「ここが真知の部屋だ。好きに使うといい」
鬼神に案内された部屋は六畳ほどの和室。座卓や布団など、既に生活に必要なものは揃えられていた。真知の手には梢が屋敷から持っていた私物が入った風呂敷がひとつ。
「私には勿体ないお部屋。鬼神様、ありがとうございます」
「礼には及ばない。他に必要なものがあれば言ってくれ。それから世話係の者を紹介する。緋乃里」
スっと静かに開いた襖から面を被った鬼族の女の子が入っていた。小柄で黒髪のおかっぱ頭が可愛らしい彼女の名前は緋乃里。普段は屋敷の使用人として働いている。
「お初にお目にかかります。今日から真知様のお世話をさせていただく緋乃里と申します」
「緋乃里様、今日からお世話になります。伊澄真知と申します」
「緋乃里はこう見えて使用人として頼りになる。分からないことがあったら彼女に聞くといい」
「ちょっと、鬼神様。こう見えては余計です。アタシがお転婆で可愛らしくて、頼りになる存在だからって褒めすぎですよ!」
「たまに自信過剰になるところがあるが、悪い奴ではないんだ。どうか気にせず、温かい目で見てほしい」
「は、はぁー…」
真知は驚いていた。主人である鬼神に対してこんなに軽口で話すなんて、伊澄家では考えられないことだ。2人がそれほど親しい仲とも言えるが、なんという恐れ知らずだと思った。
「では俺はこれから出かける。緋乃里、くれぐれも真知を困らせるな」
「分かってますって!」
ビシッと敬礼する緋乃里に心配で仕方ない鬼神。これから出かけるというのに、中々部屋を出ようとしない。
「本当に大丈夫だろうな?」
「大丈夫ですって。ほーら、早く行かないと日が暮れてしまいますよ?」
渋る鬼神を緋乃里は部屋から押し出し、強制的に部屋から追い出した。ピシャッと襖を閉められ、鬼神は諦めるしかなかった。
「全く心配性なんだから」
「あ、あの緋乃里様」
「緋乃里とお呼びください。アタシは立場があって、真知様に呼び捨ては出来ませんが…。真知様には呼び捨てで名を呼んで欲しいです!」
世話になる身であまり無礼な事はしたくない真知だが、緋乃里の強引さに負けて呼び捨てで名を呼ぶことにした。
(幼子のお願いは断りにくいわ。眩い瞳が彼女の持ち味ね。完全に負けたわ)
「では、緋乃里。これからよろしくお願いします」
「これらこそ、真知様。分からないことがありましたら、なんでもこの緋乃里にお聞きください。さぁ…!遠慮なさらずに」
いきなり言われても真知は何を質問していいか、分からず困ってしまう。緋乃里の期待に応えたいので必死に探してみた。すると、ある事に気がつく。
「あの、鬼族の方々は面を付けるのが習慣なんですか?」
「はい!と言っても屋敷の外だけです。普段は鬼族の里の皆さんは面を取っています」
「では今は…?鬼神様も緋乃里も面を着けていらっしゃいますが」
ここは鬼族の里にある鬼神の屋敷。面を着ける理由なんてないはずだ。
「アタシたちが今、面を着けているのは真知様のためです」
「私の?」
「はい。鬼族は瞳の色で異能の力を表します。一番強い鬼神様は紅蓮の瞳。アタシのような使用人はそれよりも薄い紅色、朱色、茜色など人によって様々です。そしてもうひとつ、鬼族が面を着けるのは異能の力は人間には刺激が強いということ」
通常、あやかしは異能で人間に危害を与えるのは本人の意思か魔物になった時。しかし鬼族の異能はあやかしの中でも力が強いため、無意識に力が外に溢れだしてしまう。
あやかしなら耐えられるが、人間には耐性がないため力に触れれば強すぎる力の影響で体調を崩してしまうことがある。もしも面を取ることがあれば、真知は鬼族の異能の影響を受けて屋敷には居られなくなる。
「それだけ強い異能なら、鬼神様はどうして私を屋敷で療養させようとお考えになったのでしょうか?」
「それは鬼神様の異能と真知様の霊力の相性が良かったからでしょう」
「相性、ですか」
「はい。真知様、鬼神様が面を取ったところを見たことはありませんか?」
「面を…あっ!あの時」
鬼神が真知の前で面を取ったのは、雪華祭で不届き者に声をかけられて助けられた時。少しだが鬼神は面をズラして真知のことを凝視していた。
「鬼神様の異能は面を少しでもズラすだけで人間に影響が及ぶほどお強い力です。だけどそれに耐えられたのは、真知様の霊力は鬼神様の異能と同等の力があるからだと推測されます」
「私の霊力なんて大したことありません。一度使っただけで息を切らしてしまったくらいです」
「霊力による浄化はかなりの体力を使います。疲れが出て当然です。ここではその霊力を十分に回復させていきましょう。霊力が回復すればアタシたちが面を外しても耐えられるはずです」
「…そうなる日がくるといいですね」
霊力の回復は真知の体調を良くするために必要なことだが、強い力を持つことは本当にいいことなのだろうかと不安になっていた。
強い力は世の中のために役に立つものだという事は理解している。だが吉武のように力を利用する邪なものが今後現れるかもしれない。
帝と鬼神がその実力を認める一族である伊澄家の血は誰もが欲するほど貴重なものとなっている。
鬼神に案内された部屋は六畳ほどの和室。座卓や布団など、既に生活に必要なものは揃えられていた。真知の手には梢が屋敷から持っていた私物が入った風呂敷がひとつ。
「私には勿体ないお部屋。鬼神様、ありがとうございます」
「礼には及ばない。他に必要なものがあれば言ってくれ。それから世話係の者を紹介する。緋乃里」
スっと静かに開いた襖から面を被った鬼族の女の子が入っていた。小柄で黒髪のおかっぱ頭が可愛らしい彼女の名前は緋乃里。普段は屋敷の使用人として働いている。
「お初にお目にかかります。今日から真知様のお世話をさせていただく緋乃里と申します」
「緋乃里様、今日からお世話になります。伊澄真知と申します」
「緋乃里はこう見えて使用人として頼りになる。分からないことがあったら彼女に聞くといい」
「ちょっと、鬼神様。こう見えては余計です。アタシがお転婆で可愛らしくて、頼りになる存在だからって褒めすぎですよ!」
「たまに自信過剰になるところがあるが、悪い奴ではないんだ。どうか気にせず、温かい目で見てほしい」
「は、はぁー…」
真知は驚いていた。主人である鬼神に対してこんなに軽口で話すなんて、伊澄家では考えられないことだ。2人がそれほど親しい仲とも言えるが、なんという恐れ知らずだと思った。
「では俺はこれから出かける。緋乃里、くれぐれも真知を困らせるな」
「分かってますって!」
ビシッと敬礼する緋乃里に心配で仕方ない鬼神。これから出かけるというのに、中々部屋を出ようとしない。
「本当に大丈夫だろうな?」
「大丈夫ですって。ほーら、早く行かないと日が暮れてしまいますよ?」
渋る鬼神を緋乃里は部屋から押し出し、強制的に部屋から追い出した。ピシャッと襖を閉められ、鬼神は諦めるしかなかった。
「全く心配性なんだから」
「あ、あの緋乃里様」
「緋乃里とお呼びください。アタシは立場があって、真知様に呼び捨ては出来ませんが…。真知様には呼び捨てで名を呼んで欲しいです!」
世話になる身であまり無礼な事はしたくない真知だが、緋乃里の強引さに負けて呼び捨てで名を呼ぶことにした。
(幼子のお願いは断りにくいわ。眩い瞳が彼女の持ち味ね。完全に負けたわ)
「では、緋乃里。これからよろしくお願いします」
「これらこそ、真知様。分からないことがありましたら、なんでもこの緋乃里にお聞きください。さぁ…!遠慮なさらずに」
いきなり言われても真知は何を質問していいか、分からず困ってしまう。緋乃里の期待に応えたいので必死に探してみた。すると、ある事に気がつく。
「あの、鬼族の方々は面を付けるのが習慣なんですか?」
「はい!と言っても屋敷の外だけです。普段は鬼族の里の皆さんは面を取っています」
「では今は…?鬼神様も緋乃里も面を着けていらっしゃいますが」
ここは鬼族の里にある鬼神の屋敷。面を着ける理由なんてないはずだ。
「アタシたちが今、面を着けているのは真知様のためです」
「私の?」
「はい。鬼族は瞳の色で異能の力を表します。一番強い鬼神様は紅蓮の瞳。アタシのような使用人はそれよりも薄い紅色、朱色、茜色など人によって様々です。そしてもうひとつ、鬼族が面を着けるのは異能の力は人間には刺激が強いということ」
通常、あやかしは異能で人間に危害を与えるのは本人の意思か魔物になった時。しかし鬼族の異能はあやかしの中でも力が強いため、無意識に力が外に溢れだしてしまう。
あやかしなら耐えられるが、人間には耐性がないため力に触れれば強すぎる力の影響で体調を崩してしまうことがある。もしも面を取ることがあれば、真知は鬼族の異能の影響を受けて屋敷には居られなくなる。
「それだけ強い異能なら、鬼神様はどうして私を屋敷で療養させようとお考えになったのでしょうか?」
「それは鬼神様の異能と真知様の霊力の相性が良かったからでしょう」
「相性、ですか」
「はい。真知様、鬼神様が面を取ったところを見たことはありませんか?」
「面を…あっ!あの時」
鬼神が真知の前で面を取ったのは、雪華祭で不届き者に声をかけられて助けられた時。少しだが鬼神は面をズラして真知のことを凝視していた。
「鬼神様の異能は面を少しでもズラすだけで人間に影響が及ぶほどお強い力です。だけどそれに耐えられたのは、真知様の霊力は鬼神様の異能と同等の力があるからだと推測されます」
「私の霊力なんて大したことありません。一度使っただけで息を切らしてしまったくらいです」
「霊力による浄化はかなりの体力を使います。疲れが出て当然です。ここではその霊力を十分に回復させていきましょう。霊力が回復すればアタシたちが面を外しても耐えられるはずです」
「…そうなる日がくるといいですね」
霊力の回復は真知の体調を良くするために必要なことだが、強い力を持つことは本当にいいことなのだろうかと不安になっていた。
強い力は世の中のために役に立つものだという事は理解している。だが吉武のように力を利用する邪なものが今後現れるかもしれない。
帝と鬼神がその実力を認める一族である伊澄家の血は誰もが欲するほど貴重なものとなっている。



