。
 僕が好きだと言われて、迷惑じゃないのかと聞かれた。確かに、そんなこと考えても見なかったな。

「なんだ、そんなこと気にしていたのか」
「なんだ……じゃない」
「えっと……誰かに好きって言われたのは、初めてだったから……嫌じゃない」
「……期待していいのか」
「か……勝手にしろっ」

 真剣そのものだったため、恥ずかしくなってきた。思わず口走ってしまうと、少し落ち込んでいた。
 別にバカにしたわけじゃなくて、意外だったんだ。当たり前のように、人のこと可愛いとか。

 好きとか、そう言うことを言えるやつだ。慣れていて、僕もそのうちの一人だって思っていた。
 まただ、こいつに好きって言われるのは嬉しい。だけどあまりにも自然過ぎて、考えてしまう。

 ――――僕以外にも言っているんじゃないか。

 そう思うと、胸の奥が痛くなってしまう。だけどこいつの笑顔を見ると、自然と嬉しくなる。
 そのため、恥ずかしいが思っていることを告げた。顔を見る勇気はないため、下を向いてしまったが。

 弱々しいけど、優しい声が聞こえてきた。思わず顔を見ると、優しい瞳で僕を見つめていた。
 恥ずかしいけど、目を逸らすことができない。まるで、僕たちしかいないような。

 ――――そんな錯覚に陥ってしまった。

「ワウンっ!」
「ゴンザレスっ! あはは、くすぐったいよ〜」
「くっ……う……羨ましいっ」
「クーンっ」
「こいつっ……分かってやってやがる」

 朔弥くんと見つめ合っていると、ゴンザレスが飛び込んできた。僕に抱きついてきて、顔を舐めてきた。