一匹狼と妖精さん


 「さて、冴は彼らをどう思う?」
「あら、どうって…何のことかしら?」

部員達が帰った美術室。
そこに残っているのは、美術部長の村前月子と副部長の本庄冴だった。
彼女らが何やら画策している模様だ。

「わかっているだろう、船木少年と国分男子だよ」
「そうねぇ…
確かに、私的には美味しい展開を期待してはいるけれども。」
「そうだろう、そうだろう。」
「言っても、時間の問題じゃないかしら?」
「ふむ、甘いな。
彼らの場合は双方に相手を推し量り過ぎて、逆に進展なく終わりかねないからな」
「あら、それは困るわね…
それに、船木君にはこれからの美術部の担い手としても、彼本人の成長そのものにも期待しているんだけどな…」

 村前は口角を上げる。
その表情に本庄は嫌な予感がした。

「そこでだな、ここはひとつ我々が一肌脱ごうではないか」
「やっぱり…
もしかして月子、もう何か仕掛けたり…とか?」
「まぁな。
既に少年が部活に来た日に、国分男子と鉢合わせたから少し煽ってみたのだが」
「まさかの初日…さすが月子だわ。
それで、手応えは?」
「うむ。彼もなかなか本心は見せないな」
「まぁそうでしょうね。
あまり人に心を開かないし顔にも出ない分、考えが読めないのよね…」
「その分、煽り甲斐もあるというものだよ」

 俄然やる気の村前に反し、本庄は気が重い。
確かに二人の進展は本庄の望むところではあるが、そこに自分が一役買うとなると、また話は違ってくるのだ。
村前もそれは承知の上ではあるが、本庄と協力してこそ意味があるという考えは譲れなかった。

「国分男子の方は私の方がもう少し煽ってみるから、冴は船木少年を揺さぶってもらおうか」
「いいけど…私、国分君に殺されないかしら?」
「まさか、そんなことはしないだろうが」
「確かに最近ちょっと和らいだとは思うけど、船木君のこととなればまた話は違うでしょうに…」
「むしろ、それくらいの方が面白いのだが?」
「そもそも月子、私がガチのコミュ障なのを承知で?
…っていうか私、そんな大したことできないんだから、過度な期待は禁物よ」
「またそんなことを言う。
なに、冴と少年が一緒にいるところを目撃するだけでも、国分男子としては気が気ではないだろうからな。」
「そんなものかしら……」

困り顔の本庄の頬を村前がひと撫でする。

「冴は自覚が無いだけで魅力的だからなぁ…」
「それは月子の方でしょうに。
美人でスタイルも良い上に才能もある。」

本庄は上目遣いで村前を見ながら腰に手をまわす。

「まったく…なんだかんだそうやって煽ってくるではないか」
「それは月子だけなんだからね…」
「本当に…自覚が無いからタチが悪い…」

村前の腰にまわしていた手を腕組みに変えて本庄は本題に戻る。 

「それでさっきの話だけど、今の私があるのも月子のおかげだもの、私も少しだけ頑張ってみようかしら…」

本庄の言葉を受けて村前はその肩に手を掛ける。

「それでこそ冴だ。もう、手放したりはしない」
「私も、もう逃げたりはしない」
「私達が自分らしくいられるのは、互いに歩み寄り尊重しあっているからこそだからな。」
「あの二人も…きっとそうなれるはずよね」
「だが、悠長なことは言っていられない。
なぜなら、大切なものほど簡単に奪われたり…」
「手の中からすり抜けてしまうものだものね…」

日が傾き始めた美術室の窓辺。
重なる二つの影を、風に揺れるカーテンが隠した。