優等生の僕が、問題児に「つまみ食い」されるまで

「望〜待ってたよ〜」
「お……はよう」
「おっは! よう!」

 今日から、新学期だ。いつもなら、特に可もなく不可もないが、今日は違った。
 昨日、朔弥くんに告白されてしまった。花火を見て、当たり前のように送ってもらった。

 もっと一緒にいたかったけど、それを言うのは違う。流石の僕でも、それは今言ってはいけない。
 それが分かって、少しだけ寂しかった。バスに乗っている間も、ため息しか出なかった。

 学校近くのバス停で降りると、そこには朔弥くんがいた。昨日の今日で、何を話せばいいのか分からない。
 そんな僕とは違って、いつも通りのようだ。顔を見ることができずに、俯いてしまった。

「さっ、遅刻する。行こう」
「えっ、あっ……ん」

 他の生徒たちは、学校へと向かった。バスも行ってしまって、僕たちだけになった。
 変な空気になったが、朔弥くんは手を繋いできた。遅刻すると言われて、素直に着いて行った。

 小走りだったけど、僕が辛くないスピードだった。こういう気遣いをサラッとできるのは、イケメンの証拠だよな。
 だけど、小慣れているよな。今まで、彼女ぐらいいただろうな。
 待てよ、男の僕が好きだからな。もしかして、ゲイなのだろうか。

 もしそうなら、余計なことは聞かない方がいいな。それに昔の恋人とか、そんなの知りたくない。
 まさか、僕がこんなことを思う日が来るなんてな。世も末って、やつなのかな。

「なあ、見られていないか」
「見られているな」
「えっと、手を離してほしいんだが」
「なんで?」
「流石の僕でも、迷子にはならないぞ」
「…………………………はあ」

 教室へと向かっていると、道中色んな人から見られた。その理由は、一つしかない。

 ――――こいつと、手を繋いでいるからだ。

 恥ずかしいため、離そうと試みた。しかしこいつは、一向に離す気配がない。
 むしろ、ガッツリと繋がれた。俗に言う、恋人繋ぎというやつだ。

 何を思っているのか、皆目検討がつかない。離して欲しいと言っても、聞く耳を持たない。
 もしかして、僕が迷子にでもなると思っているのだろうか。流石に、失礼すぎるんじゃないだろうか。
 そのことを指摘すると、海よりも深いため息をつかれた。変な奴だが、面白いな。

「望〜、座ろっ」
「朔弥くんの席は、ここじゃないだろ」

 教室に入ると、ざわついていたけど静かになった。そして直ぐに、ざわつき始めた。
 朔弥くんは、僕の席の椅子を引いてくれた。なんか、召使いみたいになっているな。

 まあ、悪い気はしないためいいだろう。黙って座って、机の中に教科書などを入れた。
 すると何故か、隣に座ってきた。こいつの席は、一番前だろう。

 先生が一番、監視できる席だ。まあ、実は僕が裏で先生に告げておいたんだが。
 そのことは、黙っておくことにしよう。夏休み前なら、嫌われて終わっただろう。
 しかし今は、なんとなく知られたくない。嫌われたくないって、考えてしまう。

「今日から、変わるから。いいだろ?」
「あっ? 別にいいぞ、俺は」
「甘やかすと、ダメだ」
「いいじゃん」
「さて、読書でもするか」
「無視されたけど、気にしな〜い」

 僕の隣の席の奴に、当たり前のように頼んでいた。そいつも気にしないようで、あっさりと退いた。
 こいつの席に座って、スマホをイジっている。このクラスには、マイペースなやつしかいないようだ。

 甘やかすなと告げるが、こいつは意にも介していない。それどころか、ニヤニヤしながら席に座っている。
 そのため、無視して読書をすることにした。僕には、ラノベを読むっていう使命があるんだ。

「のぞむん、構ってよ〜」
「構って欲しいなら、その呼び方止めろ」
「冷たいのぞむん。略して、つの」
「そうか、殴られたいのか。お前って、ドのつくMだったんだな」
「しゅみません〜黙るから、辞書はやめて」

 ラノベを奪って、勝手にページを動かしている。別に、読み始めだからいいが。
 構って欲しいとは、可愛い奴だな。そう思っていると、可愛くない発言をした。

 前言撤回して、殴ることにしよう。僕はリュックから、辞書を取り出した。
 それを構えて、メガネをクイっと上に上げた。静かに戻してきて、塩らしくなった。

 静かにすると言ったため、その言葉を信じることにした。眉毛を八の字にして、頬を膨らましている。
 何あれ、可愛いんだが。ゴンザレスが、不貞腐れている時と似ている。

「桑島〜委員長さんを虐めるのやめろよ〜」
「つーか、仲良さそうだな」
「まあな! マブダチ! だからなっ!」
「はあ? そうなのか」

 そこで、朔弥くんといつも連んでいる連中に声をかけられた。明らかに、小馬鹿にしている。
 そうか、この視線はそういう意味だったのか。今まで喧嘩していたとうか、無関心だった僕たち。

 それなのに、仲良さそうにしているのか。それが気になっている好奇の目だと、気がついた。
 何故か、僕は友達ができない。理由を誰も教えてくれないから、自分には魅力がないんだ。

 勉強以外人取り柄がないから、頑張ることにした。まあ、それは建前でアニメやゲームのためだけど。
 朔弥くんは、僕のことをマブダチだと言っている。だけどなんとなく、無理しているのは分かった。

 それ以上に、その発言が嫌だと思えた。僕って、おかしい奴だな。
 好きだって言われても、自分の気持ちが分からない。不安にさせているのに、それを言うこともできない。

 変な期待を持たせて、何もできないんだ。僕はきっと、昔から何も変わっていない。
 臆病で、いつも下を向いている。アニメが好きなのは、主人公はいつだって前を向いている。
 そんな彼らや彼女らを、尊敬しているからだ。僕には、そんなこと出来っこないから。

「たまたま、会っ」
「俺たちは、バ」
「こらっ! 何を言ってんだ!」
「え〜まだ、言ってないのに〜」
「言ってからじゃ、おそ……ふにゃ!」

 そこで、朔弥くんから貰ったキーホルダーが目に止まった。リュックに付けているんだが、嫌なことを思い出した。
 中学の時、オタクだとバレてしまった。別に隠す気はなかったが、引かれてしまった。

 オタクは、恥ずべきことだと思った。まあ世間一般的には、そんなことはない。
 だけど閉鎖された学校のというコミュニティーは、自分と違うものを排除する。