「……カケちゃん……?」
悠貴の声がして、侑は弾かれたように咄嗟に駆から離れた。
悠貴は、スクールバッグの肩紐を固く握っていた。その手が、少し震えていた。
「悠貴、なんでここにいるの」
「カケちゃんが遅いから心配で迎えに……」
駆は深くため息をついた。
「大丈夫だって言ったよね。LINEもした」
「……でも!」
悠貴は隣にいる侑を見て、顔を顰めた。侑に対する敵意を隠そうともしない。
「帰ろう、カケちゃん」
悠貴は駆の手を引いて、強引にベンチから立たせようとした。けれど、駆はその手をそっと、でも強い意志を持って離した。
「まだ帰らない」
駆は静かに言った。
「……だって、退院したばっかだし、ずっと外にいたら体に触るし」
侑の胸が、ズキンと疼いた。以前、悠貴がライバル宣言をして駆に告白すると言っていたけれど、ついさっき、自分の気持ちを駆に伝えて、駆からも気持ちを受け取ったばかりだった。悠貴はそれを知らない。でも、薄々は気づいているはずだ。
「とにかく帰ろ、カケちゃん」
悠貴の声は、震えていた。
「あのさ……悠貴。僕は僕の意思でここにいるんだ。もう干渉しないでよ」
「駆……! そんな言い方!」
侑が言った瞬間、悠貴は侑を睨みつけた。
自分が何を言っても余計に悠貴の心を逆撫でるだけだ。侑はそう悟って、黙るしかなかった。
「でもはっきり言わなきゃ、コイツは……」
「カケちゃん分かってない!」
悠貴は叫んだ。
「何が?」
「……俺は……小さい頃からずっとカケちゃんと一緒だったし……俺が一番カケちゃんのこと分かってるし……一番大切に思ってる!」
「知ってるよ。でも悠貴、僕は」
駆の言葉を遮るように、悠貴は勢いよく侑を指差した。
「カケちゃんが、こんなヤツに取られるのは嫌だ!」
「こんなヤツって言うな!」
いつも穏やかな駆が、声を荒げた。悠貴はその声に驚き、身を震わせた。
「……俺のカケちゃんだったのに……!」
叫んだあと、悠貴の目から涙がポロポロと零れ落ちた。
「……っ……カケちゃ……」
「悠……」
「ずっと、ずっと一緒だったのに……! ずっと一緒だって約束したのに……」
悠貴は子供のように泣きじゃくった。
「それは、すごく小さい頃のことだろ。それに“取られた”って言うけど、僕は悠貴の所有物じゃない。僕が侑を選んだんだ」
駆は、淡々と自分の気持ちを口にする。
「……か、カケちゃんの……隣にいるのは……俺だと思ってたのに……終わった……終わっちゃった……」
まるで世界が終わってしまったかのように、悠貴は泣き続けた。あの傲慢な態度だった悠貴が今、目の前でこんなにも泣いている。駆の隣を勝ち取ったのに、侑の胸がチクリと痛んだ。
「カケちゃん、どんどん大きくなって……高校も別々になって……俺から離れていっちゃうって思ったら淋しくて、悲しくて……やだ……そんなのやだよ……」
「幼馴染なのは変わらない」
駆の言葉に反応して、悠貴の肩がぴくりと動いた。
駆の言葉は、残酷に聞こえる。
「大事な幼馴染だよ、悠貴は。それは一生変わらないから」
でも、駆にとって悠貴が大切な存在だということに変わりはない。
「でも、もう、俺……一番じゃないんだ……」
悠貴は、しゃくり上げた。駆も侑も、かける言葉が見つからない。
駆の指先が、ピクリと動いた。けれど、悠貴の涙を拭ってやるようなことはしなかった。
感情をぶちまけてひとしきり泣いて、いくらか落ち着きを取り戻した悠貴は深く息を吐いた。
「カケちゃんを取られると思ったら惜しくなったのは、俺の方だった」
悠貴は小さく呟いた。
侑に言った『俺が告白しても、成瀬くんはカケちゃんと友達のままでいられるよ』という言葉が、そっくりそのまま自分に返ってきて、胸を抉る。
「バカみたい……」
悠貴は泣いたまま、ふっと笑った。
「ああーっ! ……泣いたらスッキリした……!」
「おい、成瀬!」
悠貴は、突然侑を指差した。
「えっ!? あっ、ハイ……?」
「カケちゃん泣かせたら絶対に許さないからな!」
悠貴は涙を滲ませたまま言った。そして「帰る!」と捨て台詞を残して早足で去って行った。
侑は、悠貴がライバル宣言しにきたときのことを思い出していた。悠貴はいつも突然現れて、侑の心を掻き乱して嵐のように去っていく。
「なんか、ごめんね、悠貴が」
悠貴が去った方を見ながら、駆が言った。
「ううん」
「根は悪くないんだ、あれでも」
「わかるよ。前はちょっとムカついてたけどね」
「え、悠貴なんかした?」
「あ、いや。ほら。初めて俺のバイト先に来たとき、ストローで駆と悠貴が間接キスして……あのときアイツ、俺のこと見てニヤっと笑ったんだ。今思い出してもムカつくけど。でも、牽制するほど駆のことが大事だったんだなって思ったらなんかさ」
「ストロー? あったっけ? そんなこと」
「駆がドリンクバー3種ミックスしたやつ、悠貴に味見させてたじゃん」
侑は、ジトッとした目で駆を見た。
「……あー! あれか! 小さい頃からずっとあんな感じだったから、気にしてなかった……」
ずっとあんな感じという言葉が、侑の胸に引っかかった。侑はきゅっと唇を結んだ。それに気づいた駆は、侑の目を真っ直ぐ見つめた。
「もうしない。するのは侑とだけ」
その言葉を聞いて、侑の顔が真っ赤に染まった。
悠貴の声がして、侑は弾かれたように咄嗟に駆から離れた。
悠貴は、スクールバッグの肩紐を固く握っていた。その手が、少し震えていた。
「悠貴、なんでここにいるの」
「カケちゃんが遅いから心配で迎えに……」
駆は深くため息をついた。
「大丈夫だって言ったよね。LINEもした」
「……でも!」
悠貴は隣にいる侑を見て、顔を顰めた。侑に対する敵意を隠そうともしない。
「帰ろう、カケちゃん」
悠貴は駆の手を引いて、強引にベンチから立たせようとした。けれど、駆はその手をそっと、でも強い意志を持って離した。
「まだ帰らない」
駆は静かに言った。
「……だって、退院したばっかだし、ずっと外にいたら体に触るし」
侑の胸が、ズキンと疼いた。以前、悠貴がライバル宣言をして駆に告白すると言っていたけれど、ついさっき、自分の気持ちを駆に伝えて、駆からも気持ちを受け取ったばかりだった。悠貴はそれを知らない。でも、薄々は気づいているはずだ。
「とにかく帰ろ、カケちゃん」
悠貴の声は、震えていた。
「あのさ……悠貴。僕は僕の意思でここにいるんだ。もう干渉しないでよ」
「駆……! そんな言い方!」
侑が言った瞬間、悠貴は侑を睨みつけた。
自分が何を言っても余計に悠貴の心を逆撫でるだけだ。侑はそう悟って、黙るしかなかった。
「でもはっきり言わなきゃ、コイツは……」
「カケちゃん分かってない!」
悠貴は叫んだ。
「何が?」
「……俺は……小さい頃からずっとカケちゃんと一緒だったし……俺が一番カケちゃんのこと分かってるし……一番大切に思ってる!」
「知ってるよ。でも悠貴、僕は」
駆の言葉を遮るように、悠貴は勢いよく侑を指差した。
「カケちゃんが、こんなヤツに取られるのは嫌だ!」
「こんなヤツって言うな!」
いつも穏やかな駆が、声を荒げた。悠貴はその声に驚き、身を震わせた。
「……俺のカケちゃんだったのに……!」
叫んだあと、悠貴の目から涙がポロポロと零れ落ちた。
「……っ……カケちゃ……」
「悠……」
「ずっと、ずっと一緒だったのに……! ずっと一緒だって約束したのに……」
悠貴は子供のように泣きじゃくった。
「それは、すごく小さい頃のことだろ。それに“取られた”って言うけど、僕は悠貴の所有物じゃない。僕が侑を選んだんだ」
駆は、淡々と自分の気持ちを口にする。
「……か、カケちゃんの……隣にいるのは……俺だと思ってたのに……終わった……終わっちゃった……」
まるで世界が終わってしまったかのように、悠貴は泣き続けた。あの傲慢な態度だった悠貴が今、目の前でこんなにも泣いている。駆の隣を勝ち取ったのに、侑の胸がチクリと痛んだ。
「カケちゃん、どんどん大きくなって……高校も別々になって……俺から離れていっちゃうって思ったら淋しくて、悲しくて……やだ……そんなのやだよ……」
「幼馴染なのは変わらない」
駆の言葉に反応して、悠貴の肩がぴくりと動いた。
駆の言葉は、残酷に聞こえる。
「大事な幼馴染だよ、悠貴は。それは一生変わらないから」
でも、駆にとって悠貴が大切な存在だということに変わりはない。
「でも、もう、俺……一番じゃないんだ……」
悠貴は、しゃくり上げた。駆も侑も、かける言葉が見つからない。
駆の指先が、ピクリと動いた。けれど、悠貴の涙を拭ってやるようなことはしなかった。
感情をぶちまけてひとしきり泣いて、いくらか落ち着きを取り戻した悠貴は深く息を吐いた。
「カケちゃんを取られると思ったら惜しくなったのは、俺の方だった」
悠貴は小さく呟いた。
侑に言った『俺が告白しても、成瀬くんはカケちゃんと友達のままでいられるよ』という言葉が、そっくりそのまま自分に返ってきて、胸を抉る。
「バカみたい……」
悠貴は泣いたまま、ふっと笑った。
「ああーっ! ……泣いたらスッキリした……!」
「おい、成瀬!」
悠貴は、突然侑を指差した。
「えっ!? あっ、ハイ……?」
「カケちゃん泣かせたら絶対に許さないからな!」
悠貴は涙を滲ませたまま言った。そして「帰る!」と捨て台詞を残して早足で去って行った。
侑は、悠貴がライバル宣言しにきたときのことを思い出していた。悠貴はいつも突然現れて、侑の心を掻き乱して嵐のように去っていく。
「なんか、ごめんね、悠貴が」
悠貴が去った方を見ながら、駆が言った。
「ううん」
「根は悪くないんだ、あれでも」
「わかるよ。前はちょっとムカついてたけどね」
「え、悠貴なんかした?」
「あ、いや。ほら。初めて俺のバイト先に来たとき、ストローで駆と悠貴が間接キスして……あのときアイツ、俺のこと見てニヤっと笑ったんだ。今思い出してもムカつくけど。でも、牽制するほど駆のことが大事だったんだなって思ったらなんかさ」
「ストロー? あったっけ? そんなこと」
「駆がドリンクバー3種ミックスしたやつ、悠貴に味見させてたじゃん」
侑は、ジトッとした目で駆を見た。
「……あー! あれか! 小さい頃からずっとあんな感じだったから、気にしてなかった……」
ずっとあんな感じという言葉が、侑の胸に引っかかった。侑はきゅっと唇を結んだ。それに気づいた駆は、侑の目を真っ直ぐ見つめた。
「もうしない。するのは侑とだけ」
その言葉を聞いて、侑の顔が真っ赤に染まった。
