より強い霊力は一族を支える要になる。真知も真鈴もいずれは婿を迎えることだろう。もしも相手が力だけを欲するような相手なら、また辛い日常が戻ってくるかもしれない。真知と真鈴にとっては避けて通りたい道なのだ。
「…はっ!そろそろお昼の時間です。食事を持って参りますので、ここでお待ちください」
「えぇ、ありがとうございます」
慌ただしく食事を取りに行った緋乃里の足音がトタトタと廊下に響く。
(気を遣わせてしまったかしら。それにしてもここは風が気持ちいいわね。中庭もとても美しいわ)
「気に入ったか」
「ひゃっ!き、鬼神様!?いつ戻られたんですか」
背後に突然鬼神が現れ、驚いて身体が大きくビクッとした。心臓がバクバクと鳴り正座をしていた姿勢が崩れてしまった。
「今だ。帰ると真知が庭を見ているのが見えてな。我が家の庭がそんなに気に入ったか?」
「えっ…あ、はい。とても素敵な庭ですね。気づいたら夢中になっていました」
草木や花が美しく生い茂る屋敷の庭は伊澄とは違い、華やかだ。
「花が好きな使用人たちが作った庭だ。俺の部屋にも花が飾られている。そうだ、今度一緒に部屋に飾る花を積みに行こう」
「鬼神様の心遣いはとても嬉しいです。けど、私はここから眺める方が自然の美しさを感じられます。あっ
…!申し訳ございません。せっかくのお誘いだというのに…」
「気にするな。真知がしたいようにするのが一番だ。隣に座るが、良いか?」
「はい」
鬼神が座ると真知との体格差がより感じる。着物越しだが大きな肩幅がたくましく、気品を感じる美しい姿勢に目を奪われる真知。
「ここでの暮らしはすぐに慣れる。緋乃里も俺も出来る限り、真知の力になりたい思っている。簡単には我々を信用出来ないと思うが、どうか心置きなく頼ってほしい」
「鬼神様はお優しく、信用はできるお方です。けど、頼るとは具体的にどのようにすればいいのか、よく分からなくて…」
伊澄家では人に頼りたくても頼れたなかった。梢がたまに書物を持ってきてくれたおかげで神具の手入れ方法やある程度の知識を身につけてきた。梢の存在は真知にとって重要な支えとなっていた。
しかし、自分から何かをしたいとは一度も言ったことなく、どうやって人に頼ればいいのかが分からないのだ。
「自分の気持ちを素直に伝える。それが一番いい方法だ」
「自分の気持ちを素直に。やはり難しいです。伊澄家では両親に絶対服従で、反論すれば竹刀で叩かれることが日常でしたから」
現在も無数の痣が残る身体を縮こませて、辛かった幼き日を思い出す。
(辛いや苦しいは最近まで感じる事なんてなかったのに、今になって実感してくるなんて。霊力を消費して心が弱くなってしまったのかしら)
「…辛かったな」
苦しそうな声が頭上に落ちると、肩を引き寄せられあっという間に鬼神の腕の中に包まれた真知。
「鬼神様…!?」
「これは俺の責任だ。伊澄家の悪行に気づけず、君たち姉妹に多大な迷惑をかけてしまった。すまない」
腕の力がギュッと強まり苦しい感じはするけれど、それを忘れそうになるくらい心臓の鼓動が大きく身体中に響く。鬼神の体温が真知の体温と重なって全身が熱に火照る。
「鬼神様が謝る必要はございません。こうして解放してくださったことは私含め、妹も喜んでおります。鬼神様は私たちの命の恩人です」
「真知…。こちらこそ感謝する。君には伝えても良いかもな。俺の名を」
「鬼神様のお名前ですか…?是非、聞きたいです」
「そうか。改めて、俺の名は焔。炎の異能を使う鬼族に生まれ、この名がついた」
「焔様。素敵なお名前。炎のように心優しい焔様にぴったりです」
「そ、そうか。自分の名で褒められるなんて、生まれて初めてだ。少々照れくさいな」
照れ隠しか片手で面を抑える焔。表情は見えぬが、耳が赤くなっているのが分かった。熱が移ったのか真知の頬もほんのり赤く染まる。すると、真知の口角が少しだが上がるのが見えた鬼神は面を少しズラして凝視した。
「ど、どうなさいましたか?!」
部屋に差し込んだ光が紅蓮の瞳にドキッと胸が跳ね上がる。
「いや、すまない。真知が少し笑ったように見えてな。宿ではあまり笑みを浮かべていなかったから、つい」
「笑み、ですか…?真鈴に聞いたのですが、私はあまり表情が動いていないみたいで。心では感情を表しているつもりでも、表情からは読み取れないみたいで…」
「心に深い傷を負ったんだ。無理もない。だが先程の笑みは自然なものでとても可愛らしかったな」
「か、可愛らしいですか?!そんなことありません。偶然そのように見えたのではありませんか…?」
「俺の目に狂いはない。もっと見せてくれ。君の笑顔も楽しい表情も。もちろん悲しい時や辛い時は俺がこの身で全力で受け止める。だが、無理はしなくていい。俺が嫌な時は緋乃里を頼ってくれてよい」
「嫌だなんてそんな…!焔様はとても頼りになる方です。私は全然気にしません。何かありましたら、すぐに焔様に言います…!もちろん緋乃里さんにも…!」
(あ…!)
夢中になって話していた二人の距離は無意識に近づいて、鼻先が触れそうになった。
驚いた拍子に離れたが、揃って頬を赤く染めてどこか落ち着かない様子だ。絶妙な間で緋乃里が昼食を持ってきた。気まづい空気の中、一言も話すことなく食事を済ますのだった。
「…はっ!そろそろお昼の時間です。食事を持って参りますので、ここでお待ちください」
「えぇ、ありがとうございます」
慌ただしく食事を取りに行った緋乃里の足音がトタトタと廊下に響く。
(気を遣わせてしまったかしら。それにしてもここは風が気持ちいいわね。中庭もとても美しいわ)
「気に入ったか」
「ひゃっ!き、鬼神様!?いつ戻られたんですか」
背後に突然鬼神が現れ、驚いて身体が大きくビクッとした。心臓がバクバクと鳴り正座をしていた姿勢が崩れてしまった。
「今だ。帰ると真知が庭を見ているのが見えてな。我が家の庭がそんなに気に入ったか?」
「えっ…あ、はい。とても素敵な庭ですね。気づいたら夢中になっていました」
草木や花が美しく生い茂る屋敷の庭は伊澄とは違い、華やかだ。
「花が好きな使用人たちが作った庭だ。俺の部屋にも花が飾られている。そうだ、今度一緒に部屋に飾る花を積みに行こう」
「鬼神様の心遣いはとても嬉しいです。けど、私はここから眺める方が自然の美しさを感じられます。あっ
…!申し訳ございません。せっかくのお誘いだというのに…」
「気にするな。真知がしたいようにするのが一番だ。隣に座るが、良いか?」
「はい」
鬼神が座ると真知との体格差がより感じる。着物越しだが大きな肩幅がたくましく、気品を感じる美しい姿勢に目を奪われる真知。
「ここでの暮らしはすぐに慣れる。緋乃里も俺も出来る限り、真知の力になりたい思っている。簡単には我々を信用出来ないと思うが、どうか心置きなく頼ってほしい」
「鬼神様はお優しく、信用はできるお方です。けど、頼るとは具体的にどのようにすればいいのか、よく分からなくて…」
伊澄家では人に頼りたくても頼れたなかった。梢がたまに書物を持ってきてくれたおかげで神具の手入れ方法やある程度の知識を身につけてきた。梢の存在は真知にとって重要な支えとなっていた。
しかし、自分から何かをしたいとは一度も言ったことなく、どうやって人に頼ればいいのかが分からないのだ。
「自分の気持ちを素直に伝える。それが一番いい方法だ」
「自分の気持ちを素直に。やはり難しいです。伊澄家では両親に絶対服従で、反論すれば竹刀で叩かれることが日常でしたから」
現在も無数の痣が残る身体を縮こませて、辛かった幼き日を思い出す。
(辛いや苦しいは最近まで感じる事なんてなかったのに、今になって実感してくるなんて。霊力を消費して心が弱くなってしまったのかしら)
「…辛かったな」
苦しそうな声が頭上に落ちると、肩を引き寄せられあっという間に鬼神の腕の中に包まれた真知。
「鬼神様…!?」
「これは俺の責任だ。伊澄家の悪行に気づけず、君たち姉妹に多大な迷惑をかけてしまった。すまない」
腕の力がギュッと強まり苦しい感じはするけれど、それを忘れそうになるくらい心臓の鼓動が大きく身体中に響く。鬼神の体温が真知の体温と重なって全身が熱に火照る。
「鬼神様が謝る必要はございません。こうして解放してくださったことは私含め、妹も喜んでおります。鬼神様は私たちの命の恩人です」
「真知…。こちらこそ感謝する。君には伝えても良いかもな。俺の名を」
「鬼神様のお名前ですか…?是非、聞きたいです」
「そうか。改めて、俺の名は焔。炎の異能を使う鬼族に生まれ、この名がついた」
「焔様。素敵なお名前。炎のように心優しい焔様にぴったりです」
「そ、そうか。自分の名で褒められるなんて、生まれて初めてだ。少々照れくさいな」
照れ隠しか片手で面を抑える焔。表情は見えぬが、耳が赤くなっているのが分かった。熱が移ったのか真知の頬もほんのり赤く染まる。すると、真知の口角が少しだが上がるのが見えた鬼神は面を少しズラして凝視した。
「ど、どうなさいましたか?!」
部屋に差し込んだ光が紅蓮の瞳にドキッと胸が跳ね上がる。
「いや、すまない。真知が少し笑ったように見えてな。宿ではあまり笑みを浮かべていなかったから、つい」
「笑み、ですか…?真鈴に聞いたのですが、私はあまり表情が動いていないみたいで。心では感情を表しているつもりでも、表情からは読み取れないみたいで…」
「心に深い傷を負ったんだ。無理もない。だが先程の笑みは自然なものでとても可愛らしかったな」
「か、可愛らしいですか?!そんなことありません。偶然そのように見えたのではありませんか…?」
「俺の目に狂いはない。もっと見せてくれ。君の笑顔も楽しい表情も。もちろん悲しい時や辛い時は俺がこの身で全力で受け止める。だが、無理はしなくていい。俺が嫌な時は緋乃里を頼ってくれてよい」
「嫌だなんてそんな…!焔様はとても頼りになる方です。私は全然気にしません。何かありましたら、すぐに焔様に言います…!もちろん緋乃里さんにも…!」
(あ…!)
夢中になって話していた二人の距離は無意識に近づいて、鼻先が触れそうになった。
驚いた拍子に離れたが、揃って頬を赤く染めてどこか落ち着かない様子だ。絶妙な間で緋乃里が昼食を持ってきた。気まづい空気の中、一言も話すことなく食事を済ますのだった。



