コトリカゴ

「相変わらず、来るのギリギリだなぁ」

 しししと意地悪そうに笑う彼は、幼稚園来からの友人だ。
 緩いパーマの掛かったセンターパートの髪型は、モテを意識しているらしい。身長は俺よりは低いが、バスケをしているので細く、それなりに引き締まった体をしている。

「移動時間を考えれば、これがベストなんだよ」

「いやいや。俺だって柊雨と同じ時間掛かってますからね?」

「智喜は朝練があるからだろ。それにしてもよくやるよなぁ」

 俺だって朝は5時半に起き、6時50分頃には莎菜を迎えに行っている。
 それでも智喜はそれ以上に早く。6時10分の始発には乗っているんだから、素直に感心する。

「そうだろそうだろ~? もっと敬いたまえ。って、まぁ俺がバスケしたいから、この学校を選んだんだけどな」

「智喜のバスケの上手さは知ってるよ。球技大会、期待してる」

「任せとけっ!」

 来週に控えた球技大会が楽しみであることを伝えれば、智喜は親指を立ててにっと笑った。

 ――そう。幼稚園来から一緒と言うことは、智喜も同じ村の出身。壊滅的に子供が少ない村での唯一の同級生で、唯一無二の遊び友達だった。
 智喜が中学から本格的にバスケを習い出すまでは、本当に毎日遊んでいた。
 良いことも悪いことも。楽しいことも悲しいことも。時にはケンカもして、村の事情を知る、数少ない理解者と言っていい。

 HRの始まるチャイムを聴きながら、リュックの中からノートや筆箱を取り出していると、ふいに唐突な問いが振られた。

「そう言えば、聞いた?」

「何を?」

 ん? と顔を上げると、智喜の顔から笑顔が消えていた。

横井(よこい)のじいちゃん。もうダメかもって」

 それについて口を開こうとして、担任が教室の中に入ってきた。

「始めるぞー。座れー」

 まだ席に着いていなかったクラスメイト達が、一斉にそれぞれ自分の席に戻っていく。

「また後で」

「あぁ」

 そう言って智喜も戻っていき、力の抜けた担任の声が、今日1日の学校の始まりを告げた。