クリスマスの日。桐生君から「花火を見に行かないか?」と誘われた。クリスマスに横浜港で花火が上がるらしい。
桐生君が部活の練習があって時間がギリギリだったから、最寄り駅で待ち合わせし、満員電車に揺られて横浜駅まで移動した。
駅はすごい人で、気を抜くと細身の僕は人の波に飲まれて桐生君とはぐれそうになる。そのため、桐生君に手を取られて、彼のコートのポケットに誘導された。
全ての指を絡める、いわゆる恋人繋ぎにしたのは、僕のほうからだった。
大桟橋もかなりの人混みだったが、どうにか空いている場所を見つけて座ることができた。
やがて遠くの闇にひゅるひゅると光の筋が上がり、夜空に大輪の花が咲く。近くで歓声が上がり、遅れて、どん、という音が聞こえてきた。
赤に紫に緑、ピンク。星の少ない都会の空を、いくつもの華が彩る。
いつか、病院で見た花火を思い出した。
あのとき一緒に花火を見た子達も、天国に行ったあの子も、今頃、どこかであの花火を見ているだろうか。今年の夏までは、自分が好きな人と一緒に花火を見る日が来るなんて、想像もできなかった。
そう思ったら、いつも以上に感動して、目頭が熱くなった。
恋愛だけでなく、将来のことも、ずっと思い描くことができなかった。心臓の発作を起こすたびに、自分は大人になれないのではないかと思っていたから。
最近になって医学部を目標に定めたのは、再びサッカーを始めて、レギュラーを目指して頑張っている桐生君の姿に、勇気をもらったからだ。
ふと、桐生君がこちらに顔を向けた。
泣いていることに気づかれたのか、その顔が、上から覗き込むように近づいて来る。
視界の隅で花火が上がる。やがて人影がそれを覆い尽くし……、唇に柔らかいものが触れた。
一瞬押し付けられただけで、すぐにそれは離れていく。
続きは人がいないところで、な。――耳元で囁くと、揶揄うように片頬を上げ、桐生君は視線を空へと戻した。
痛いくらいに鼓動が速くなった胸に手を当て、僕も顔を上げる。
花火を見ながら、僕は秘かに、来年の夏休みに心臓の手術を受ける決意を固めていた。彼の隣にいたら、僕の心臓はこれ以上もちそうにないから。

