烈火の鬼神〜凍てつく人形の花嫁に愛をそそぐ〜

鬼神・焔の屋敷に住み始めて一ヶ月。日中は緋乃里と共に屋敷の庭の手入れをしたり、お喋りをしたり、料理に挑戦してみたりと今まで出来なかったことを少し行っている。焔は帝と同じく国を治める立場にあるため、一緒に居られる時間は少ないが、必ず食事の時間には顔を出していた。

夜中になると静かに屋敷を出る焔。帰宅はいつも朝日が昇る早朝になる。何をしているか気になる真知だが、邪魔になってはいけないと思い、あまり干渉しないようにしている。

屋敷での暮らしに慣れてきたが、最近は悪夢に悩まされており、睡眠不足になっている。元々、伊澄家にいた頃は徹夜で神具の手入れをするのが日課だった為、多少眠らなくても問題はなかった。

しかし平穏な暮らしに慣れ始め、人との関わりが多くなり、やれる事が増えた為、疲労が溜まっていた。それが原因で寝不足に耐えきれなくなっていた。

いざ、眠りにつくと両親に虐げられてきたことが夢に現れ、その度に飛び起きてしまう。

とある日の真夜中。真知はまた悪夢にうなされていた。

『無能の人形が口答えするな!?一族の恥である貴様はここで一生、閉じこもっていればいいんだ!!』

父の吉武が竹刀を持って真知が居る離に来ては行き場のない怒りをぶつけてきた。入れ替わりが母の文代もやってきては平手打ちを何度も繰り返していた。

『お前は手入れもまともに出来ないのか!?カンペキでなければ真鈴にどれだけ迷惑がかかると思っているのよ!?一族が衰退したらお前のせいだ!!笑いもしない、泣きもしないで気持ち悪い。少しは人間らしくなったらどうなの!!?』

理不尽に叱られるも、真知は反論せずにひたすら耐えに耐えて悲しむことも泣くこともしないで生きてきた。瞳の光は失われ、痛みも悲しみも感じなくなっていった。

「うぅぅ…ごめんなさい、ごめんなさい…はっ!また夢を…。今日で何日目かしら?」

汗をかいて喉がかわいた真知は水を求めて屋敷の暗い廊下に出た。今は真夜中。緋乃里も就寝しているため、起こす訳にはいかないため一人で台所に向かう。

台所に行く際は玄関前を通る。近くまで行くと何やら物音が聞こえてきた。

ガタガタ…ガタガタガタ…!

(何、この音は)

慎重に玄関へ近づいていくと戸が開く音がした。曲がり角付近に着いた真知はソーッと様子を確認すると人影のような者が見えた。霊力で小さな光を灯す。光が人影を照らすと真知の目に衝撃的な光景が飛び込む。

「焔様…!!」

なんとそこには大怪我をして血塗れの焔の姿があった。真知はすぐに焔のもとに駆け寄る。

「焔様、何がありました?!どうしてこのような怪我を…。今すぐ緋乃里さんたちを呼んで参ります」

「待ってくれ…」

緋乃里たちを呼びに行こうとすると焔は真知の手を掴んで引き止めた。

「はぁ…はぁ…。屋敷の者には言うな。心配をかけたくない」

「ですが…」

「少々油断をしただけだ。心配いらない。これくらい鬼神ならすぐに回復する」

真知を安心させようと無理して笑う焔。だが、痛々しい焔の姿を見て幼き日の悪夢が蘇る。竹刀で何度も殴られた痛み、平手打ちで叩かれた頬の痛み、暴言によって精神的苦痛となった心の痛み。封印していた哀しみが、辛い記憶が脳を駆け巡る。

「はぁ、はぁ…」

「真知?どうした!?真知!!」

(本当は痛かった、心の無い言葉をかけられて辛かった。その度に泣き叫びたかった。誰も私の声なんて聞いてくれない。家族として愛してもくれない…。何度も助けてと願った。愛してと願った。だけど私はいつしかそれすら諦めて、感情を捨てた)

「真知!!」

焔の声で記憶から覚める。

「…ほ、ほむら…さま。わたし、私は…ほんとうは辛かったのです、哀しかったのです。痛いと叫びたかった、助けてと叫びたかった…!!」

血だらけの着物に顔を疼くめて泣き叫ぶ真知を焔は感覚を失いかけている腕で抱きとめる。唇を噛み、燃え盛る炎ような怒りを堪えながら焔は真知に言葉をかけた。