どうして気付かなかったんだろう。
夏の終わり、嵐さんとの情欲に溺れたあの日…
お互いに満たされる事に夢中で、痣の存在なんて知る由もなかった。
そして嵐さんとの気持ちを再確認したあの日…
嵐さんの背中に触れて、その痣の存在を知って、秘めていた傷を共有できた気がした。
嵐さんが背負ってきた傷の重さは計り知れなくて、それでも僕と共有することで分け合う事ができたなら……
あの日以来僕たちは、時間を見付けては二人きりの甘く情欲に満ちた時間を過ごした。
「好きだよ、水澄」
耳の奥に響く囁き声。
嵐さんのキスは優しくて甘い。
体に残る嵐さんが残した愛の痕。
指で触れるとチリッと痛む。
それすらも愛おしい。
あの人に愛されて、その愛に溺れていたくなる。
それでも、僕らが一線を越えることはなかった。
僕にだってそれなりに欲はある。
嵐さんに抱いて欲しいと思わない訳じゃない。
けれど、嵐さんは言った。
「水澄が高校を卒業するまではしないから。恐がらせたくないし、無理もさせたくない。」
そこにあるのは、僕に負担をかけまいとする嵐さんの気遣いなのだろう。
僕自身、行為に関して知るほどに、恐怖心が大きくなっていったのは事実。
実際、嵐さんの手が僕のお尻を撫でると、一瞬ヒヤリと恐怖心が過る。
今はただそれ以上に、寄り添って触れ合うだけで満たされている。
物理的じゃなくても、お互いに深いところで繋がっていられる関係ならば、それで良いと思えた。
木の葉が色づき山が彩りに満ちる頃、嵐さんの進路が決まった。
合格祝いをしたいという思いは、まもなく始まる期末テストに追われ、それどころではなくなってしまった。
12月に入ると、街は一斉にクリスマスムード一色となる。
方や僕は期末テストが終わったところで、改めて現実を突きつけられ天を仰ぐばかりだった。
一方嵐さんは、進路が決まったにも関わらず期末テストは例外なく行われるようで、それでも「俺はまだマシなほう」とのことだった。
推薦や一般試験で大学受験をする人は、受験勉強と平行してテスト勉強をするわけなのだから。
それでも、テストの返却までを終えて、少し解放された気持ちではあった。
「…クリスマス、一緒に過ごしたいなぁ……」
「…水澄……?!」
しまった。
心の声が盛大に漏れてしまった。
昼休み。
誰もいない空き教室で、昼食を終えた僕と嵐さんは例によって嵐さんのバックハグタイムのまっ只中だった。
僕の首もとに顔を埋めていた嵐さんが、今どんな顔をしているのか、恐ろしくて振り返れない。
「あっ...あの、えっと…今のは…無しで……」
「え?なんで?」
「だって、その…嵐さんも予定とかあるでしょうし……」
僕の一方的な希望を無理強いするわけにはいかない。
「いいじゃねーか、クリスマス」
「…でも……」
「俺は、どんな予定よりも水澄と過ごしたい。…それでも同じ事言うか?」
言うわけがない。
だって、思わず声に出てしまうくらいには、一緒に過ごしたいと思っているのだから。
そうと決まれば話は早くて、お互いのクリスマスプレゼントを買いに行こうという話になった、
僕としては、何かお揃いの物がほしいな…なんて。
クリスマスイブの日。
終業式の後、僕らは大路テラスに立ち寄った。
さすがにイブの日ともなれば、いつもよりも圧倒的に人が多い。
混み合うフードコートで軽く昼食を済ませ、モール内の雑貨屋を覗く。
店内にディスプレイされているクリスマスグッズはどれもキラキラ可愛くて、思わず目を惹かれてしまう。
ついあれこれ見ながら時間を費やしてしまい、それでも嵐さんはそんな僕に笑顔で付き合ってくれていた。
その流れで見付けたのは、温かそうなマフラーだった。
ディスプレイの前で立ち止まる僕の隣で、嵐さんもマフラーを手に取る。
「良いんじゃねーか?」
「…嵐さんも、そう思いますか?」
「うん。俺、なにげにマフラーって持ってなかったかもしれないし。」
「…僕も、中学の時は謎の校則でマフラー使えなかったから、今も持ってなくて……」
僕らは顔を見合わせた。
「それなら、ちょうど良いだろ」
「そうですね。…どの色にしようかな…お揃いのものが欲しいなと思っていたんですが……」
僕がマフラーを手に取りながら悩んでいると、嵐さんが提案してくれた。
「それならさ、お互いに似合いそうなのを選ぶってのはどうだ?お揃いとはちょっと違うかもしれないけど」
「お互いに選んだのを渡し合う…ってことですか?」
「うん。なんか、プレゼント交換ぽくて良くないか?」
「確かに。…ちょっとだけ、ハードルが上がりますね……」
不安げに縮こまる僕を安心させるように嵐さんが笑う。
「そんな気負うこと無いって。水澄が選んでくれたってことが嬉しいから」
その笑顔を見て少し気持ちが和らぐ。
嵐さんも、僕の様子を察したのだろう。
「じゃあ、お互いに渡す時まで中身は内緒、な?」
「はい、楽しみです」
お互いが支払いを済ませ、モールを出て少し外を歩いたり、カフェでケーキを食べたり、久しぶりのデート気分を楽しんだ。
この時期は陽が傾くのも早い。
大通りに面した有名ホテルの前に飾られた大きなクリスマスツリーには、キラキラとライトが点灯されていた。
日が落ちると空気も更に冷たくなる。
そのツリーの前でお互いに選んだプレゼントを交換した。
嵐さんが選んでくれたのは、紺色がベースのタータンチェックのマフラーだった。
「わぁ…僕の好きな感じです」
「それなら良かった。水澄のイメージにぴったりだと思ったんだ」
そう言いながらマフラーを巻いてくれた。
「うん。やっぱり似合う」
その言葉に顔が熱くなっていくのがわかった。
「ぼ、僕のも…開けてみてください……」
僕が選んだのは、チャコールグレーがベースのタータンチェック。
初めて出会った時の嵐さんの髪の色に合わせて選んだのだ。
もちろん、今の黒髪にだって似合うはず。
「使いやすそうで、いい感じの色。 それに…イロチでオソロっていうのも良いな」
僕の渡したマフラーを巻いた嵐さんは、今日一番の笑顔で僕を見た。
「お揃いのマフラー…大事にしますね」
「俺も、大事にするな」
お互いに顔を見つめ合って笑う。
これ以上に無い幸せだと思った。
目映く光る電飾に彩られたクリスマスツリーのイルミネーションを見上げながら、手を繋ぐ。
繋いだその手が、嵐さんのコートのポケットに仕舞われ、なんだか繋いだ手の平から、僕のドキドキが伝わってしまいそうな気さえした。
ー嵐さんが卒業しても、変わらずずっと一緒にいたいー
その願いは、口に出してしまえば叶わなくなってしまいそうな気がして、心の奥へと飲み込んだ。
夏の終わり、嵐さんとの情欲に溺れたあの日…
お互いに満たされる事に夢中で、痣の存在なんて知る由もなかった。
そして嵐さんとの気持ちを再確認したあの日…
嵐さんの背中に触れて、その痣の存在を知って、秘めていた傷を共有できた気がした。
嵐さんが背負ってきた傷の重さは計り知れなくて、それでも僕と共有することで分け合う事ができたなら……
あの日以来僕たちは、時間を見付けては二人きりの甘く情欲に満ちた時間を過ごした。
「好きだよ、水澄」
耳の奥に響く囁き声。
嵐さんのキスは優しくて甘い。
体に残る嵐さんが残した愛の痕。
指で触れるとチリッと痛む。
それすらも愛おしい。
あの人に愛されて、その愛に溺れていたくなる。
それでも、僕らが一線を越えることはなかった。
僕にだってそれなりに欲はある。
嵐さんに抱いて欲しいと思わない訳じゃない。
けれど、嵐さんは言った。
「水澄が高校を卒業するまではしないから。恐がらせたくないし、無理もさせたくない。」
そこにあるのは、僕に負担をかけまいとする嵐さんの気遣いなのだろう。
僕自身、行為に関して知るほどに、恐怖心が大きくなっていったのは事実。
実際、嵐さんの手が僕のお尻を撫でると、一瞬ヒヤリと恐怖心が過る。
今はただそれ以上に、寄り添って触れ合うだけで満たされている。
物理的じゃなくても、お互いに深いところで繋がっていられる関係ならば、それで良いと思えた。
木の葉が色づき山が彩りに満ちる頃、嵐さんの進路が決まった。
合格祝いをしたいという思いは、まもなく始まる期末テストに追われ、それどころではなくなってしまった。
12月に入ると、街は一斉にクリスマスムード一色となる。
方や僕は期末テストが終わったところで、改めて現実を突きつけられ天を仰ぐばかりだった。
一方嵐さんは、進路が決まったにも関わらず期末テストは例外なく行われるようで、それでも「俺はまだマシなほう」とのことだった。
推薦や一般試験で大学受験をする人は、受験勉強と平行してテスト勉強をするわけなのだから。
それでも、テストの返却までを終えて、少し解放された気持ちではあった。
「…クリスマス、一緒に過ごしたいなぁ……」
「…水澄……?!」
しまった。
心の声が盛大に漏れてしまった。
昼休み。
誰もいない空き教室で、昼食を終えた僕と嵐さんは例によって嵐さんのバックハグタイムのまっ只中だった。
僕の首もとに顔を埋めていた嵐さんが、今どんな顔をしているのか、恐ろしくて振り返れない。
「あっ...あの、えっと…今のは…無しで……」
「え?なんで?」
「だって、その…嵐さんも予定とかあるでしょうし……」
僕の一方的な希望を無理強いするわけにはいかない。
「いいじゃねーか、クリスマス」
「…でも……」
「俺は、どんな予定よりも水澄と過ごしたい。…それでも同じ事言うか?」
言うわけがない。
だって、思わず声に出てしまうくらいには、一緒に過ごしたいと思っているのだから。
そうと決まれば話は早くて、お互いのクリスマスプレゼントを買いに行こうという話になった、
僕としては、何かお揃いの物がほしいな…なんて。
クリスマスイブの日。
終業式の後、僕らは大路テラスに立ち寄った。
さすがにイブの日ともなれば、いつもよりも圧倒的に人が多い。
混み合うフードコートで軽く昼食を済ませ、モール内の雑貨屋を覗く。
店内にディスプレイされているクリスマスグッズはどれもキラキラ可愛くて、思わず目を惹かれてしまう。
ついあれこれ見ながら時間を費やしてしまい、それでも嵐さんはそんな僕に笑顔で付き合ってくれていた。
その流れで見付けたのは、温かそうなマフラーだった。
ディスプレイの前で立ち止まる僕の隣で、嵐さんもマフラーを手に取る。
「良いんじゃねーか?」
「…嵐さんも、そう思いますか?」
「うん。俺、なにげにマフラーって持ってなかったかもしれないし。」
「…僕も、中学の時は謎の校則でマフラー使えなかったから、今も持ってなくて……」
僕らは顔を見合わせた。
「それなら、ちょうど良いだろ」
「そうですね。…どの色にしようかな…お揃いのものが欲しいなと思っていたんですが……」
僕がマフラーを手に取りながら悩んでいると、嵐さんが提案してくれた。
「それならさ、お互いに似合いそうなのを選ぶってのはどうだ?お揃いとはちょっと違うかもしれないけど」
「お互いに選んだのを渡し合う…ってことですか?」
「うん。なんか、プレゼント交換ぽくて良くないか?」
「確かに。…ちょっとだけ、ハードルが上がりますね……」
不安げに縮こまる僕を安心させるように嵐さんが笑う。
「そんな気負うこと無いって。水澄が選んでくれたってことが嬉しいから」
その笑顔を見て少し気持ちが和らぐ。
嵐さんも、僕の様子を察したのだろう。
「じゃあ、お互いに渡す時まで中身は内緒、な?」
「はい、楽しみです」
お互いが支払いを済ませ、モールを出て少し外を歩いたり、カフェでケーキを食べたり、久しぶりのデート気分を楽しんだ。
この時期は陽が傾くのも早い。
大通りに面した有名ホテルの前に飾られた大きなクリスマスツリーには、キラキラとライトが点灯されていた。
日が落ちると空気も更に冷たくなる。
そのツリーの前でお互いに選んだプレゼントを交換した。
嵐さんが選んでくれたのは、紺色がベースのタータンチェックのマフラーだった。
「わぁ…僕の好きな感じです」
「それなら良かった。水澄のイメージにぴったりだと思ったんだ」
そう言いながらマフラーを巻いてくれた。
「うん。やっぱり似合う」
その言葉に顔が熱くなっていくのがわかった。
「ぼ、僕のも…開けてみてください……」
僕が選んだのは、チャコールグレーがベースのタータンチェック。
初めて出会った時の嵐さんの髪の色に合わせて選んだのだ。
もちろん、今の黒髪にだって似合うはず。
「使いやすそうで、いい感じの色。 それに…イロチでオソロっていうのも良いな」
僕の渡したマフラーを巻いた嵐さんは、今日一番の笑顔で僕を見た。
「お揃いのマフラー…大事にしますね」
「俺も、大事にするな」
お互いに顔を見つめ合って笑う。
これ以上に無い幸せだと思った。
目映く光る電飾に彩られたクリスマスツリーのイルミネーションを見上げながら、手を繋ぐ。
繋いだその手が、嵐さんのコートのポケットに仕舞われ、なんだか繋いだ手の平から、僕のドキドキが伝わってしまいそうな気さえした。
ー嵐さんが卒業しても、変わらずずっと一緒にいたいー
その願いは、口に出してしまえば叶わなくなってしまいそうな気がして、心の奥へと飲み込んだ。
