そう言うとこが、昔ながらの田舎にはあるあるの悪習だよなぁと思いながら、庭の中に入り、自転車を止めた。
自分の家の庭は土が広がるだけの殺風景。でもここの庭は、季節によって様々な花が咲いている。
今日はバラやボタンの花が咲き、大きなプランターには苺の小さな花が咲いていた。
また古民家のような自分の家とは違い、ここの家は数年前に建てられたばかり。白を基調とした洋風な造りはそれだけで、見た目を引く可愛らしさがあった。
池田の表札の下にあるインターホンを鳴らそうとして、あっと声を掛けられる。庭の端で洗濯物を干していた女の人が、手を止めてこちらを見た。
「柊雨君、おはよう。もう用意は出来ていると思うから、呼んで来るわね」
「ありがとうございます」
おはようございますと挨拶して、軽く会釈する。
洗濯カゴをそのままに、ショートカットの女の人は勝手口から中に入っていった。
――いつ見ても綺麗な人だよな。
とても、俺の母親と同い年とは思えない。
母親が特段老けていると言う訳ではない。母親も40を越えているようには見えず、年齢を伝えれば必ず驚かれる。
それでもさっきの女の人はそれ以上で。若々しいと言うか何と言うか、まだ20代ですと言われても通用するものがあった。
それにしても、今日は天気がいい。まだ夏ではないとは言え、ゴールデンウィークが過ぎてからの気候が尋常ではない。
山の中の田舎、昔はもう少し涼しかった気がするのにと思いながら、額に滲み出てきた汗をハンカチで拭った。
玄関扉の向こう側から音が聞こえてきて、やがてガチャリと開く。
「柊雨君、お待たせ。おはよう」
出てきたのは胸まである黒髪に、セーラー服姿の女の子――俺の彼女だった。
「おはよう」
穏やかに微笑んで言う。すると彼女の背後から、小さな男の子がひょこっと姿を出した。
「柊雨兄ちゃん、おはよう!」
言うと同時に走り寄って来て、足に抱き着いてきた。茶色い指通りの良いさらさらな頭に手を置いて、名前を呼んだ。
「おはよう。維織」
「ねぇ柊雨兄ちゃん。今日学校から帰ってきたら遊べる?」
「うーん、遊べなくはないけど、そこまでの時間はないと思うよ。それなら土曜日はどうかな?」
「うん、それでいいよ! やった!」
「こら維織。柊雨君を困らせないの」
「でも柊雨兄ちゃんが言ってくれたもん」
そう言ってしゅんと落ち込むので、慌てて言葉を挟む。
「俺は大丈夫ですよ。維織君と遊ぶの楽しいですから」
「柊雨君本当にありがとうね。お礼に美味しいお菓子を用意しておくわ」
お構いなくと言いたいところではあるが、断っても用意してくれることは長年の付き合いで分かっているので、ありがとうございますと言っておく。
「柊雨君、いつもありがとうね」
今度玄関ホールにやって来たのは男の人。この人もまた、爽やかな若いお父さんだった。
「今日も莎菜のこと、よろしく頼むよ」
「はい」
俺達の付き合いはほぼ親公認みたいなものだった。有難いことにすごく信頼してもらっていて、お父さんからは顔を合わせれば、莎菜のことを頼むと言われた。
「もう、維織もお母さんもお父さんも。遅刻しちゃうから行くよ」
ここで莎菜が言うと、皆がそうだったと我に返る。
「じゃあふたり共、気を付けてね」
「維織、幼稚園に送っていくから、用意しなさい」
「はーい。柊雨兄ちゃんまたね~」
「あぁ、土曜日にな」
維織に手を振り、うさぎのキャラクターが描かれたトートバッグを、自転車のカゴの中に入れる。サドルに座ると、莎菜は器用に後輪の軸の部分に立ち、俺の肩の上に手を乗せた。
「行くよ」
「うん」
こうして何の違和感もなく、学校に向けて出発した。
自分の家の庭は土が広がるだけの殺風景。でもここの庭は、季節によって様々な花が咲いている。
今日はバラやボタンの花が咲き、大きなプランターには苺の小さな花が咲いていた。
また古民家のような自分の家とは違い、ここの家は数年前に建てられたばかり。白を基調とした洋風な造りはそれだけで、見た目を引く可愛らしさがあった。
池田の表札の下にあるインターホンを鳴らそうとして、あっと声を掛けられる。庭の端で洗濯物を干していた女の人が、手を止めてこちらを見た。
「柊雨君、おはよう。もう用意は出来ていると思うから、呼んで来るわね」
「ありがとうございます」
おはようございますと挨拶して、軽く会釈する。
洗濯カゴをそのままに、ショートカットの女の人は勝手口から中に入っていった。
――いつ見ても綺麗な人だよな。
とても、俺の母親と同い年とは思えない。
母親が特段老けていると言う訳ではない。母親も40を越えているようには見えず、年齢を伝えれば必ず驚かれる。
それでもさっきの女の人はそれ以上で。若々しいと言うか何と言うか、まだ20代ですと言われても通用するものがあった。
それにしても、今日は天気がいい。まだ夏ではないとは言え、ゴールデンウィークが過ぎてからの気候が尋常ではない。
山の中の田舎、昔はもう少し涼しかった気がするのにと思いながら、額に滲み出てきた汗をハンカチで拭った。
玄関扉の向こう側から音が聞こえてきて、やがてガチャリと開く。
「柊雨君、お待たせ。おはよう」
出てきたのは胸まである黒髪に、セーラー服姿の女の子――俺の彼女だった。
「おはよう」
穏やかに微笑んで言う。すると彼女の背後から、小さな男の子がひょこっと姿を出した。
「柊雨兄ちゃん、おはよう!」
言うと同時に走り寄って来て、足に抱き着いてきた。茶色い指通りの良いさらさらな頭に手を置いて、名前を呼んだ。
「おはよう。維織」
「ねぇ柊雨兄ちゃん。今日学校から帰ってきたら遊べる?」
「うーん、遊べなくはないけど、そこまでの時間はないと思うよ。それなら土曜日はどうかな?」
「うん、それでいいよ! やった!」
「こら維織。柊雨君を困らせないの」
「でも柊雨兄ちゃんが言ってくれたもん」
そう言ってしゅんと落ち込むので、慌てて言葉を挟む。
「俺は大丈夫ですよ。維織君と遊ぶの楽しいですから」
「柊雨君本当にありがとうね。お礼に美味しいお菓子を用意しておくわ」
お構いなくと言いたいところではあるが、断っても用意してくれることは長年の付き合いで分かっているので、ありがとうございますと言っておく。
「柊雨君、いつもありがとうね」
今度玄関ホールにやって来たのは男の人。この人もまた、爽やかな若いお父さんだった。
「今日も莎菜のこと、よろしく頼むよ」
「はい」
俺達の付き合いはほぼ親公認みたいなものだった。有難いことにすごく信頼してもらっていて、お父さんからは顔を合わせれば、莎菜のことを頼むと言われた。
「もう、維織もお母さんもお父さんも。遅刻しちゃうから行くよ」
ここで莎菜が言うと、皆がそうだったと我に返る。
「じゃあふたり共、気を付けてね」
「維織、幼稚園に送っていくから、用意しなさい」
「はーい。柊雨兄ちゃんまたね~」
「あぁ、土曜日にな」
維織に手を振り、うさぎのキャラクターが描かれたトートバッグを、自転車のカゴの中に入れる。サドルに座ると、莎菜は器用に後輪の軸の部分に立ち、俺の肩の上に手を乗せた。
「行くよ」
「うん」
こうして何の違和感もなく、学校に向けて出発した。

