コトリカゴ

 濡れた手を伸ばし、掛けてあるタオルを取る。洗った顔を拭いた俺は、鏡を見てふぅと息を吐いた。

 肌の調子がいいこと。髭なんかの不潔さがないことを確認して、よしと呟く。短めのマッシュボブの前髪を軽く整えてから、使ったタオルをカゴの中に放った。

 今時の男は――なんて言う人もいるが、年頃の高校生男子にもなれば、それなりに身なりに気を遣うようにもなる。
 見て、あの人鼻毛出てる。なんてのはもってのほかで、笑い者になるのは御免だし、やっぱり良く思われたい。

 とは言え、鏡の前で20分も30分も立つ訳ではなく、最低限の身だしなみをして、縁側の廊下を歩いた。
 古い昔ながらの木造の平屋。歩けばギシギシと、木が軋む音が鳴る。

 そこを通り居間に入る。母親が食事の準備をしていて、こちらに気付いていなかった。

「おはよう」

 声を掛けると、母親はあら? 言った感じで振り返る。

「おはよう、柊雨(しゅう)。ご飯炊けてあるからよそってね」

「分かった」

 振り返った際に落ちた前髪を耳にかけ、母親は再びコンロの方に向き直る。
 机の上に置いてあった茶碗を手に取り、言われた通りにご飯をよそった。


 朝はしっかり食べなさいと言う方針の母親のおかげで、どんなことがあっても朝ご飯はきちんと摂るようになった。そう言う方針だからこそ母親も早くに起きて、朝からすれば豪華なご飯を作ってくれる。

 塩鮭に目玉焼き。ほうれん草とにんじんの胡麻和えに、わかめとたまねぎの味噌汁。小鉢にキムチと梅干しが用意されている。そこに炊きたてのご飯を並べ、いただきますとお箸を取った。