あの日のことが記憶の片隅から鮮明に蘇る。
幸せな時は経った数年だが、人にとって大切な時間であり、思い出だ。
(帰ることのできない瞬間だけど、こうして思い出せるのは何よりも幸せね)
気づけばほんのり笑顔を浮かべる真知と真鈴。久々に姉妹の時間を過ごせることができた。
離れていた時間は取り戻せないが、ここにはお互いも思う姉妹の絆がある。そのことを再認識し、二人を乗せた車は雪華祭の会場に着く。
雪華祭の会場は帝が所有する敷地内で行われる。中には神社もあり祓い屋やあやかし、一般客も参拝にくる由緒正しい場所だ。
車から降りたら真知はもう真鈴は真鈴が用事がある限り話すことは許されない。
受付で招待状を係のものに渡し、控え室へ通される。入るなり吉武たちは昔馴染みの名家と談笑を始める。
真鈴は夕方から始まる模擬祓いの準備を真知と共に取り掛かっていた。使う御札や短刀の刃こぼれの確認。どれ不備はなく、短時間で準備を終えた。
椅子に座る真鈴の横に立ち、雪華祭が始まるのを待つ。すると真知の着物の袖を真鈴がクイッと引っ張ってきた。
「ねぇ、喉が乾いたわ。お水を持ってきてちょうだい」
「お水ですね。かしこまりました」
「言っておくけど、毒なんて入れたらどうなるか分かっているわよね?」
「承知しております」
「分かっているならいいわ」
着物をパッと離した瞬間、真鈴は心細そうに真知を見つめた。
控え室には何度も顔を合わせているお偉いさんばかりだが、まだ十九歳の真鈴はこの張り詰めた空気の中で身体が萎縮していた。
それに気づいていた真知は帯に刺していた簪を取り出し、吉武たちから見えないようにしゃがみ込む。
「真鈴様、着物に埃が付いております。お取りしますのでじっとしていて下さい」
簪を真鈴の着物の帯に刺し、真知は水を取りに控え室を出た。
「いかないでお姉様…」
控え室を出てすぐの給水所で水を手にする。一人にしてしまった真鈴のことが心配で仕方ない真知は小走りで急いで来た道を戻る。
「そこの女、しばし待たれよ」
そこにあやかしと人間の男たちが声をかけてきた。顔を見られないように下を向いて目を合わせないようにする。
「何かご用でしょうか?」
無視する事も出来るが、伊澄家の付き人と分かれば無礼が働いたと吉武の耳に入るため、雑な対応はできない。
「あまり見ない顔だな。何処の者だ?」
「私は伊澄家の付き人です。申し訳ございませんが、お嬢様が待っていますのでそこの通してくださらないでしょうか」
「伊澄家か。あそこには霊力が強い真鈴様がいたな。どれ、挨拶でもしてくるか。案内しろ」
「申し訳ございません。真鈴様は模擬祓い前で気を落ち着かせている為、ご挨拶は控えていただきたく…」
緊張している真鈴を気遣ってあやかしからの申し出を断る。勝手なことをしたと怯える真知だが、今の状態で真鈴の気が休まるわけがないと判断してのこと。
ちらりとあやかしの顔を伺うと予想通り、不機嫌な表情をしていた。
「ハァー。お前はただの付き人だろ。付き人が勝手に断っていいのか?所詮、捨て駒のくせに」
「言いすぎだ。伊澄家に喧嘩なんて売ったらオレたちは追放どころじゃ済まされないぞ」
人間の男の言う通り、帝と鬼神から信用を得ている伊澄家に喧嘩を売ったら解雇だけでは済まされない。過去には処刑されたものもいるくらいだ。
付き人いえど、伊澄家の者に無礼を働けば容赦のない罰則が下される。
「騒がしいぞ」
そこへ面を付けたあやかしがやって来た。漆黒の着物に臙脂色の腰紐を身につけたあやかしは声からして性別は男性。
(鬼の面。鬼族のあやかしね。異能の力はここにいるあやかしより、遥かに強い)
人間は霊力が強い程、相手の力を感じ取ることができる。一方であやかしたちは生まれつきその力を持っている。
力の差を感じ取った者は廊下の端に次々と避けていく。
真知の前に立ったその鬼は真知よりも頭ひとつ分、背丈が高い。その迫力に圧倒されているとあやかしは一瞬、面から紅蓮の瞳を覗かせ真知を直視した。
驚いて身体がビクっと跳ね上がる。
ニヤリと笑みを浮かべる男は口元を真知に耳にやり、小声で呟いた。
「驚かせたな。だが、君の力を見せればあの者たちもさぞ、驚くだろうな」
「ーっ!!」
鬼の言葉に動揺する真知。隠していた霊力をいっしゅんで見破られて血の気が引いた感覚に襲われる。
「会場でまた会おう。その時は思う存分、君の力を見せてくれ」
鬼は離れると振り返って真知に絡んでいた者に目を向けると、その者たちは静かに立ち去って行った。
気づけば鬼のあやかしの姿もなく、廊下には真知ひとりだけとなった。我に返り、急いで控え室に戻る。
幸い、遅れたことについて真鈴は叱られなかった。しばらくして時間となり、吉武たちと共に会場に入る。
舞台を囲むように席が用意されていて、控え室とは反対側にある建物には帝と鬼神の席がある。
帝は先に席に着いているが、鬼神は遅れているのか姿を見せない。
開会式の余興が始まる。琵琶や琴など和の音色が奏でる音楽に合わせ踊り子たちが優雅に舞うなか、真知は鬼が先程言った言葉が気になって仕方なかった。
幸せな時は経った数年だが、人にとって大切な時間であり、思い出だ。
(帰ることのできない瞬間だけど、こうして思い出せるのは何よりも幸せね)
気づけばほんのり笑顔を浮かべる真知と真鈴。久々に姉妹の時間を過ごせることができた。
離れていた時間は取り戻せないが、ここにはお互いも思う姉妹の絆がある。そのことを再認識し、二人を乗せた車は雪華祭の会場に着く。
雪華祭の会場は帝が所有する敷地内で行われる。中には神社もあり祓い屋やあやかし、一般客も参拝にくる由緒正しい場所だ。
車から降りたら真知はもう真鈴は真鈴が用事がある限り話すことは許されない。
受付で招待状を係のものに渡し、控え室へ通される。入るなり吉武たちは昔馴染みの名家と談笑を始める。
真鈴は夕方から始まる模擬祓いの準備を真知と共に取り掛かっていた。使う御札や短刀の刃こぼれの確認。どれ不備はなく、短時間で準備を終えた。
椅子に座る真鈴の横に立ち、雪華祭が始まるのを待つ。すると真知の着物の袖を真鈴がクイッと引っ張ってきた。
「ねぇ、喉が乾いたわ。お水を持ってきてちょうだい」
「お水ですね。かしこまりました」
「言っておくけど、毒なんて入れたらどうなるか分かっているわよね?」
「承知しております」
「分かっているならいいわ」
着物をパッと離した瞬間、真鈴は心細そうに真知を見つめた。
控え室には何度も顔を合わせているお偉いさんばかりだが、まだ十九歳の真鈴はこの張り詰めた空気の中で身体が萎縮していた。
それに気づいていた真知は帯に刺していた簪を取り出し、吉武たちから見えないようにしゃがみ込む。
「真鈴様、着物に埃が付いております。お取りしますのでじっとしていて下さい」
簪を真鈴の着物の帯に刺し、真知は水を取りに控え室を出た。
「いかないでお姉様…」
控え室を出てすぐの給水所で水を手にする。一人にしてしまった真鈴のことが心配で仕方ない真知は小走りで急いで来た道を戻る。
「そこの女、しばし待たれよ」
そこにあやかしと人間の男たちが声をかけてきた。顔を見られないように下を向いて目を合わせないようにする。
「何かご用でしょうか?」
無視する事も出来るが、伊澄家の付き人と分かれば無礼が働いたと吉武の耳に入るため、雑な対応はできない。
「あまり見ない顔だな。何処の者だ?」
「私は伊澄家の付き人です。申し訳ございませんが、お嬢様が待っていますのでそこの通してくださらないでしょうか」
「伊澄家か。あそこには霊力が強い真鈴様がいたな。どれ、挨拶でもしてくるか。案内しろ」
「申し訳ございません。真鈴様は模擬祓い前で気を落ち着かせている為、ご挨拶は控えていただきたく…」
緊張している真鈴を気遣ってあやかしからの申し出を断る。勝手なことをしたと怯える真知だが、今の状態で真鈴の気が休まるわけがないと判断してのこと。
ちらりとあやかしの顔を伺うと予想通り、不機嫌な表情をしていた。
「ハァー。お前はただの付き人だろ。付き人が勝手に断っていいのか?所詮、捨て駒のくせに」
「言いすぎだ。伊澄家に喧嘩なんて売ったらオレたちは追放どころじゃ済まされないぞ」
人間の男の言う通り、帝と鬼神から信用を得ている伊澄家に喧嘩を売ったら解雇だけでは済まされない。過去には処刑されたものもいるくらいだ。
付き人いえど、伊澄家の者に無礼を働けば容赦のない罰則が下される。
「騒がしいぞ」
そこへ面を付けたあやかしがやって来た。漆黒の着物に臙脂色の腰紐を身につけたあやかしは声からして性別は男性。
(鬼の面。鬼族のあやかしね。異能の力はここにいるあやかしより、遥かに強い)
人間は霊力が強い程、相手の力を感じ取ることができる。一方であやかしたちは生まれつきその力を持っている。
力の差を感じ取った者は廊下の端に次々と避けていく。
真知の前に立ったその鬼は真知よりも頭ひとつ分、背丈が高い。その迫力に圧倒されているとあやかしは一瞬、面から紅蓮の瞳を覗かせ真知を直視した。
驚いて身体がビクっと跳ね上がる。
ニヤリと笑みを浮かべる男は口元を真知に耳にやり、小声で呟いた。
「驚かせたな。だが、君の力を見せればあの者たちもさぞ、驚くだろうな」
「ーっ!!」
鬼の言葉に動揺する真知。隠していた霊力をいっしゅんで見破られて血の気が引いた感覚に襲われる。
「会場でまた会おう。その時は思う存分、君の力を見せてくれ」
鬼は離れると振り返って真知に絡んでいた者に目を向けると、その者たちは静かに立ち去って行った。
気づけば鬼のあやかしの姿もなく、廊下には真知ひとりだけとなった。我に返り、急いで控え室に戻る。
幸い、遅れたことについて真鈴は叱られなかった。しばらくして時間となり、吉武たちと共に会場に入る。
舞台を囲むように席が用意されていて、控え室とは反対側にある建物には帝と鬼神の席がある。
帝は先に席に着いているが、鬼神は遅れているのか姿を見せない。
開会式の余興が始まる。琵琶や琴など和の音色が奏でる音楽に合わせ踊り子たちが優雅に舞うなか、真知は鬼が先程言った言葉が気になって仕方なかった。



