烈火の鬼神〜凍てつく人形の花嫁に愛をそそぐ〜

時は流れ、伊澄家は相変わらず魔物討伐の仕事が殺到している。

仕事が多い分、道具の消耗も激しい。雇われた人間はひたすら道具の手入れに力を注ぎ込んでいる。

屋敷の離に暮らす真知もそのひとりだ。起床してすぐに作業に取り掛かる。途中、食事を済ませてまた作業をする。その生活を十四年続けている。

今では道具の手入れを完璧にこなし、両親から怒号が飛ぶことは少なくなった。だが、使用人や外から働きに来ている者が不適切を働けば、その怒りは真知が受けることもある。

ほとんどが解雇される中で怒りが収まらない両親は真知に行き場のない怒りをぶつけるのだ。

長年虐げられてきた真知はいつの頃からか笑顔を作れなくなっていた。そればかりか、嬉しいや悲しい、痛いなどの喜怒哀楽の感情までも失っていた。

最後に笑ったのはいつか。いつから叱られても泣かなくなったのか。考えても記憶にモヤがかかっていて思い出せない。

(仕事を完璧にしても褒めてくれない。泣いても寄り添ってくれない。ならいっそのこと感情なんて捨ててしまえばいい)

感情を捨てた真知は表情をピクリとも動かすことはなくなり、その姿を見た両親は実の娘"人形"呼ばわりした。

真知はその言葉にショックなど受けなかった。ただその言葉を受け入れ、伊澄家の人形として道具作りに励んだ。

(人形であれば感情なんてなくていい。叩かれても憎まれ口を言われても悲しくならない。真鈴を守れれば私はそれでいい)

真知は真鈴が使う神具の手入れもしている。昔は他の職人に任せていたが、真鈴が真知が手入れした神具の方が力を発揮しやすいと言ってから担当は真知となった。

「これで短刀の手入れは終わりね。あとは…」

机の上に置かれた短刀に手をかざす真知。すると光が現れ短刀を包む。

「どうか真鈴をお守りください」

真知が放った力の正体は霊力。十四年前に霊力を目覚めず無能と呼ばれた原因だ。

それをなぜ真知は霊力をもっていたのか。

ー遡ること十四年前。真知の霊力は真鈴よりも日早く霊力が目覚めていた。

「これがお父様が言っていた霊力?」

小さな手から光が溢れる。真知はまだ5歳の好奇心旺盛の子供だ。両親に知らせる前に力を試してみたくなった。

試しに庭石にむかって放ってみた。すると放たれた力は庭石に当たり、壁の塀の一部を一瞬のうちに破壊した。

予想よりも強い力に真知は困惑する。恐ろしくなっていたその場を逃げるように去り、蔵へ隠れた。

驚いて心臓がバクバクとし、息が苦しくなる。次第に震えだし冷や汗が出てきた。

「今の、私がやったの?」

蔵の外が騒がしい。大きな音に驚いた使用人と吉武が駆けつけてきたみたいだ。扉の隙間から様子を伺う真知。

「これは一体どういう事だ!?庭が荒れているではないか」

「分かりません。私ども来た時にはもう…」

「襲撃かもしれぬ。一族総員で犯人を探し出せ!!」

真知は吉武に自分がやったと話そうと蔵を出ようとした。すると蔵の奥でなにかの気配を感じた。

真知は蔵の奥に行き、埃を被った古い木箱を見つけた。

「なんだろう」

開けるとその中には黄金の鈴が付いた腕飾りが入っていた。

「鈴?」

手につけるとチリンと鈴が鳴る。その音を聞くと不思議と気持ちが落ち着いた。

あとからこの鈴は霊力を高める力があると知った。伊澄家の先祖が魔物討伐の際に使用し、持ち主が無くなったあとも大切に保管されていたのだ。

そうしている間に吉武は庭から姿を消していた。あとから知らせようとしたが、その日から吉武の仕事が忙しくなり話す機会を見失った。

その三日後、妹の真鈴が霊力を目覚めさせた。