烈火の鬼神〜凍てつく人形の花嫁に愛をそそぐ〜

人間とあやかしが平穏に暮らす天乃(あまの)の国。そこに突如として厄災が訪れた。

一部のあやかしが呪いを受け、(じゅ)のあやかしとなった。現在では魔物(まもの)呼ばれるそれらはヒトやあやかしを襲うようになった。

何が原因で魔物が出現したのか未だ判明していない。発生当時の人間の帝とあやかしの鬼神はこの深刻な事態に対処すべく、協力関係を結んだ。

のちに人間で霊力を持つ者は魔物を祓うようになり、それらを祓い人、あやかしは特有の力である異能を使い、魔物を狩ることから異能者と呼ぶ。

それぞれ神具と呼ばれる刀や御札、陣を使うようになる。これらの神具を使うには、より強い霊力を持つ者が道具作りをする必要がある。

霊力が込められた神具は魔物に最も有効な力。そのため、霊力が強い家系の人間はとても重宝され、帝と鬼神から高い信頼を得ていた。

ー何百年と続くこの時代で、祓い屋として名を上げた一族がいた。伊澄(いずみ)家。数ある中で最も功績を残し、魔物討伐に貢献している家系だ。

十九年前、伊澄家の当主である吉武(よしたけ)とその妻・文代(ふみよ)の間に双子の姉妹が生まれた。

姉の名は真知(まち)、妹の名は真鈴(まり)。世間から期待が集まる世代となった。

霊力が目覚めるのは五歳。その年を迎えた日、一族が予想もしていない出来事が起こった。

双子の妹・真鈴は霊力が目覚めたが、姉の真知は一切霊力の兆しが現れなかった。

強い霊力を持つ両親のもとで生まれながら、無能ということが判明し、騒然となった。

「伊澄家のものが霊力を持たないだと…!?なんと言うことだ」

吉武は落胆した。先祖の代から国を治める長から厚い信頼を得て、積み上げてきた歴史に初めて泥に塗ることになったのだから。

一族にとって重大案件となり、真知は病弱という偽りのもとで世間から姿を隠すことになった。屋敷の離に独りで生涯過ごすことが決まる。

「いや…!離してお父様!!」

吉武は幼い真知の腕を引っ張り、離の部屋に投げ入れる。

「ええい黙れ!お前は霊力を持たない無能だ。一族に泥を塗ったお前は罪人当然。生涯ここで暮らし、その罪を償うがいい」

それまで優しかった父は豹変し、真知を家族から見放した。

「ごめんなさい、ごめんなさい…」

泣き叫ぶ真知の声は一切届かなかった。可哀想に思った使用人が真知の世話を試みたが、すぐに両親に見つかり解雇となった。

真鈴もこっそり姉の様子を見に行ったことがあったが、それもすぐに見つかり、離に近づくことを禁じた。

「いいか、あれは一族の恥だ。真鈴、お前はあの様にはあるな。これ以上、伊澄家を汚すことは一切許さん」

「…はい、お父様」

真鈴は優しい姉が大好きだった。何故、姉が離で暮らさなければいけないのか、どうして父と母は怒っているのか幼い真鈴には当時、理解ができなかった。

一度だけ、姉に会いたいと両親に頼んだことがあった。しかし許されず、文代に頬を叩かれた。

「真鈴は賢い子よね。あの無能とは大違い」

「お、お姉様の名前は無能なんかじゃ…」

恐怖を感じながらも真鈴は姉を無能と呼ばれることに反論した。だけど聞く耳を持ってくれない両親は真鈴に決まってこう言う。

「分かってくれるわよね?真鈴」

「はい、お母様」

母の重圧にこれ以上、反論はできない。それから真鈴は一切、姉に会いたいと言わなくなった。

離で過ごす真知は両親から神具の手入れを命じられる。

「無能でもこれくらいはできるでしょ」

文代は研ぎ道具と紙と筆を部屋に投げ入れた。一族のためにやれる事があると喜んだ真知だが、文代は使い方を教えることなく部屋を出た。

食事を運んでくれる使用人が書物を持ってきてくれた。真知はそれらを読んで神具の作り方を学ぶ。

要領が良かった真知はすぐに作業に取り掛かることができた。

刃こぼれした刀を研ぎ、浄化に使う御札を何枚も書いてく。そして出来上がったものは使用人が持っていく。

最後の過程である霊力を込める作業は真鈴や伊澄家の優秀な祓い人によって行われる。

真知は幼いながらも仕事をこなした。だが、少しでも不備があると両親から叱られ、食事を食べさせてもらえないこともあった。

「お前は霊力を持たないだけでなく、道具の手入れもまともに出来ないのか!?」

「ごめんなさいお父様。次はしっかりやります。許してください」

竹刀で何度も叩かれた身体には多くの青アザができた。痛みと空腹に耐えながら完璧な仕事をできるように、寝る間も惜しんで技術を磨いていった。

(出来損ないの私はお父様とお母様に愛されない。できるようにならなくちゃ。真鈴ともう一度お話ししたい)

真知は睡眠を削って両親に認められるように努力していった。しかし、どれだけ完璧に仕事をこなそうが、両親から名前を呼ばれることも褒められることも一度もなかった。

一方で、妹の真鈴に祓い屋としての英才教育受けていた。真鈴も真知と同様に要領がよく、若干10歳にして祓い屋の腕は吉武にも劣らず優秀な功績を残した。

「お前は一族の誇りだ。帝も鬼神もお褒めになっていた。父は鼻が高い」

「ありがとうございます、お父様。一族の名に恥じぬよう、これからも精神して参ります」

真鈴は聞き分けの良い子に育った。昔のようにわがままを言わず、両親が言ったことには素直に従っていた。

伊澄家の次女は才能に溢れ、母の文代に似て美しい女性だ。巷ではそんな噂が広がっていた。