烈火の鬼神〜凍てつく人形の花嫁に愛をそそぐ〜

ゴーン、ゴーンと除夜の鐘が鳴り響く大晦日の夜。

真知は休む暇なく、元旦に開催される雪華祭に向けて神具の最終調整をおこなっていた。

調整を終えた神具を丁寧に布に包み、早朝に取りに来る梢を待つ。寝巻きに着替えてロウソクの火を消す。

枕もとには伊澄家の付き人が着る着物を置かれている。これは昼間、梢が持ってきたものだ。付き人とはいえ、だらしない格好をすれば一族の名に泥を塗ることになる。そのため最低限の者が用意される。

布団に入り、目を閉じるもなかなか寝付けないでいた。人生初の雪華祭に緊張しているのもあるが、14年ぶりに会う妹と真鈴との再会を果たすことが何よりも楽しみなのだ。

(ようやく真鈴に会える。十四年ぶりね。早く会いたいわ)

「…真鈴」

鐘が鳴り終わる頃には眠りについた真知。真鈴を思いながら眠る姿は人形のように固まった表情は優しく微笑んでいた。

離で暮らすようになって以来、真鈴の詳細について知ることが出来なかったのは吉武によって使用人たちに『無能な人形には真鈴の情報を与えるな』と、きつく言いつけられていたからだ。

破れば伊澄家を解雇になり、生活は奈落の底になってしまう。

そのため、伊澄家の一族と使用人を始めとする雇人は当主の重圧に押される日々を送るしかなかった。


ー新年の日の出と共に起床した真知は梢に神具を渡し、雪華祭の準備にかかっていた。

藍色の着物に身をつつみ、髪は簡単に団子に結う。机の引き出しから幼い頃、真鈴とお揃いで買ってもらった思い出の簪を帯に刺す。

梅の花ととんぼ玉の装飾が今も汚れず輝いていた。

(長い間、引き出しの奥底にしまっていたけど真鈴に会うならこれは欠かせないわ)

実の妹と会えることに心を弾ませ、梢から必要な荷物を受け取って屋敷の門へと向かう。

幼い頃と変わりのない屋敷内に、懐かしさを感じる。しかし、その空気は重く、すれ違う使用人たちは目の下の隈が深く、顔色が悪かった。

屋敷内で毎日のように虐げられているのは真知だけでない。

伊澄家の屋敷で働くものは皆、吉武と文代の恐れている。いつ解雇になってもおかしくない状況の中でそれぞれの生活を守ろうと必死なのだ。

実際にここで働けない者はどこに行っても居場所はないと吉武たちに言われ、涙ながら今も残って働くものも少なくない。

(ただ廊下を歩いているだけなのに胸が苦しくなるくらい、気分が悪い。こんなにも屋敷の状況が悪くなっていたなんて…。お父様もお母様も人をなんだと思っているのかしら)

冬用の草履を履いて外に出ると、既に吉武たちが門の前に立っていた。

吉武は墨色の着物、文代は濃い(すみれ)色着物に身をつつみ、名家の当主とその妻らしい気品を感じる。

そして2人の隣で背筋が伸びて、真知と背丈が同じ女性がひとり立っている。鶯色の着物に梅の花の簪を身につけた真鈴の姿があった。

「お姉様」

姉の姿に一番に反応した。真知は駆け寄りたい気持ちを必死に堪えて十四年ぶりに会う家族のもとへ向かう。

「お久しぶりです。お父様、お母様」

深く頭を下げるが、吉武は目もくれずに車に乗り込む。

「無能が口を聞くな。お前は今日、伊澄家の付き人として我々に同行する事になっているのを忘れるな」

「はい」

(分かっていた。会えて嬉しいなんて言うはずない。私は無能な人形だ。伊澄家の家族ではない)

吉武と文代、真鈴と真知でそれぞれ車に乗りこみ、雪華祭が行われる会場を向かう。

隣に座る真鈴は真知と同じ背丈に成長していた。十四年の間に真鈴は祓い人としての修行に加え、勉学、作法、をこなしてきた。

伊澄家の者として、日々の努力を積み重ねてその力を国に示すことを家訓に生きていくことを生涯貫いていく。

本来であれば真知もその教育を受ける一族のひとりだが、霊力がないことで十分に養えることができなかった。

時折、梢が持ってきた書物を読みながらある程度の知識と技術を磨いてきたが、真鈴に比べたら到底及ばないだろう。

(隣に座って初めて感じる真鈴の霊力。以前とは比べ物にならない程、大きなを力を身につけている。ここまで成長するまでどれだけ頑張ってきたか伝わってくるわ)

真知は話せないかとソワソワとして落ち着かないが、一言でも真鈴に話しかければ運転手を通して、吉武に告げ口されてしまう。

「ねぇ、今日は雪が降ると思う?」

「えっ…。あ、はい。どう、でしょうか。本日は晴天ですので、雪は降らないかと…」

「…そう。つまらないわね」

突然話しかけられて驚くが使用人として真鈴と話す。他愛のない会話だが、ふと昔を思い出した。

まだ二人が一緒に暮らしていた頃、真鈴は冬になるといつも真知に今日は雪は降らないかと聞いていた。

『お姉様。今日は雪は降らないの?真鈴は雪が見たいです』

『今日はね、晴天だから雪は降らないと思うよ』

『えぇー。雪が降ったらお姉様と一緒に雪だるまを作りたかったのに』

『ふふっ、真鈴は雪が好きね。明日は降るって梢さんが言っていたから、積もったら一緒に雪だるま作ろうね』

『うん…!』