「え!?8月31日!?」
水澄が家に来た帰り、駅まで送っていく道中の事だった。
たまたま話の流れで誕生日の話題となっていた。
「…ってことは…明日、夏休みの最終日じゃないですか?」
「そう。だから、誕生日なのに憂鬱感満載って感じ」
「…えー…。もっと早く知ってたら、何かしらお祝いできたのに…なんで……」
「…まぁ、そういう話題にならなかったからなぁ」
「嵐さん、明日って予定とか…?」
「三年は統一模試があるんだよな。ホント最悪。まぁ、夜には家族で祝おうって言ってくれてるけど」
水澄の表情が更に曇った。
「え!?そんな大事な時に僕の勉強に付き合ってもらってたなんて…何も知らずに僕ってば……」
「あー…それは、気にすんなって。こっちは成績にも影響しないし、そもそも俺は共通テスト受けないから今回はホントの実力試しって感じで受けるつもりだし」
「…でも……」
「水澄が気にすることなんてねーよ。むしろ、俺も復習になったから」
「…午後からなんて、ずっと……えっちなことばかりしちゃってたし……」
思い返して二人とも赤面する。
劣情を抱いていたのは俺の方だけじゃなかった。
俺自身、今までに何度水澄の事を考えながら己の劣情を慰めた事か。
それなのに今日、俺の腕の中で肌を寄せ合った水澄は想像の中の水澄よりも遥かに扇情的だった。
途中、水澄が持って来てくれたアイスを食べたりもしたけれど、寄り添っていればまた触れたくなる。
お互いに何度果てても足りなくて、キスをする度に情欲を掻き立てられる。
家族が帰ってくるギリギリまで何度も欲を擦り合った。
水澄を見送ってもなお、水澄の柔らかな肌の感触がまだ手の中に残っているようだ。
まだ触れていたい。
もっと、もっと触れていたい……
水澄の中に、俺という存在を刻み付けたい。
俺の中に、水澄の欠片を閉じ込めたい。
こんな感情を持つなんて、罪になったりしないだろうかという気さえした。
その日の深夜、ちょうど日付が変わると同時に水澄か
らメッセージが来た。
相変わらずヘンテコなスタンプを添えて。
『嵐さん、お誕生日おめでとうございます。
生まれてきてくれて、僕と出会ってくれて、本当にありがとうございます』
いよいよ二学期が始まった。
初日は午前中日程で終わった。
帰る間際、昇降口で俺を呼び止めたのは水澄だった。
「嵐さん…これを……」
差し出されたのは、可愛くラッピングされた小さな包み。
「誕生日プレゼント…と言える程じゃないんですけど……」
「えっ…俺に?ありがとう…開けて良いか?」
「…はい、大したものじゃないんですけど……」
中身は、手の平に収まるくらいの狼のぬいぐるみのキーホルダーだった。
「可愛い…」
「コレ、僕のとペアになってるんです」
少し照れた顔で水澄は、自分のリュックに付けられた色違いのぬいぐるみを見せた。
「しかも、こうすると…くっつくんです」
手の部分にマグネットが入っているらしく、近付けると手を繋ぐみたいにくっつく仕様になっていた。
「マジかよ……」
「…嵐さんと、お揃いの何かを持ちたいなって……」
「いいな、そういうの。嬉しい。ホント、ありがとな」
「いえ…来年はもっと、ちゃんと祝わせてくださいね」
「今日だってすげー嬉しいけど…楽しみにしてる」
俺も水澄と同じように、そのぬいぐるみをリュックに取り付けた。
嬉しそうに笑う水澄の頭をポンポン撫でると、『じゃあ、また明日』と言葉を交わして水澄は午後からの部活へと、俺は弟を迎えに行くべく幼稚園へと、それぞれに向かっていった。
水澄が『来年は』って言ったってことは、来年も一緒にいたいって思ってるってことだよな。
それだけで俺の奥底に蟠る憂いが溶かされていくようだった。
「俺…今年の体育祭、出ようと思う」
大路高校の学園祭は、体育祭が1日と文化祭が2日間の合わせて3日間で行われる。
二学期が始まって早々のイベントとなっているが、俺は一度も出てはいない。
準備期間も、授業のある時だけ来てその後は帰っていた。
俺にとって、高校生活で最も憂鬱な期間であった。
「水澄がさ…部活行ってるの見てたら、俺もいつまでも一匹狼してらんねーなって、俺も変わらないとって思ってさ……」
「え、え?僕なんてそんな……」
「いいや、水澄はちゃんと前に進んだだろ?」
「そ、それは、嵐さんが傍に居てくれたから……」
水澄の部休日、二人での帰り道。
少し顔を赤らめながら、水澄は俺の手をギュッと握った。
「俺も一緒。水澄が傍に居るから、何か変えられるって思った」
二人見つめ合えば柔らかく微笑んで、それはお互いにしか見せない顔。
「嵐さんは、何の種目に出るんですか?」
「俺は…リレーメンバー」
「凄い!僕、絶対見てますからね!」
「うん。それなら、気合い入れて走らねーとな」
体育祭の選手を決めるホームルーム。
団体競技や障害走のチームは、早々に決まっていった。
前もって仲の良いグループで示し合わせていたのだろう。
残るはリレーメンバー。
四走までは運動部だった奴らが立候補した。
残るはアンカー。
他の走者は全員100メートルを走るのに対し、アンカーはグラウンド一周となっているので、スピードに加えて持久力が必要とされる。
当然ながら、名乗り出る者がいないまま沈黙が続いた。
「俺、アンカー走るわ……」
教室がザワつき、皆の驚いた視線が一斉に俺の方に向けられた。
「俺、元陸上部で中長距離やってたから」
教室が静まる。それもそうか。
今まで腫れ物に触るような目で見て距離を取っていた奴が、突然名乗りをあげてきたのだから。
「国分、よく申し出たな!」
張り詰めた空気を破るように、担任の西岡が嬉しそうに声を挙げた。
クラスの奴らもそれに同調して「ありがとう、頼むよ」とか「いちばんキツイ役割だけど頑張って」と声を掛けてくれた。
やるからには本気出す。
ただ学歴の為だけに時間をやり過ごすだけだった高校生活を、自分次第で如何様にも変えていけるのだと、今更ながらそんな高校生活も悪くないなんて思ったりした。
水澄が家に来た帰り、駅まで送っていく道中の事だった。
たまたま話の流れで誕生日の話題となっていた。
「…ってことは…明日、夏休みの最終日じゃないですか?」
「そう。だから、誕生日なのに憂鬱感満載って感じ」
「…えー…。もっと早く知ってたら、何かしらお祝いできたのに…なんで……」
「…まぁ、そういう話題にならなかったからなぁ」
「嵐さん、明日って予定とか…?」
「三年は統一模試があるんだよな。ホント最悪。まぁ、夜には家族で祝おうって言ってくれてるけど」
水澄の表情が更に曇った。
「え!?そんな大事な時に僕の勉強に付き合ってもらってたなんて…何も知らずに僕ってば……」
「あー…それは、気にすんなって。こっちは成績にも影響しないし、そもそも俺は共通テスト受けないから今回はホントの実力試しって感じで受けるつもりだし」
「…でも……」
「水澄が気にすることなんてねーよ。むしろ、俺も復習になったから」
「…午後からなんて、ずっと……えっちなことばかりしちゃってたし……」
思い返して二人とも赤面する。
劣情を抱いていたのは俺の方だけじゃなかった。
俺自身、今までに何度水澄の事を考えながら己の劣情を慰めた事か。
それなのに今日、俺の腕の中で肌を寄せ合った水澄は想像の中の水澄よりも遥かに扇情的だった。
途中、水澄が持って来てくれたアイスを食べたりもしたけれど、寄り添っていればまた触れたくなる。
お互いに何度果てても足りなくて、キスをする度に情欲を掻き立てられる。
家族が帰ってくるギリギリまで何度も欲を擦り合った。
水澄を見送ってもなお、水澄の柔らかな肌の感触がまだ手の中に残っているようだ。
まだ触れていたい。
もっと、もっと触れていたい……
水澄の中に、俺という存在を刻み付けたい。
俺の中に、水澄の欠片を閉じ込めたい。
こんな感情を持つなんて、罪になったりしないだろうかという気さえした。
その日の深夜、ちょうど日付が変わると同時に水澄か
らメッセージが来た。
相変わらずヘンテコなスタンプを添えて。
『嵐さん、お誕生日おめでとうございます。
生まれてきてくれて、僕と出会ってくれて、本当にありがとうございます』
いよいよ二学期が始まった。
初日は午前中日程で終わった。
帰る間際、昇降口で俺を呼び止めたのは水澄だった。
「嵐さん…これを……」
差し出されたのは、可愛くラッピングされた小さな包み。
「誕生日プレゼント…と言える程じゃないんですけど……」
「えっ…俺に?ありがとう…開けて良いか?」
「…はい、大したものじゃないんですけど……」
中身は、手の平に収まるくらいの狼のぬいぐるみのキーホルダーだった。
「可愛い…」
「コレ、僕のとペアになってるんです」
少し照れた顔で水澄は、自分のリュックに付けられた色違いのぬいぐるみを見せた。
「しかも、こうすると…くっつくんです」
手の部分にマグネットが入っているらしく、近付けると手を繋ぐみたいにくっつく仕様になっていた。
「マジかよ……」
「…嵐さんと、お揃いの何かを持ちたいなって……」
「いいな、そういうの。嬉しい。ホント、ありがとな」
「いえ…来年はもっと、ちゃんと祝わせてくださいね」
「今日だってすげー嬉しいけど…楽しみにしてる」
俺も水澄と同じように、そのぬいぐるみをリュックに取り付けた。
嬉しそうに笑う水澄の頭をポンポン撫でると、『じゃあ、また明日』と言葉を交わして水澄は午後からの部活へと、俺は弟を迎えに行くべく幼稚園へと、それぞれに向かっていった。
水澄が『来年は』って言ったってことは、来年も一緒にいたいって思ってるってことだよな。
それだけで俺の奥底に蟠る憂いが溶かされていくようだった。
「俺…今年の体育祭、出ようと思う」
大路高校の学園祭は、体育祭が1日と文化祭が2日間の合わせて3日間で行われる。
二学期が始まって早々のイベントとなっているが、俺は一度も出てはいない。
準備期間も、授業のある時だけ来てその後は帰っていた。
俺にとって、高校生活で最も憂鬱な期間であった。
「水澄がさ…部活行ってるの見てたら、俺もいつまでも一匹狼してらんねーなって、俺も変わらないとって思ってさ……」
「え、え?僕なんてそんな……」
「いいや、水澄はちゃんと前に進んだだろ?」
「そ、それは、嵐さんが傍に居てくれたから……」
水澄の部休日、二人での帰り道。
少し顔を赤らめながら、水澄は俺の手をギュッと握った。
「俺も一緒。水澄が傍に居るから、何か変えられるって思った」
二人見つめ合えば柔らかく微笑んで、それはお互いにしか見せない顔。
「嵐さんは、何の種目に出るんですか?」
「俺は…リレーメンバー」
「凄い!僕、絶対見てますからね!」
「うん。それなら、気合い入れて走らねーとな」
体育祭の選手を決めるホームルーム。
団体競技や障害走のチームは、早々に決まっていった。
前もって仲の良いグループで示し合わせていたのだろう。
残るはリレーメンバー。
四走までは運動部だった奴らが立候補した。
残るはアンカー。
他の走者は全員100メートルを走るのに対し、アンカーはグラウンド一周となっているので、スピードに加えて持久力が必要とされる。
当然ながら、名乗り出る者がいないまま沈黙が続いた。
「俺、アンカー走るわ……」
教室がザワつき、皆の驚いた視線が一斉に俺の方に向けられた。
「俺、元陸上部で中長距離やってたから」
教室が静まる。それもそうか。
今まで腫れ物に触るような目で見て距離を取っていた奴が、突然名乗りをあげてきたのだから。
「国分、よく申し出たな!」
張り詰めた空気を破るように、担任の西岡が嬉しそうに声を挙げた。
クラスの奴らもそれに同調して「ありがとう、頼むよ」とか「いちばんキツイ役割だけど頑張って」と声を掛けてくれた。
やるからには本気出す。
ただ学歴の為だけに時間をやり過ごすだけだった高校生活を、自分次第で如何様にも変えていけるのだと、今更ながらそんな高校生活も悪くないなんて思ったりした。
