優等生の僕が、問題児に「つまみ食い」されるまで

 そんな動きがあるのも、事実である。そのため、僕はオタクであるとバレると朔弥くんにも迷惑がかかってしまう。
 少しぐらい、勇気を出してもいいんじゃないか。僕は思い切って、嘘をつこうとした。

 たまたま会っただけだと言おうとしたが、言葉を遮られてしまった。それだけでなく、バイトのことまで言おうとした。
 慌てて口元を抑えると、何故か舐められた。変な感触がして、過剰に反応してしまった。

「ふにゃって……ぷっ、かわいっ」
「う! るひゃい!」
「うるひゃい、だって〜可愛いな〜」
「よしっ、辞書よりも固いものは」
「もう揶揄わないから、許して〜」

 周りから、注目を浴びてしまった。恥ずかしいため、直ぐに離れた。
 そして睨んで怒ったが、噛んでしまった。そのせいで、完全に揶揄われしまった。

 本当のことを言うわけにもいかず、更に睨んだ。しかしケラケラ笑って、涙まで流している。
 くそっ、こういう時も無駄にイケメンなんだよな。だけど本気で怒る気になれなかった。

 まあ、それとこれとは別の話だ。僕はリュックを漁り、凶器になりそうなものを探した。
 先端が鋭利なものが、殺傷能力が高いだろう。流石に怖かったのか、大人しくなった。
 周りも僕たちの様子を見て、完全に引いているようだ。おかしいな〜何か、あったのだろうか。

 ――――冗談なのにね、ニヤリ。

「さて、ホームルームを始め……委員長、どうした」
「いえ、別に。先生、このバカ。基い、アホを僕の隣の席にしていいですか」
「桑島か、いいぞ。しかし勉強の妨げにならないか」
「僕なら大丈夫です。このおたんこなすを、教育し直すので」
「そうか、頼んだ」
「どこから、ツッコめば」

 僕がこのアホを睨んで、アホは顔を真っ青にしている。周りもお通夜ムードになっていて、静まり返っていた。
 隣のクラスが煩いため、余計に際立っていた。そこに担任がやってきて、この空気に違和感を覚えたらしい。

 いつの間にか、揶揄ってきた奴らは自分の席に座っていた。僕と目が合ったが、静かに逸らしていた。
 はて、何かあったのだろうか。僕が怒っただけで、このクラスは大袈裟すぎるよ。

 さて気を取り直して、先生にお願いすることにしよう。そんなに僕の隣がいいなら、みっちり扱いてやる。
 次のテストでは、絶対に高得点を取らせよう。問答無用で、スパルタ教育を施そう。

 名前を言わなくても、伝わったらしい。このアホのバカのおたんこなすは、何かを言いたそうにしていた。
 しかし僕が睨むと、静かに目を逸らした。すっとこどっこいも、追加しよう。

「のぞむん、今日の弁当は」
「ハンバーグとおにぎりと、卵焼きと玉ねぎのケチャップ炒めだ」
「うげっ……玉ねぎは嫌だ」
「ケチャップと醤油を使っている。子供に人気が高いが、お前は子供以下なのか」
「……う〜ん。のぞむんが食べさせてくれたら、食べる」
「そうか、ほらあ〜ん。いらないのか」
「た……べます。美味っ」

 数週間が経過しても、好奇の目は消えない。学校ではいつも通りが良かったが、朔弥くんが嬉しそうなため何も言えない。
 嫌なことがあっても、こいつがいれば楽しいな。変わったことといえば、こいつに弁当を作るのが習慣になった。

 コンビニ弁当やおにぎりしか食べないようで、栄養が偏るからな。母さんに話したら、一緒に作ってくれるようになった。
 バイト先で食べられるが、それだけじゃ育ち盛りはダメらしい。玉ねぎが苦手らしく、克服させることにした。

 どうしても食べたくないらしく、嫌そうにしている。すると何かを閃いたのか、食べさせてと言ってきた。
 それで食べるのなら、普通に食べられるだろう。この行動に何の意味があるのか、僕には分からない。

 だけど、食べるのなら別にいいぞ。口に運ぶと顔を真っ赤にして、大人しく食べている。
 なんか、餌付けしているみたいで可愛い。何故かクラスの人から、引かれているが関係ないだろう。

「のぞむん先生〜休憩を」
「お前が望んだんだ。僕の隣の席がいいんだろう」
「違う! 俺が望んでいた学校生活は! もっと、楽しいもので」
「楽しく過ごしたいのなら、まずは勉強。将来遊びたいなら、今努力」
「うぐっ……ド正論を」

 昼休み、弁当を食べると勉強が始まる。バイトがある日は、勉強ができない。
 ただでさえ、こいつは遅れている。しかししっかりと、効率よくやればいいんだ。

 こいつはやる気はなかったが、渋々でもやっている。その成果はまだ見えないかもしれないが、後で感謝するだろう。
 僕という偉大な人間に、ひれ伏す時が来るだろう。僕っていつから、こんなに偉そうになったのだろうか。

 未だに、自分の気持ちが分からない。無理をさせている部分もあるだろうし、我慢させてしまっている。
 それは分かっているが、離れてほしくない。自分勝手かもだけど、ちゃんと向き合いたい。

「のぞむん、明日デートしよ」
「デ……デートって」
「あのさ、忘れてないよね? 俺が好きだって、言ったこと」
「も……ちろん……だけど僕、まだ分からな……いから……中途半端は」
「何で? 少なくとも、意識はしているんでしょ。だったら、アタックするに決まってるだろ」
「か……勝手にしろ」
「分かった。勝手にする」

 バイトが終わり、更衣室で二人になった。学校の制服を着ようとすると、後ろから壁ドンをされた。
 正確に言うと、ロッカードンだ。上半身は裸で、急激に恥ずかしくなった。

 僕は制服を抱いて、動けなかった。後ろを向くと、真面目な顔になっていた。
 朔弥くんは、ワイシャツを着てはいる。しかしボタンを閉めていないため、肉体美が露わになっている。

 大胸筋は、厚くて男らしい。腹直筋だっけか、お腹の正面の筋肉だったよな。
 薄っすらと割れていて、かなりエロいんですが。今まで体育の時に見ても、すごいなとしか思っていなかった。

 しかし今は、直視できない。憧れはあったが、エロいなんて僕はどうしたのだろうか。
 首元にあるホクロが、いい味を醸し出している。いかん、今の僕はかなりの変態みたいだ。

 真面目な顔をしたり、優しく微笑んだりしている。やっぱり直視できないため、勝手にするように言った。

「ゴンザレス! そんなに走ったら……はあ……はあ」
「ワウンっ!」
「よっ、散歩させているのか? むしろ、引っ張られてるのか」