烈火の鬼神〜凍てつく人形の花嫁に愛をそそぐ〜

(私の力とはおそらく霊力のこと。それをあの鬼は知っていた。伊澄家の一族と分かって、真鈴の勘違いをしているのかしら?どちらにせよ、あまり目立つのは避けないといけないわ)

ただ真知にはひとつ気がかりがあった。

あの招待状だ。

招待状には生まれてから一度も書かれていなかった真知の名前があった。送り主は鬼族の中でも強い異能の力を持ち、とても高貴な存在である鬼神。

帝と共に国をおさめる役割を担っている鬼神は真知の病弱を知った上で招待状を送ってきたのは、何を意味するのか…。

開会式の余興を終えると次は雪華祭の目玉、魔物の模擬祓いだ。帝が所有する魔物の研究所で保管されている低級の魔物を使って、祓い屋の名家とあやかしの異能者たちがその力を披露する。

次々と力を発揮する祓い屋一族とあやかしたち。最後を飾るのは伊澄家。真鈴が準備を始めていると、ここでようやく鬼神が姿を現した。

会場内の空気の流れが一瞬で変わる。

(あの面は…先程助けてくださったあやかしの…!もしやあの時のあやかしは鬼神様!?)

面のあやかしの正体が鬼神と分かり、真知は目を見開いた。

真知の前に座る吉武は真知の様子に目もくれず、真鈴に準備を命ずる。

「鬼神のお出ましだ。真鈴、分かっているな?」

帝や鬼神の前で無様な醜態を晒すな。吉武はここぞとばかり真鈴に圧をかける。

「はい、お父様。一族に恥じぬよう、務めて参ります」

役割を果たさなければ、吉武から叱りを受けてしまう。そんな重圧に押されながら真鈴は舞台へと登った。その足もとはふらついて、どこかおぼつかない様子だ。

帝と鬼神、観客にそれぞれ一礼をする。

舞台に上がった研究員のひとりが魔物を封印した壺に貼られた札を剥がすと中から黒いモヤが溢れ出す。

そこから魔物が現れた。だが、普通の魔物ではないことを会場に誰もが察した。

本来であれば下級の魔物が模擬祓いに使われるが、真知たちの目の前にいるのは上級の魔物。魔物の中でも呪の力が強く、伊澄家でも手が焼く生き物だ。

「上級の魔物だと!?こんなの所であんな化け物を出すとは、帝も鬼神も血迷ったか。真鈴、必ず仕留めろ。伊澄家の実力を世に見せつけるのだ」

「はい、お父様」

真鈴は陣を発動させ、光を魔物にぶつける。一瞬よろける魔物だか、すぐに立ち直し呪の異能を真鈴に目掛けて放つ。

「吹きませ、吹きませ。我を守りし囲いの風よ、呪いを切り裂く刃となれ」

風の刃が魔物が放った攻撃を防ぐ。しかし力の差は歴然として、押されている状態だ。次の攻撃で真鈴は舞台の端まで飛ばされてしまう。

「きゃあああ!」

「真鈴!!」

(このままじゃ危険だわ…!)

力を使うか否か、真知は長年の沈黙を破るか躊躇する。

「模擬祓いは終いだ。我が一族の後継人を死なせるつもりか!?」

吉武は必死に帝も鬼神も訴えるが聞く耳を持っていない。我慢ならなくなった吉武は舞台に上がるが、魔物によって阻まれてしまう。

「くっ…。真鈴が死ねば一族は衰退してしまう。おい、付き人なら真鈴を死守しろ!お前のような無能など、死のうがどうでもよい」

(お父様はどこまで愚かになれば気が済むのかしら)

もう娘として扱われない悔しさに唇を噛んだ真知。

表では大切に扱っている真鈴でさえ、道具としてしか思っていないあの男に嫌気が刺す。はらわたが煮え返る思いが身体中を巡る。

(ならばもう、迷いはない。姉として、私は大切な妹のために戦う…!)

真知は覚悟を決め、懐に忍ばしておいた鈴の腕飾りを付け、霊力の制御を解除した。

解放された霊力は舞台全体に結界を施す。舞台に上がり、真鈴の前に立つ。

「お姉様?」

「真鈴、今まで苦しい思いをさせてごめんなさい。これからは私が守るから」

放たれた力は魔物の動きを封じた。この衝撃な光景をにわかに信じ難い吉武。

「あれは、本当に真知なのか?これほどまでに強大な力を隠し持っていたとは」

真知が持つ強大な霊力を目の当たりにした吉武はニヤリと意味深な笑みを浮かべた。