虎倉井ブリーズワールドの思い出を募集しています

 風祭竜也です。

 この度は大変ご心配をおかけしてしまいました。まずはそのことを深くお詫び申し上げます。
 幸いにもこうして、無事に帰ってくることが出来ました。
 あの日、旧虎倉井ブリーズワールドで何が起こったのか、説明していきたいと思います。

 「鬼虎」の姿を撮影するため、旧虎倉井ブリーズワールドに侵入した私は、入り口の鍵が開いていたタイガーフォレスト内で、キトラくんの着ぐるみと遭遇しました。私は恐怖のあまり一度は逃げ出しましたが、行き止まりへと追い詰められてしまった。刺し違えてでも正体を撮影する覚悟で、追いかけてきた着ぐるみへとカメラを向けましたが、そこで思いもよらぬ光景を目の当たりにしました。キトラくんの着ぐるみがスマホのカメラを構え、私を撮影していたのです。

 「ドッキリ大成功!」と大声で叫ぶと、着ぐるみは突然頭を外し、中から金髪の青年が姿を現しました。するとどこに潜んでいたのか、さらに二人の男が姿を現し、「いい画が撮れた」だの「コメントも盛り上がってる」だの言いながら、ケラケラと笑っていました。詳細は後から知ったのですが、金髪の青年はいわゆる迷惑系ユーチューバーというやつで、地下から大量の人骨が見つかった旧虎倉井ブリーズワールドで、キトラくん風の着ぐるみを着て人を驚かすという、悪趣味極まりない企画を生配信を行っていたようです。

 もちろん閉園した遊園地に一般客などいませんから、本来は人を雇ってやらせをする予定だったようですが、企画とは無関係の私が偶然、遊園地内に入ってくるのを見かけたものだから、急遽やらせではなく、見ず知らずの私に対して、本物のドッキリを仕掛けることにしたようです。タイガーフォレストの入り口の鍵が開いていたのも、どうやら彼らの仕業だったようですね。

 今でこそ激しい憤りを感じていますが、その時の私は本当に混乱していて、すぐには状況を理解できませんでした。直後に警察が駆け付け、私も迷惑系ユーチューバーたちも連行されてしまったのだから猶更です。どうやら配信を見ていてた視聴者から、旧虎倉井ブリーズワールドらしき場所に不法侵入し、配信を行っている人がいるという通報があったようです。

 私が迷惑系ユーチューバーの仲間ではないことはすぐに理解してもらえましたが、私も閉鎖されている旧虎倉井ブリーズワールドに無断で侵入するという犯罪を犯したことに変わりはありません。素直に警察署で取り調べを受け、ありのままを話しました。遺体の確認や、情報提供の際にお世話になった刑事さんも警察署におられましたので、私の行動に苦言を呈しながらも、事情は理解していただけました。

 私が旧虎倉井ブリーズワールドへ侵入した理由や、施設内の備品を破損していないなどの状況から、厳重注意で済まされることとなり、その日のうちに帰宅することが出来ました。迷惑系ユーチューバーたちに関しては不法侵入に加え、タイガーフォレストの入口の鍵を破壊した容疑および、過去の配信に関連して多数の余罪があり、警察から追求を受けているようです。

 旧虎倉井ブリーズワールドにいたのは、キトラくんの着ぐるみを着た迷惑系ユーチューバーだけ。私は結局、「鬼虎」の姿を撮影することは出来ませんでした。

 会社に戻って初めて気づいたのですが、郷土史家の升谷先生から、17年前の地方紙の記事のコピーが会社に届いていました。それによると2009年の9月に、異様に頭部が大きく、鋭い多数の牙が生えた謎の生物の骨が、ブリーズワールドの駐車場付近で発見されていたようです。回収の際に骨が崩れてしまい、DNAも採取できなかったことから、その正体は不明。自然史博物館の学芸員は奇形の猿ではないという見解を示していますが、升谷先生はこの骨が「鬼虎」の可能性があるのではないかと考え、私に新聞記事を送ってきたようです。

 もしもこの骨が本当に「鬼虎」のものだとしたら、「鬼虎」は少なくとも17年前にはすでに死んでいることになる。だとすれば虎倉井山をどれだけ探したところで、もう見つかるはずもない。ひょっとしたら触れた瞬間に骨が崩れてしまったのも、異形の怪物、埒外の存在だったからなのかもしれません。今となっては確かめようもありませんが。

 今回、警察のお世話になったことで、少し頭が冷えました。私は「鬼虎」という存在に囚われ過ぎていたのかもしれません。

 担当の刑事さんも話しておられましたが、旧虎倉井ブリーズワールドで起きた一連の行方不明事件は、子供たちの誘拐および死体遺棄の容疑で、当時の園長を被疑者死亡のまま書類送検することになるが、恐らくそこが捜査の限界だろうと話しておられました。子供たちおよび園長を殺害した犯人は不明のまま、事件は迷宮入りする可能性が高い。世間的にはそうして決着する。常識の範囲、法の範囲では、異形の怪物の事件への関与を立証することなど出来ないのです。

 私を含め、「虎倉井ブリーズワールドの記憶を残す会」のメンバーや、調査に協力してくださった多くの方々は、あれは異形の怪物「鬼虎」の仕業だったという考えで一致しています。ですが「鬼虎」が実在したと証明することはもはや難しい。「鬼虎」がもし本当に死んでいるのだとすれば猶更です。

 この辺りが引き際なのかもしれません。無言の再会ではあったけれど、家族の遺骨は家へと帰ってきた。17年前に謎の生物の骨が発見されたという記事を根拠に、家族の仇はもう死んでいる。もうこれ以上、あの怪物を恐れる必要はないとのだと己を納得させ、せめてもの慰めとする。我々はそうして前へ進んでいくしかないのでしょう。警察の捜査が一段落したら、私も両親の墓前に全てを報告し、一つの区切りとしたいと思います。

 口ではこう言いながらも、正直今でも、まだ虎倉井山のどこかに「鬼子」が棲んでいるのではないかという懸念は消えません。

 17年前に見つかった骨は「鬼虎」ではなく、学芸員の見立て通り本当に奇形の猿だったのではないか? 「鬼虎」を殺せるような生物が、虎倉井山に生息しているとは思えない。だとすればどうして死んだ? 飢えが原因か? 攫った子供の蓄えがあったとはいえ、地下に60年以上封印されて無事だった怪物がたった数年で飢え死にするのか? それとも自然の中で、落雷や落石に巻き込まれて死んだのか? 低山とはいえ、人間が探せる範囲などたかが知れている。潜める場所などいくらでも存在するのではないか?

 あらゆる可能性が頭の中を駆け巡る。駄目ですね。前へ進むと言っておきながら。
 あれだけ大きな事件があったばかりですから、すぐに切り替えることは難しいかもしれませんが、日々の仕事に集中しながら、少しずつ日常に戻っていきたいと思います。

 最後になりますが、これまで捜査に協力してくださった方々に対して、この場をお借りして心より感謝申し上げます。

 ありがとうございました。

 風祭竜也